第27話 ぶらり徒歩の旅
町を出た俺達はのんびりと徒歩で次の町へと向かっていた。
本当なら馬か何か乗り物が欲しかったのだが、馬がメリネアを恐れてパニックを起こしてしまったのだ。
馬を買いに来た若者と超絶美少女、そして超絶美少女を見た瞬間馬達がガクガク震えて泡を吹きながら失神。
もう阿鼻叫喚の光景である。
何故は馬主はメリネアの余りの美しさに馬が耐えられなくなったとか判断しちゃうし。
まぁ見た目は超絶美少女だから仕方ないね。
メリネアの話では、見た目が変わってもドラゴンの本質は変わらないから馬が怯えたらしい。
と、言うか見た目を変えただけでここまで本質が理解できなくなるのは人間くらいのモノらしい。
人間がいかに鈍感で見た目の印象に左右される生き物か分かるというものであろう。
そう言うわけで馬は諦めた。
だが荷物が多いので、俺は大八車を買う事を決定した。
ドラゴンの骨と鱗、それに俺達の食事だ。
特に食事はメリネアが異様に食べるので相当なストックが必要になる。
どうもメリネアは人間が調理した食事を気に入ってしまったらしい。
「人間の作るご飯ってとっても美味しいわ」
「それは何より」
という訳で調理器具一式と調味料も大量に仕入れた。
こうなると雨で食材が濡れると困るので屋根もつけてもらった。
何だこの移動食堂、屋台かよ。
「それにしても人間って面白いのね」
「そうですか?」
「ええ、鱗もないし翼も無い、爪もないし牙も無い。おまけにブレスは吐けないし足も遅いし反応も遅い。魔法もごく一部しか使えないし、今だってこうやって小さな身体でゆっくりとしか移動できない。びっくりするぐらい不便な体だわ。どうしたらこんなに不便な身体で生きて行けるのかしら?」
いやーそんな事言われてもなぁ。
ドラゴン様の視点からの発言ですわ。
これはもう異世界人がどうとかそういう問題じゃない。
「人間は同種の生き物の仲では比較的自由度の高い生き物ですよ」
エルフにドワーフ、獣人に小人、巨人に魚人と人型の種族は多いが、大抵の種族は優秀な特性を持っているが、その逆に弱点となる特性も併せ持っていた。
エルフは魔法や弓に優れているが肉体は強靭では無いとかね。
ただしエルフには森の加護があるので、森の中ではかなりのハイスペック生物になる。
寧ろ森から出ると弱体化する生物といった方が正しいのかもしれない。
ドワーフは細工が器用でやたらと頑丈なので白兵戦が得意だが、定期的にアルコールを摂取しないと生活が困難になる種族だ。恐らく酒のなかの成分が地力で生成できない種族なのだろう。
そんな感じで種族毎にメリットとデメリットがあるのだが、人間だけは目立った部分が無い代わりにコレといった欠点も無かった。あえて言えば性欲が異常に強くて複数の種族と混血するのと種族的な性格の触れ幅が広い事だ。
そう考えると人間は身体能力を平均にする代わりに精神に欠点を持っている種族なのかもしれない。
あとこの世界のオークは紳士なので性欲の強さは人間が一番だったりする。
更にこの世界のオークは豚や猪の獣人に分類されるのでかなり綺麗好きだ。
で、雑食なので人間に次いで食の発展に力を注いでいる。
間違ってもオーク=エロと勘違いしてはいけない。
他の種族に関してはまた別の機会に説明させてもらおう。
「やっぱり人間達って面白いわ。それとも不便だからここまで発展したのかしら?」
鋭い意見が出る。確かに人間は不便だからこそ発展したと言える。
地球ほどではないがこの世界の人間も不便だから己の技術を鍛え文明を発展させてきた。
人間は不自由が多い方が成長できるのかもしれない。
と、そこでメリネアのお腹がクーと鳴る。
どうやらお腹が減ったらしい。
「食事の準備をしましょうか」
俺は屋台を地面に固定して調理器具を準備する。
調理台を展開して魔石コンロを準備。
鍋で大量にタレを作る事から始める。
メリネアはとにかく食べるので即出来上がる料理が好ましい。
なのでシンプルにカットした肉を焼いてそれにタレを付けて食べる焼肉にした。
「メリネア様。人間は生肉は食べない生き物ですので絶対に煮るか焼くかされたモノだけを食べてくださいね」
「分かったわ」
生肉は怖いからね。怖いんだよ。
それにこの世界では地球のいや、日本ほど衛生環境は宜しくない。
近隣の国家が寿司で食中毒を起こす事を考えれば、寧ろ日本の衛生管理が異常に厳しいお陰と理解できる。
其処から考えれば文明レベルが高くないこの世界の衛生管理はお察し下さいという訳だ。
この世界はスキルと魔法が在るから地球ほど科学が発展していないのが原因だろうな。
困ったら毒消しの魔法や病癒しの魔法で何とかなるからだ。
だがそういう魔法を使える人間は貴重なので代金はかなり高い。
更に彼等でも治せない病気がある。
俺はそう言う治せない病気は寄生虫では無いかと考えている。
だってドラゴンが死ぬんだぜ! 寄生虫の発する毒素を一時的に解除しても体内にいる限りまた毒素を発生させる。
そんでその時に術士が居なければ間に合わず死んでしまうだろう。
俺の様に。
だから生はいけない。絶対に。
「出来ましたよ」
「うーん、やっぱり人間の食べ物は美味しいわ」
メリネアがご機嫌で焼肉を大量消費してゆく。
恐ろしい勢いだ。ドラゴンだった時よりも食べてね?
残ったタレは残しておいて次回のタレに足して味を深めようと思ったんだがなぁ。
「美味しいわー」
ほっこりとした笑顔で言われては食べるなとも言えず、俺は仕方なく肉を焼き続けた。
ふと思ったんだが、これって今後も俺が食事担当になるのだろうか?
◆
夜になったので野宿の準備を始める。
と言っても、屋台が在るのでコイツの中をベッドにして眠るから大した準備は必要ない。
中に毛布を敷いて眠るだけの簡単ベッドですよ。
いわば移動する家、キャンピングカーと言っても過言ではない。
人力だけどな。
だがそんなささやかな休息を邪魔する無粋な影が近づいてきた。
「あの馬鹿でかい荷車の中にドラゴンの骨があるのか」
「それに連れの女はかなりの美人らしい。貴族に売れば大金が手に入るぞ」
「いいね、ヤル気が増して来たぜ」
「いらんわそんなヤル気」
俺は興奮する男の首を手刀で刎ねる。
「なっ!?」
突然の襲撃で男の仲間達が動きを止める。
直ぐに逃げれば良いものを。
「この人間は食べても良いのかしら?」
「そんなのを食べたらお腹を壊しますよ。獣のエサにしてください」
「はーい」
男達の後ろに音も無く降り立ったメリネアがのんきに返事をする。
突然聞こえてきた場違いにのんきな声に男達が振り向こうとするが、時既に遅し。
男達の胴体は、メリネアの手刀で横薙ぎに真っ二つとなってしまった。
「本当に人間って脆いのね」
まるで初めて豆腐を握りつぶしてしまった子供みたいな顔で驚くメリネア。
「今の俺もかなり脆いので気をつけてくださいね」
「大丈夫よ。貴方は特別大切に扱うから」
扱われるのか。ゴクリと俺は喉を鳴らす。
とりあえず一人は生かしておいて誰から俺達の事を聞いたのか問い質さないとな。
「……しまった」
うっかり全員殺してしまった。
龍魔法手加減できねぇよ。
ああ、今後は何とか手加減して殺さない方法を見つけないといけないな。
仕方が無いので賊の死体をエサにしてを朝食をおびき寄せました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます