第30話 ドワーフと武器

「本当に相手を殺しちまうのか、俺と手合わせをして試させてもらおうか」


 ドワーフが店主はとんでもない事を言い出した。


「いやいや、だから戦ったら殺しちゃうんですよ」


「だからそれを俺に教えてくれやぁぁぁぁ!!!」


 店主が傍に掛けてあった槍をブン投げる。

 俺はとっさに龍魔法を発動させ、槍を弾き飛ばした。


「ふはっ、俺が思いっきり投げた槍を弾きやがった」


 大興奮の店主。ってかアンタ思いっきり投げたのかよ。


「なるほどなるほど。中々頑丈じゃねぇか。だったらコイツはどうだ!」


 今度は巨大な両刃斧とぶっといトゲが幾つも付いた盾を構えて襲い掛かってきた。


「フンハァ!!」


 変な掛け声とは裏腹にするどい一撃が俺を喰らう。

 たまらず回避するが、ダメージを恐れての事ではない。

 迂闊に反撃しないためだ。

 うっかり反撃してミンチにしたら間違いなく犯罪者だ。

 敵を殺すのに躊躇いはないが、一般人を殺したらお尋ね者になってしまう。

 必要がない限りは【憑依】のスキルには頼りたくない。だって死ぬほど痛いんだぜ、死ぬのって。


「なら、コレで!」


「何ぃ!?」


 俺は店主の振り下ろした斧を両手で受け止めていた。

 真剣白刃取りという奴だ。

 現実では刃の重さ確実に死ぬといわれている白刃取りだが、龍魔法によって肉体を強化している俺ならば実現可能だと思った。

 失敗しても弾き返せるしな。

 そして成功した……とは言い難かった。

 白刃取りをして受け止める筈だったのだが、勢い余って潰してしまったのだ。

 こう、食パンを両手で押しつぶす感じで。

 その所為で店主の両刃斧は俺の手が当たっている所だけヘコんでしまった。


「す、すいません」


「はははははっ! 面白ぇなぁ坊主! もっとだ、もっとお前の力を見せろ!!」


 店主は即座に両手斧を手放すと、トゲの付いたシールドをぶつけてきた。

 シールドバッシュだ!

 だがシールドを俺にぶつかると、トゲをひしゃげさせてしまい攻撃は失敗に終わってしまった。


「ほうほう、成程な。力が強くておまけに頑丈と。飛び道具である投げ槍だけでなく、直接ぶつけたシールドも効かない。確かに素手でも十分に戦える強さだ。そもそもお前さんには武器なぞ要らん。こいつぁ武器屋に嫌われる奴だぜ」


 店主が下がり、一際でかい剣を取り出す。

 もはや剣というより鉄塊だ。


「岩砕き。ストーンゴーレムと戦う為に作られた剣だ。コイツは頑丈だぜぇ。だから……」


 店主が剣を構え腰を低く落とす。

 エイナルの知識が俺に教える。

 店主は一撃に全てを込めて攻撃してくる筈だと。


「お前の『攻撃』を見せてみな!!!」


 店主が飛び出す。

 ロケットのような足の踏み込みは今まで見た事が無い程力強い攻撃だった。


 俺は店主の言葉に従い、岩砕きに狙いを定め……


「はっ!!!」


 拳を突き出した。


 パンッ


 鉄砲のような音がして岩砕きの真ん中、拳の当たった部分が吹き飛ぶ。

 分かたれた上半分が俺を通り過ぎて壁に突き刺さる。

 店主は折れた剣を地面へと振り下ろした。

 当たってないから死んでないよな?


「~~~~~~ってぇーーー!!!」


 店主が大げさに叫び声を上げる。


「何て拳をしてやがるんだ。剣を握ってた俺の腕が衝撃でしびれちまったじゃねぇか!!」


「す、すいませんでした!!」


 あれ? 何で俺が謝ってるんだ?」


「はぁー、まぁ良い。お前さんに似合いの武器は思いついたからよ」


「え、マジですか?」


「ああ、お前さんと戦ってお前さんの強さは理解したからな。後はそれに合わせた武器を用意するだけだ」


 それってもしかして。


「もしかして俺の力を測る為に闘ったんですか?」


「おう、言ったろ試すってよ。俺は闘う事でソイツの力量を測って似合いの武器を用意するんだ。よくいるだろ、扱えもしない武器をカッコイイからって理由だけで持ってる奴をよ。武器には相性がある。ドンだけ剣を使いたくても、剣の才能がない奴とかな。けどそれでソイツに戦いの才能がない訳じゃねぇ。ソイツには斧の才能があるかもしれねぇ。槍の才能があるかもしれねぇ。俺はそんな才能を見てるのさ」


「つまり俺に合う武器を見つけたと」


「そう言うこった。3日待て。それまでに作っておいてやるよ」


「ありがとうございます」


 店主は直ぐに作る気になったのか、直ぐに店の奥へと戻っていってしまった。

 だがコレで手加減の問題は何とかなりそうだ。

 とりあえず3日かかる事をメリネアに伝えるか。

 俺は店を出て屋台に向かう。


「…………っ!?」


 そして絶句した。

 ウチの屋台には大量の串が置かれており、近くの屋台の店主達が店を畳んでいたのだ。

 食い尽くしたのか。


「あら、お帰りなさい。何か良い物はあったからしら?」


「え、ええ。手加減ができる武器を作って貰う事になったので3日ほどこの町に滞在します」


「あら、あらあらあら」


 なにやらメリネアが嬉しそうだ。


「何かあったんですか?」


「ええ。この町の牛串はとっても美味しかったの。3日も滞在するのなら沢山食べれるわね」


「至急隣町の牧場に買い付けに行くぞ!!」


「鳥だ、鳥を買い占めろ!!」


「豚もだ!!」


 屋台の店主達が叫びながら食材の買い付けに向かう。

 すまない。3日の辛抱だ。


 ◆


 3日目の朝が来た。

 ノロノロと屋台の店主達がやって来る。


「今日だ、今日でもう朝から晩まで一心不乱に串を焼き続けなくて済む」


 すまんな店主達。


「でも売り上げが下がるなぁ」


「ああ、もう二度とあんな売り上げは出ないんだろうな」


 それは諦めろ。

 俺はメリネアに馬車の番を任せると、屋台の店主達の悲鳴をBGMに武器屋へと入っていった。


 ◆


「店主、頼んだ物は出来てますか?」


「おお、兄ちゃんか。出来てるぜー」


 店の奥から眠そうな顔で店主がやって来る。


「もしかして徹夜で作業を?」


「いや、飲みすぎただけだ」


 永遠に寝てろ。


「ホレ、コレが頼まれた武器だ。いや、人を殺さないコイツを武器と呼んで良いのか分からないがな」


 店主に渡された包みを開ける。


「これが、俺の武器……?」


 それは剣のような形状をしていた。

 握り手があり、つばがあり、刃が円柱状の柔らかい布のような物で出来ていた。円柱の中には綿か何か柔らかい物が入っている。

 僕知ってるよ、スポーツチャンバラでこんなのあったよね。


「これなんですか?」


「見ての通りだ。こっちで握ってこっちで殴る。つばは飾りだな。一応堅い素材をつけてるが、刃の部分で受け止める事はツバで受けようなんて思わん方がいいぞ」


「この刃の部分は何で出来ているんですか?」


「外側がクリュータイガーの皮で、中はフォッグモスの綿繭だ。かなり頑丈な皮と綿だから簡単に壊れたり切られたりはせん」 


「詰まり布の棍棒ですか?」


「そうだ。持ち手と芯もしなりのある素材になってるから、簡単には折れたり破れたりしないぞ」


「……」


 とんでもない物を注文してしまった。


「お前さんは力が強すぎるからな。そんな力じゃ手ぬぐいだって使い様によっちゃ立派な凶器になる」


 むぅ。

 まぁ確かにコレなら人を殺す心配はないか。

 ある意味依頼どおりの品と言える。


「代金はお幾らですか?」


「金貨10枚って所か。ふざけた注文だが、使ってる素材だけはマジな代物だからな。だがまぁ、話次第じゃあちっとぐらい安くしてやってもかまわないぜ」


 店主がニヤニヤと笑みを見せる。


「話し次第というと?」


「お前がコイツを欲しがる理由さ。手加減をしたいって話だが、なんで手加減がしたいんだ? その内容次第じゃまけるやる」


「随分と悪趣味ですねぇ」


「馬鹿野郎、俺が作った武器は俺の子供みたいなモンなんだぞ。ソイツがどんな理由でお前等の所に行くのか聞く位、父親の特権だろうが」


 中々斬新な理由だ。


「勿論誰にでも聞くわけじゃあねぇ。俺が興味を持った奴だけよ」



 なるほど。俺はその珍しい注文から彼の興味を引いてしまったという訳か。

 いいだろう。教えてやろう。何せメリネアの食費が結構キツくなってきたからな。なるべく節約したい。

 俺は自分のスキルやメリネアの素性などは隠しつつ、エルダードラゴンの骨や鱗を手に入れた事を店主に教えた。


「ま、マジか……」


 想定もしていなかった事情に店主が口を開けて驚愕する。


「な、なぁ。そのエルダードラゴンの素材を見せちゃくんねぇか?」


「かまいませんよ」


 珍しい素材と聞いてドワーフの血が騒いだかな? 

 俺は店主を屋台まで連れて行って、俺の骨や鱗を見せてやった。


「お、おおぉぉぉぉぉぉぉお!!」


 店主が目を輝かせながら俺の鱗や骨を手に取る。


「軽い、だが堅い。しなやかさも備えているのか? 牙は堅さが増している分しなやかさは低めだな。鱗は硬さもさることながらこの局面が天然の盾になっているのか。ほうほう」


 すっかりエルダードラゴンの素材のトリコになってしまったみたいだ。


「な、なぁ。この素材を少しだけでイイから分けてくれねぇか? アンタに下ろした商品の代金はチャラで良い。なんだったら王都の貴族や鍛冶師への紹介状を書いてもいい」


「紹介状?」


「ああ、俺はコレでも王都で働いていた事もあるんだ」


 意外な話だった。

 何でも店主は回りに流されて決まった物しか注文してこない客に嫌気が差して王都を出奔した鍛冶師らしい。

 貴族に顔が聞く辺り意外と腕の良い職人なのかもしれない。


「かまいませんよ」


「おお、本当か! じゃあこの牙を少し分けてくれ。全部じゃなくていいんだ!」


「商談成立ですね」


「おおおおおおっ!!! まさか王都を離れて6年、こんな極上の素材に出会えるなんてなぁ! 感謝するぜ兄さん!!」


 店主は俺に礼を言ったかと思いきや、牙の欠片を持って凄い勢いで店へと戻っていった。

 さっそく何か作るつもりなのだろう。


「じゃあ俺達も行きますか」


「ええ、それでは皆さん。さようなら」


「さようならー」


「売り上げをありがとうー」


「また食べに来いよー」


 何やらメリネアは屋台の店主達と交流を深めていたらしい。

 彼等は一様にやり遂げた男の顔をしていた。

 まぁ、どうでも良いが。


 ◆


 そして夜。

 相も変らぬ盗賊達の殺気。

 俺は早速店主に作ってもらった武器の力を試して見る事にする。

 龍魔法で己の肉体を強化した俺は、剣を構えて敵の潜む林へと飛び込んだ。


「うぉ!?」


 突然飛び込んで来た俺に対応が遅れる盗賊達。

 俺は剣を横薙ぎに振って盗賊に攻撃を加える。


「ぐぺっ!?」


 盗賊の体が真横に吹き飛ぶ。

 さぁどうだ!?


「う、うぐ……」


「よっしゃ生きてる!」


 手加減の成功した俺は、そのまま盗賊達で実験を再開した。


 力を調節してどの位力を入れるとどのくらいの怪我になるか。どれだけ力を入れると死んでしまうかを調べた。

 結果。


「力を入れすぎると死んでしまう事は変わらないが、ある程度のコントロールで鞭打ちから骨折まで自在に操れる様になったな」


 遂に手加減成功である。

 もっと力の調節が出るようになれば、ダメージ量を調節も可能だろう。

 じゃあ、本日のメインイベントを行いますか。


「おいお前」


「ひぃっ!」


 適当に目に付いた盗賊をの胸倉を掴んで質問をする。


「お前達の依頼主は誰だ?」


「い、言ったら解放してくれるのか?」


「考えてやろう。だが言わねば考えない」


「い、言います!」


 命惜しさに盗賊達は自分達の雇い主の名前を叫んだ。


「リルガムです! ボタクール商店の大商人バードナの息子リルガムに命じられて貴方方を襲いました!!」


「そうか」


 やっぱりリルガムが黒幕か。


「あ、あの。雇い主の名前を教えたから逃して……」


 盗賊が媚びた顔で俺の顔を見てくる。


「ああ解放してやるよ」


 盗賊の顔が喜びに変わる。


「この世からな」


「え?」


 それが盗賊達の最後の言葉だった。

 所詮コイツ等は盗賊。俺達が助けたら他の誰かを襲う。

 いつか俺が力のない存在に憑依した時、コイツ等が生きていたら間違いなく殺されるか奴隷として売られるだろう。

 だから殺す。他の旅人達の為にもなるし生かしておく理由は全くない。


「それでどうするの?」


 俺の実験を黙って見守っていたメリネアがやって来る。


「王都にもう1つ目的が出来ました。身の程知らずにも俺達を狙った大馬鹿者には報いを受けてもらいます」


 盗賊達は言っていた。リルガムの生家、ボタクール商店はギリギスの王都に在ると。

 それはつまり、リルガムは王都にいるという事だった。

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