第50話 海辺の魔法使い

 子供達から逃げた俺は、イドネンジアという島国にやってきた。

 理由は2つ、1つはこの国は暖かいという事。

 子供達に見付かったとしても野宿が出来る。まぁ、最悪転移魔法で逃げればよいのだが。

 そしてもう1つは今言った転移魔法の移動先の選択肢を増やしたいから。

 転移魔法は基本行った事のある場所に行く魔法だ。マーカーや他の魔法と併用して行った事の無い場所に行く事もできるが、バーザックの時はそれほど多くの国の記憶は無かった。

 彼の場合、リタリア、ギリギス、ヴランズの3国がメインだったので、せっかくの転移魔法が生かせていなかったのだ。

 俺の記憶でもメリケ国からここまでの記憶と、ドラゴンになって世界を飛び回った記憶はあるが、すべての場所をまわったわけでは無い。特にドラゴンの時は大半が飛んでいた為、食事で寝る時以外はずっと空に居たのだ。だから意外に転移先の選択肢は多くない。

 そう言うわけで周囲が見ずに囲まれた島国と言うのは一度来ておきたかったのだ。


 ◆


 港町に着いた俺は、早速町に入る。

 大きな国なら入国許可が必要になったりするが、イドネンジアはその辺りゆるいので特に問題視されない。ただしお金の両替は必要だ。

 適当な額を両替して貰って、数日間は暮らせるようにしておく。

 あとは現地で仕事を貰って生活費を稼ぐだけだ。

 勿論仕事のアテもある。

 それは魔族との戦闘、つまり傭兵としてだ。

 この国は島国なので敵の数は少ない。

 だが国土が狭い分海から王都まで近い上に逃げ場が無いともいえる。

 だから傭兵の需要が高いのだ。

 特に海の敵を攻撃できる魔法使いは引く手あまた。

 何だかんだいってバーザックは天才魔法使いだ。

 高度な転移魔法を使えるし各種属性の魔法も収めている。

 ドラゴンほどとは言わないが人間レベルで考えれば上から数えたほうが強いだろう。

 俺が邪魔をしなければ本当にリタリアをはじめとした3国を支配していたかもしれない。

 バーザックには殺した相手が悪かったと諦めてもらおう。

 そう言う訳なので、俺はバーザックの力を活用しようと言う訳だ。

 メリケ国での戦闘を思い出すに、子供達に見付からない様に力を隠しても十分魔族と闘えるだろう。

 天才魔法使いの力を使って魔法無双を始めますよー!!

 つー訳で、傭兵として登録するには何処へ行けば良いのかな?

 俺は傭兵斡旋所と思しき場所を探して歩いていた。

 そして漸くそれっぽい建物を見つけたと思った時だった。


「魔族が来たぞー!!」


 向こうの方から皮鎧を来た男が大声で叫びながら走ってくる。


「魔族が来たぞー! 闘えない者は家に逃げ込めー!」


 町の中を歩いていた人達が瞬く間に我が家へと逃げていく。

 そしてその変わりに、先ほど入ろうとした建物から武器や防具で武装した男達が現れ男の現れた方向へ向かって走ってゆく。


「おいあんた、早く家に帰るんだ。魔族がこっちまできたら巻き込まれるぞ!」


 先ほど魔物が来たと叫んだ男が俺を民間人と勘違いしてやって来る。


「いや、俺は魔法使いとして戦いに来たんだ。この国は傭兵を求めているんだろ?」


「あんた魔法使いなのか。いや、答えなくて良い。海に居る魔物を攻撃できるか?」


 かなり切羽詰っているのだろう。男は俺の戦闘能力から確認してきた。


「可能だ」


 バーザックの力を持ってすれば海に隠れる魔物を退治するのは用意だ。


「助かる。手続きは後でするからあんたは陸に上がる前に魔物を退治してくれ」


「承知した。エアウイング」


「おおっ!?」


 魔法を発動させて空に飛び上がった俺を見て男が驚く。


「では先に行く」


 ◆


 魔法で空を飛んでやって来た俺は、戦場を確認する。

 魔族は海から上陸して陸を目指そうとし、傭兵や騎士達は海岸で敵を食い止めようと頑張っていた。


「空を飛ぶ魔物はいないと。なら上から攻撃し放題だな」


 念の為下面に強固な単面防御を張って防御を固めておくか。


「サイドシールド!」


 単面防御と言うのは1方向からだけの攻撃に強い防御魔法だ。

 全体を満遍なく守る全体防御の魔法と違って単面防御は範囲が狭い代わりに硬くて取り回しが良い。

 シューティングゲームの全体を守るバリアーと片面だけを守るバリアーを思い出してもらえれば間違いない。あと単面防御は結構応用も聞くので熟練の魔法使いは好んで使う。


「では攻撃と行きますか。サンダーランス!!」


 俺は雷の槍を敵が密集している場所に放つ。

 特定の敵を狙わずに放った一撃なので当然攻撃は外れ、海に落ちた。

 だがそれで良い。元々この一撃は海に落とす為に使ったのだから。

 俺の攻撃のあと、さほど間をおかずにサンダーランスが落ちた場所の近くに居た魔物達が倒れ、プカプカト浮かび上がる。

 お約束の感電攻撃だ。

 水場に雷魔法を落として敵をしびれさせるのは昔から漫画でよくある光景である。

 実際に使ってみると結構有効な攻撃だわコレ。

 俺はその後も敵の密集地帯にサンダーランスを何本か落とし、気絶した敵を纏めて攻撃魔法で粉砕した。 瞬く間に味方の大多数を倒された魔族達は、戦闘を早々に切り上げ撤退して行った。

 俺はそれを確認してからゆっくりと地上へ降りた。


「おーい!」


 空の上から少しづつ降下してきた俺に、先ほどの皮鎧の男が呼びかけてくる。


「見てたぞ、凄い活躍だったな!」


「いや、それほどでもない」


「それだけ強ければ支部長も喜んであんたの力を借りたがるだろうな」


 支部長か、呼び方から察するにこの国の傭兵達のとりまとめ役といったところであろう。


「早速で悪いが、傭兵登録をしたい場合はどここで申請すればよいのだ?」 


「ああ、それなら俺が案内するよ。っつてもさっきの建物だけどさ」


 中々に気の効く良い男だ。


「俺の名前はアルガ。宜しくな!」


「バーザックだ。宜しく頼む」


  こうして、漸くここから俺の異世界無双の日々が始まるのだった。

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