第54話 襲来、四天王
先の一件以来、子供達の修行に対する姿勢が変わってきた。
今までは親の教育による『魔法とはこうである』、という固定観念に縛られていたのだが、俺が魔法の可能性を実戦で見せた事によって、子供達はこうしても良いんだ、じゃあこうしてみようというトライ精神に
目覚めたのだ。
それからの子供達の成長は凄まじく、俺の教えをスポンジが水を吸うように吸収していった。
始めの頃は初級魔法を只使えるだけだったが、今では中級魔法使い並みの実力にまで成長していた。
「ファイアランス!」
イブンの炎の槍が的の真ん中を貫く。的は丁度真ん中の円だけがぴったり空洞になる大きさに調整されていた。
「ウォーターニードル! リリース!」
イタカの針の魔法が的に当たった後、圧縮解除の呪文が唱えられ看板が内側から爆ぜて爆散した。
「サウンドボム!」
アトラが魔法を発動させると突然的の手前から激しい音が聞こえた。まぁコレは相手を驚かせたり耳を使えなくする魔法なので的を破壊する必要は無いのだが。
「ちぇー、壊れなかったかー。音の衝撃で割りたかったのになー」
音波爆弾でも作るつもりかあいつは。
そんな恐ろしい音量の魔法が耳元で炸裂したら心臓麻痺で近くの味方が死ぬかも知れんぞ。
「ロックビースト」
バルザの魔法は他の三人とは一味違っていた。
なんとバルザは土の魔法を使って獣型の操り人形を作ったのだ。
移動にも攻撃にも使えるその人形は非常に利便性が高く、その発想からもバルザが他の三人よりも頭一つ飛びぬけている事を示していた。
「行け!」
バルザの命令に従い、獣が的を真っ二つに切り裂く。
バルザはドヤ顔で笑みを浮かべているが、正しくは的の真ん中の穴を狙う訓練なんだよなぁ。
まだまだ未熟ではあるが皆大分使える様になってきたな。
ただコイツ等には根本的に問題が在るんだよな。
というのも、コイツ等はずっと一種類の魔法しか使えないと教えられてきた所為で、他の属性の魔法が上手く発動できないのだ。
こればかりは自分でコツを掴むしかないのでじっくり取り組むしかない。
これならば一応は戦場に出しても大丈夫なラインだろう。
◆
その日は訓練を始める前に冒険者ギルドに呼び出されていた。
ギルドに到着すると直ぐに支部長室に連れて行かれる。
「来てくれたか」
既に支部長室に居たハイダニが疲れた顔を少しだけ和らげる。
「イキナリですまんが、子供達の教育はどうなっている?」
本当に突然だな。
これはそれだけ急を擁する事態事件と言う事か。
「最低限の教育は行いました。命中率を上げる訓練を重点的に行ったおかげで味方への被弾を可能な限り減らしました。次に攻撃力に関してですが、こちらは訓練の甲斐あり中級魔法に近い威力の魔法を使えるまでになりました」
支部長室におおっ、と安堵の声がする。
「いやこの短期間でよくやってくれた。お陰でこれからの戦いが随分と楽になる」
「恐縮です」
ハイダニが笑顔を見せるが、その笑顔はまだまだ硬いものだった。
明らかに何かあるって言ってるな。
「それで、何があったのですか?」
俺が言葉を促すと、ハイダニも隠すのをやめたのか正直に話し始めた。
「実はな、ここの海岸から東に20km先に魔族が軍隊を集めて居るのだ」
「それは何時もの事では?」
「いや、今回は規模が違う。数にして約三倍、大型の魔物の姿も確認された。しかもまだ集まっているそうだ。恐らくだが、最終的には4~5倍の数になると予測された」
4~5倍か。ちょっと、いやかなりまずいな。
「そう言うわけで戦力は一人でも欲しかったのだよ」
成程。正に猫の手も借りたい状況って訳だ。
「コレまでで一番の激戦になるのは想像谷だに難くない。君と君の弟子達の力を期待しているぞ!」
責任重大になってきたな。
「ではこちらも敵に対抗して準備を行いましょう。少しでも戦いを楽にする為に。大陸から来た魔法使いを全員お貸し戴きたい。敵が到着するまでにしておきたい事がありますので」
「いいだろう、部隊が隊列を組む時間までは預けよう」
さーて、忙しくなるぞ! 俺はハイダニの命令で集まってきた魔法使い達に指示を出して、浜辺に迎撃用の魔法陣を仕込ませる事にした。
◆
敵の軍隊が視認できる距離まで近づいてきている。
だがこちらも様々な準備は完了。部隊の配置も完了している。後はぶつかり合うだけだ。
「諸君、今回の侵攻はコレまで以上のものだ。だが逆に、コレだけの軍勢を動かせば、撃退した際は軍の建て直しの為に暫くは動けなくなる。その為にも各員の一層の健闘を祈る。以上だ」
ハイダニの演説が終わり、観測手がハイダニに敵の情報を耳打ちする。
「そろそろイドネンジアと魔族の戦力がぶつかる。我々の担当するこの浜辺周辺も数分後には戦闘に突入する。それでは総員構え!」
ハイダニの号令で全員の意識が戦闘モードになる。
「敵影見えました!」
観測手が遠見筒で魔族が視界に入った事を報告する。
「魔法使い隊用意!」
俺の指示に従い魔法使い達が魔法を発動させてゆく。
しかし現在の距離ではまだ魔法は届かない。
「魔法使い隊射程入りました!」
「まだだぞ、もっと引き寄せるんだ! ……もう少し……今だ、撃て!!」
「サンダーランス!!」
「ファイアランス!」
「エアリアルアロー!!!」
「エクスプロードボム!!」
何人もの魔法使いが魔法を発動させる。
魔法は敵陣深くまで放たれた。全員が遠くまで届くように魔法を発動させている。
コレはダメージを与える為ではなく、相手の鼻っ面に先生パンチをぶち込んでひるませる為のものだ。
「何!?」
突然観測手が驚きの声を上げる。
「どうした? 何があった!?」
ハイダニが観測手に詳細な報告を命じる。
「そ、それが……魔法使い隊の攻撃が全て防がれました。突然水が壁の様に吹き上がり、彼等の魔法を全て受け止めてしまったのです」
「な、何だと!?」
部隊が驚きに包まれる。
今までそんな事は行われたためしが無いからだ。
敵は強力な防御魔法の使い手を実戦に投入してきたようだ。
と、そこで魔族側から声が響いてきた。
恐らく風魔法でこちらに声を届かせているのだろう。
『ふはははははははははははっ!!! 俺の名はマズロズ!! 魔王四天王が一人、水のマズロズ様だ!!』
何かカマセっぽいの来たー!!
『我が水魔法を以って貴様等の貧弱な魔法を全て無力化してくれるわ!』
なるほど、さっき報告に会った水の壁ってのはこれの事か。
俺はハイダニの元へ行き彼に言った。
「敵の対象は俺が引き受けます、皆さんは敵の上陸阻止を」
「できるのか?」
ハイダニは俺が一人で闘う事に否定的みたいだ。
「ヤツを倒さなければ魔法が封じられてしまい戦力が激減です。私が押さえに回る事で魔法使い達をフリーにします」
あの水の壁は厄介だ。 だからアレを使わせないように俺が敵の妨害をしなければならなかった。
「分かった。敵の大将は任せる。だが無理はしてくれるな。君がいなくなったら皆困るからな。あくまでも敵の妨害に勤めてくれたまえ」
「承知しました。これよりバーザックは敵大将の妨害に向かいます!」
南海の決戦が幕を開ける。
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