第52話 魔法使いの弟子達

 冒険者ギルドから、イドネンジアの魔法使い達の指導を依頼された俺だったが、なんとその生徒達は小さな子供達だった。


「よろしくお願いします、先生!」


 正直驚いた。戦場でフレンドリーファイアに近い事をやらかしたって聞いたから大人の魔法使いかと思っていたのだが、なるほど確かに子供に助けられたのなら多少荒っぽい手段だったとしても強くは言えないか。

 けど、子供を戦場に出すって事はこの国はかなり危ないのか?

 ちらりと支部長であるハイダニを見ると、方をすくめながら説明をしてくれた。


「この国の伝統でな、貴族は率先して闘うものなんだとよ」


 成程、伝統と言うヤツか。

 戦闘経験が怪しいのも子供なら理解できる。

 しかし大人と違って子供なら変な癖がついていない分指導し易いだろう。


「承知しました。出来る限りやってみましょう」


「ああ、頼む。君達、これからは彼に従って行動してくれたまえ」


「承知いたしました!」


 貴族だからか随分とキビキビした子供だ。


「では自己紹介といこうか。私はザーバック、只の魔法使いだ」


 宮廷魔導師云々は言わなくても良いだろう。


「私はイブン=カジーと申します。カジー家次期当主で使用する魔法は火属性です!」


 最初に挨拶してきた子供が背筋を伸ばして名乗ってくる。


「ボ、ボクの名前はイタカ=スイカと言います。スイカ家の次期当主です。使用する魔法は水属性です」


「ワタシはアトラ=タツマ! タツマ家の長女です! ワタシの魔法は風属性です!」


「わたくしはバルザ=ジワレ。ジワレ家の6女で扱う魔法は土属性です」


 なるほど、全員得意分野がバラけているのか。


「得意分野は分かった。それで全員どの位魔法が使えるんだ? 種類は? 等級は?」


「は?」


 俺がどれだけ魔法に対し習熟しているのかと聞くと、何故か子供達は首を傾げてしまった。


「どれくらい、と言われましても……僕達はこれしか使えませんが……」 


 なぬ?


「先生は魔法が二つも使えるんですよね! 凄いです!! 私魔法が二つも使える人初めて見ました!!!」


「ワタシもです」


「わたくしも」


 ま、まさかコイツ等……本当に一種類の魔法しか使えないのか!?

 しかも初めて見た?


「念のために確認させて貰うが、君達の周りで魔法が2種類以上使える人間は居ないのかい?」


「「「「はい!!」」」」


 ハイ、魔法後進国決定ぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 何てこった、この国は島国な所為で魔法の進歩がぴったりと止まっていたって訳ですか!

 コレは戦術云々以前に根本的な所から教育し直さないといけないぞ。

 ああいや、まずは依頼どおり最低限の戦い方を教えないと。

 という訳で『味方に当てない』という最低限のルールを教え込む事から始めるとするか。


  ◆ 


 俺は子供達を浜辺に呼び出した。


「ではこれより君達のテストを行う。内容は簡単、あそこにある的に攻撃して真ん中に当てれば合格だ」


 俺は砂浜に丸を3つ書いた看板板を突き刺して子供達に狙わせた。


「任せて下さい! ファイアーボール!」


「い、行きます、ウォーターボール!」


「いっくわよー! ウインドボール!」


「行きます、ストーンボール」


 見事に全員同系統の下級魔法だった。

 そして魔法が炸裂する。

 イブンは見事に外してそのまま海へ行き、海から突き出している岩を破壊した。

 イタカは一番外の円に当たったが的を斜めにしただけ。

 アトラは的の根元に当てて砕いた。

 バルザはギリギリ的の中心からズレたものの、2番目の円に傷をつけていた。


 結論、使い物になりません。

 イブンとアトラは威力はあるが狙いが駄目。

 イタカとバルザは狙いは悪くないものの威力が無い。

 そもそも子供の使う魔法だから仕方ないといえば仕方がない。


「どうでしょうか先生!!」


 イブンが何故そんなに自信満々なのか分からないくらいキラキラとした目で俺に聞いてくる。


「はっきり言って全然駄目だ。全員私が許可するまで実戦を禁じる」


「えー!? なんでー?」


 アトラが納得できないと文句をたれてくる。


「味方に攻撃を当てるから何とかして欲しいと言われたんだ。敵に当たらずに味方に当てるヤツ等を戦場に出せるか」


 俺は間違っていない。と言うか間違っているといわれたら即座にこの国から撤退しても良いと思う。


「お父様は敵を倒せる威力さえあれば良い。狙いなんてものは敵の沢山居る所にぶち込めは良いといっていました!!」


 イブンのノーコンは父親が原因か。


「命令だ、魔法で真ん中に10発当てれるまで実戦に出るのは禁止とする! 命令を破ったら俺は教師の役を断ってこの国から出て行く。指導者の言葉に従えないヤツに教える事などないからな」


「わ、わかりました!」


 命令を破りそうも無いイタカが了承の意を返してくる。

 バルザが言葉も無く頷いただけだった。


「むぅ、わかりました」


「はーい」


 明らかに納得できていない様子で2人が命令に従う。

 いや、そんな難しいコツじゃないんだよ。魔法使いなら普通に習う事なんだよ。・


「いいかー、魔法を打つ時は弓を射る様に相手の何処に当てたいと狙ってから撃つんだ。イブンとアトラは魔法を発動させる事、そして威力だけを考えているから狙いが甘くなる。威力を落としても良いからまずは的に当てる感覚を覚えろ!」


「ハイ!」


「はーい」


 2人にはひたすら狙いを定めてもらい、その間にイタカとバルザの指導に移る。


「2人は狙う事については問題は無い。問題は威力だな。2人は狙いを緩めてよいから威力を上げる事を考えて魔法を発動しろ。魔力を込め、自分の魔法に明確な形を与えるイメージだ」


「魔法に明確な形ですか?」


 イマイチピンと来ないのかイタカ達は困惑している。


「この石を見ろ。この石は平べったくて端っこが尖っている。只石をイメージする訳でなくどんな石を相手にぶつけたいのかを考えるんだ。。相手によりダメージを与える形状を」


「やってみます」


バルザが石のイメージを考え始める。


「先生、水はどうすれば良いのですか? 水には形がありません」


 イタカが困り果てて俺にアドバイスを求める。


「なら何かにの容器に入った水をイメージしろ。形のない水ではなく、容器に入ってその形になった水をイメージしろ」


「や、やってみます」


 暫くこれで様子を見てみるか。

 上手くいけばちっとはましになるだろう。

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