第63話 勇魔同盟

 背後から武器で脅されつつも、俺は勇者達との交渉のテーブルに付く事に成功した。

 焚き火のある場所まで進ませられると、そこには黒髪の若者達がいた。

 後ろの勇者も含めると4人か。


「何故俺達が日本人だと知っている?」


 勇者の一人が口を開く。


「簡単さ、君達と同じメリケ国の勇者が教えてくれたんだよ」


「俺達の中に裏切り者が居るってのか!?」


 成程、そっちで考えたか。


「逆だよ、メリケ国が君達を裏切っていたんだ。最初からね」


 とにもかくにも勇者達が興味をそそる話題を提供していかねば。


「君達はメリケ国の王によって地球という世界の日本という国から召喚された異世界人。それであっているね?」


「……そのとおりだ」


 ここであえて地球を惑星ではなく世界と間違えておく。そうする事で俺が誰かから聞いたと勘違いさせる為だ。間違っても自分のスキルの事を教えたりはしない。


「君達は勇者として選ばれ、この世界を襲う邪悪な魔族と闘ってほしいといわれた」


「そうだ」


 ここで彼等の知らない情報を公開しよう。


「率直に言おう、君達は日本に帰る事は出来ない。もっと詳しく言えば君達を日本に帰す送還術式は存在しない」


「「「「っ!?」」」」


 まぁ、普通に考えたら故郷に帰れないと言われたら動揺するわな。


「い、いい加減な事を言うな!! 魔法使い達は魔族を倒したら帰してくれるって言ってたぞ!」


 後ろにいる勇者が俺の背中に固いものを押し付ける。

 けどそれは不安の裏返しだ。本当に帰してもらえるのか、自分でも疑わしいと思っているから声が大きくなるんだ。


「それは何時までだ?」


「何っ!?」


「何時まで戦ったら帰してもらえるんだ? 君達にはこの世界で我々と命を掛けてまで戦わないといけない理由が在るのか? 無いのなら素直に帰してもらえば良いじゃないか。君達にも生活があるだろう?」


「そ、それは……」


 背中に押し付けらたモノの圧力が弱まる。


「それに、この世界での戦いで死んだ者も居た筈だ」


「お、お前達が殺した癖に偉そうに!!」


 チクリとした痛みが背中に走る。どうやら興奮のあまり、押し付けすぎて刃物の先端が刺さってしまったらしい。

 だが堪えられない痛みではない。


「そうだな、我々は君達をメリケ国の兵士だと思っていた。異世界から誘拐されて戦う事を強要されている被害者だとは知らなかったんだよ」


「言い訳のつもりか?」


 正面の勇者が語りかけてくる。この声は硬い。


「いや、事実を言っただけだ、そして我々の仲間が君達の仲間を殺した事もまた事実だ。それは謝罪しよう」


 この会話で俺達魔族が勇者と呼ばれる人間は、メリケ国によって迷惑を被っている被害者だとは知らなかったという事を明言しておく必要がある。


「君達は強力な戦闘用スキル目当てで異世界から誘拐されてきた被害者だ。そして同時に召喚された戦闘系以外のスキルの所持者、スキルを持たない者は出来損ないとして処分された。更に君達も前線で戦わされ続けるばかりで、何時まで経っても地球に帰してはもらえない。同郷の仲間が隣で死んで行く姿を見て帰りたくなった者は多い筈だ」


 彼等はあくまでも救いを求められ、そして強力なスキルがあったからこそ戦ってこれた訳で、そこに己の死がチラついてくれば、不安を抱かない訳が無い。

 中には故郷に帰してくれと言ったヤツも居た筈だ。

 現に目の前の勇者達は俯いてしまった。


「確かに、日本に返してくれといっても魔族を倒したらといわれるばかりだ。一緒に戦うこの世界の人達を見捨てる訳には行かないから今まで共に戦ってきた訳だが……」


 どうやら彼等は善良な人間らしい。いや、不安を使命感で覆い隠してきたのだろうか?


「ここからが本題だ。今回の事件の元凶を打ち倒して、日本に戻れるかも知れない方法を手に入れたくはないか?」


「「「「何だって!?」」」」


 まさかの提案に勇者達が驚きの声をあげる。


「我々魔族は、自分達の住んでいた世界から命の源ともいえる魔力が枯渇寸前になる現象に襲われた為に、こちらの世界に逃げ出してきたんだ。さて、そこで質問だ。我々はどうやってこちらの世界にやって来たと思う? ヒントは君達がこの世界に召喚された方法だ」


「俺達をこの世界に召喚した魔法がヒント?」


「っ! つまり異世界にワープする魔法があるって事か」 


 察しの良い勇者が俺の言いたい事を理解する。


「じゃあそれを使えば俺達は日本に帰れるんだな!?」


 喜び勇んだ勇者が俺の肩を掴んで確認してくる。


「そこまで便利じゃあない。だが次元転移の魔法を応用すれば君達の世界への扉を開く事もできるだろう。少なくとも、メリケ国に従い続けるよりはよっぽど帰れる可能性が高いぞ」


 勇者達は顔を見合わせて相談を始める。


「……信用できるのか?」


「だがメリケ国も……」


「他の勇者が……」


 考えるが良いさ、どの道勇者達には元の世界に帰る方法なんて無い。だとしたらいずれは俺の話を聞かざるを得ないのだから。

 相談が終わったらしい勇者達がこちらに向き直る。


「まだ大事な事を聞いていない」


「何が聞きたい?」


 聞かなくても分かるけど。


「諸悪の根源とは一体誰だ?」


 だよね、まずはそこを聞かないと。


「魔族の第一王位継承権を持つ男、この世界を侵略して魔族の世界にしようとしている強硬派の旗印」


 一端、間を溜めてから俺は言った。


「第一王子ルシャブナを殺害し、穏健派に魔族の指揮権を握らせてこの世界の住人達と和平交渉を結ばせる。それが俺の狙いだ」


「っ!? 仲間を殺すつもりなのか?」


 驚かれた、元凶の存在よりも同族殺しを驚くのか。


「人間だっていろんな考え方の奴がいるだろう? 元々魔族は穏健派の王がこの世界の住人に迷惑をかけないようにひっそりと生活していたんだ。だが王が倒れてからは強硬派の第一王子が指揮を取って戦争が始まった。魔族全員が戦いを望んで居るわけじゃないんだよ」


「…………わかった。その言葉を信用しよう。俺達も戦争が続く事は望まない。俺はカズマ、キタガワカズマだ。ここにいない勇者達にも君の提案を伝えよう」


「バグロムだ。宜しく勇者カズマ」


「……俺はケンイチだ。シドウケンイチ」


 後ろにいた勇者が背中に当てていた剣を下げて名乗ってくる。


「宜しく勇者ケンイチ」


 それを聞いたケンイチが嫌そうな顔をする。


「やめてくれ。勇者なんていわれるとチープなTV番組を思い出すんだよ」


「TV番組?」


 あえて分からない様にオウム返しに質問する。分かるけどな。


「ああ、いや忘れてくれ」


「俺はタツミだ。俺も勇者は要らないぞ」


「ボクはジュンヤ。勇者はちょっと恥ずかしいよね」


「いやいや、君達は勇者になってもらわねば困る」


 勇者呼ばわりを恥ずかしがる彼等に俺は芝居がかった物言いをする。


「君達には二つの世界を救う勇者になってもらわねばならないからな」 


 こうして、魔族と勇者の秘密の同盟が結ばれた。

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