第68話 強襲、魔都オルスストラ

 遂に俺達は魔族の本拠地であるオルスストラへとやって来た。

 まぁ実際には既に来た事有るんだが、あの時は転移装置とし城位しか言ってないからなぁ。


「ゲートの制圧急げ!」


 高柳さんの号令の元、隠密系勇者が真っ先に出口に向かい操作室へと向かう。

 俺達もゲート内部にいた魔族を制圧していく。


「ゲート内制圧しました!」


「操作室側から連絡、制圧完了しました」


 ここまで簡単に制圧が出来たのは各地へと繋がるゲートがそれぞれ壁に仕切られていたというのが大きい。こちらに転移してきた直後に隠密系勇者達は魔族に気づかれる事なく操作室側に移動し、向こうが操作室に入るのと同じタイミングでこちらもゲート中央になだれ込む。

 基本ゲートには大軍が常駐している訳では無いので、スキル持ちの集団である勇者達に教われればなす術もなかった。


 ◆


「騎士団の主力を転移後は、後続に前線基地の瓦礫を運んでもらい他の大陸に繋がるゲートを全てガレキで

埋めてもらい、向こうから転移が出来なくしもらう」


 石の中に居るって奴だな。こういうところばかり地球の物理法則に沿って、核分裂だか核融合だかが発生しないと良いけど……


「そして俺達はその間に魔族の城を襲撃し第一王子ルシャブナの拘束、最悪の場合は抹殺を行う。可能なら魔王の身柄の確保及び治療も行う。また現場には四天王が居るかもしれないから気をつけろ!」


「「「了解です!!」」」


 勇者達と騎士達が転移ゲートを飛び出し、城へ向かって駆け抜けていく。

 高速戦闘を得意とする勇者達が先陣を切って走り出し、騎士達は全力で駆けながら隊列を整えていく。

 隠密行動に秀でた勇者と工作兵達が城の反対側へと回りこみ裏から潜入する。

 当然敵も別方向からの侵入者を警戒するだろうが、スキル持ちの勇者達全員を防ぎきる事は不可能だろう。

 正面からは2国の騎士団と勇者軍団、後方からは絡めてを得意とする勇者達。

 この時点で魔族の敗北は決定した。

 魔族が有するは一国の軍隊のみ。しかも何割かの部隊は各国へ進軍中。いくら魔物も使っているとはいえ兵力が少ないのは覆しようの無い事実だ。リ・ガイアから移住してきたとはいえ戦えない者も多いし、こちらに来れなかった者、来ようとしなかった者も多い。魔族の戦力は決して多いとは言えなかった。

 そして彼等は城下町の市民を守る為に大規模な魔法攻撃などは出来ない。勇者も騎士団もそれを分かっているからこそ市民には手を出さずに真っ先に城へと向かっていく。

 中には非番だった兵士達が市民に紛れて襲ってくるが、装備も禄にない状態で襲ってきた相手は騎士団が数人がかりで圧倒し、逆に市民への見せしめにしていた。

 とはいえ、これだと魔族からは人間が一方的に襲ってきた悪人になってしまう。もしもリ・ガイアの魔力が完全に枯渇しきって帰れなくなってしまった場合、彼等は人間に対して激しい憎悪を抱いた状態でこの世界に住むしかなくなってしまう。

 そうなればいずれ人間と魔族の間で復讐と憎しみの為の戦争が起きてしまうだろう。


「諸君、我々は穏健派である! ルシャブナ王子は魔王陛下に害をなし、自らが王に取って代わる事で侵略政策を強行した!! これは魔王陛下への裏切りに他ならない。故に我等は人間達と手を組み、魔族と人間の共存を阻むルシャブナ王子を打ち倒す事とした!! 諸君等も戦に連れて行かれた家族や友人の身が心配ならば、逆らわず大人しくしていて欲しい。我等も同胞を傷付けたくは無い!!」


 さて、これでどうかな?


「ねぇ、あんた」


 声のした方に視線を向ければ、そこには青い肌の老婆がいた。大手の魔族は基本青肌なんだろうか?


「なにか?」


「戦争が終われば息子は帰ってくるのかね?」


 老婆は自分達の事ではなく、転移ゲートの向こうへと消えていった息子の事を尋ねてきた。


「ええ、人間との戦争が無くなれば息子さん達も帰ってきますよ。共存が出来るのに無理やり奪おうなんて考えるから同胞が傷ついていくのです」


「息子が帰って来るんか……」


 老婆が手を合わせて祈りを捧げる様にひざまずく。


「お願いじゃ、はよう戦争を終わらせておくれ」


「戦争が終われば父さんは帰ってくるの?」


「彼も、彼も私の所に戻ってこれるのね!」


 以外にも市民達の反応は良かった。

 やはり住む所が大きく変わった状況で、自分達の王が進めていた平和路線が突然180度方針を変えたらだれだって不安に思うか。


 ◆


 先行した勇者達に追いつく頃には、城門付近で大規模な戦闘が始まろうとしていた。

 しかしこちらよりも魔族が不利だ。

 通常攻めるよりも守る方が有利だが、先ほどの城下町の件が有るため、魔族側の攻撃手段は限られている。

 逆に勇者側は、魔王の捕獲は命じられているが、それは余裕があればである。電撃作戦であるが故、全力で敵の無効化を優先しなければ、いずれ敵の態勢が整ってこちらが不利になる。

 だからこちらは全力で攻める。魔法薬や回復魔法の使い手がフル回転で味方を治療し戦線を維持し、敵の戦線に穴を開ける。

 こちらは2国分の物量でも有るので回復は万全、魔族達は押されるばかりだ。 

 そして遂に城門が破壊された。

 重装の勇者と騎士達が城内になだれ込み、城壁の上から彼等を攻撃しようとしていた魔族を遠距離攻撃の出来る勇者や魔法使い達が狙撃していく。

 城門を抜けると、城をグルリと囲む形で中庭がある。この辺り日本の城と似た構造だ。 


「よし、盾部隊前へ! 城内に侵入する!!」


 大盾を構えた騎士達が城の中へと突撃していく。

 そして一部騎士と勇者達、そして工作員は中庭を迂回して別方向から侵入を試みる。

 コレはルシャブナ王子が抜け道を使って逃亡する可能性を考慮しての事だ。

 全方向から囲んで一気に中へと兵を流し込んで逃げ場をなくす。

 数便りの乱暴な戦法だが、やはり数は正義だ。圧倒的な数の暴力の前には、いかに優秀な戦力といえど沈むしかない。 


 ◆


「なぁ、アンタは城の事に詳しくないのか?」


 勇者の一人が俺に話しかけてくる。


「すまない。俺は前線基地勤務だったから、この城の事はよく知らないんだ」


「そうか、悪いな」


「いや、気にしないでく……ファイアアロー!!」


 俺は勇者の後ろから迫ってくる魔族に炎の矢をお見舞いする。

 宮廷魔導師だったバーザックの知識のお陰で、龍魔法以外の魔法が使えるようになったのは大きい。


「はっ!!」


 勇者の攻撃で魔法に怯んでいた魔族が倒される。


「助かったよ」


「気にするな」


 しかし今の魔法はイマイチ効きが悪かったというか、龍魔法と比べて使いにくかったな。

 魔法にもそれぞれ向き不向きが有るのだろうか?


 そんな事を考えていた時だった。

 突然目の前の石畳が動き出したのだ。


「なっ……!?」


「しっ!」


 俺は驚きの声を上げようとする勇者の口を塞ぎ武器を構えて不意打ちを指示する。

 それを理解した勇者は頷くと自分も武器を構える。

 この状況で逃げてくるのはルシャブナ王子か魔王を運ぼうとする強硬派だろう。もしかしたら大臣とか課も知れない。

 石畳を持ち上げた瞬間を狙って攻撃を叩き込み、即座に攻撃の石を摘み取る。

 もしもその中に魔王四天王、土のマーデルシャーンが居たら真っ先に狙おう。

 向こうも隠し通路の中じゃまともに戦えまい。

 そして石畳が持ち上がった。


「せいっ!!」


「おりゃああ!!!」


 俺達の攻撃が通路の中に吸い込まれ、確かな手ごたえを感じる。


「スリープミスト!!」


 眠りの魔法を唱えて隠し通路に流し込む。一人でも眠ってくれれば御の字だ。

 俺は石畳を横に放り捨て、勇者を促すと、勇者は騎士達を引き連れ隠し通路に飛び込んでいった。


「ぐわー!!!」


「おのれ下郎!!」


「殿下、お下がりを!!」


「貴様が王子か!!」


「捕らえろ!!」


 隠し通路から複数の声が聞こえ、剣戟の音が鳴り始める。

 これ、俺も参戦して大丈夫かなぁ?

 入った瞬間迎撃の魔法で反撃されそう。

 いやいや、こっちにはバーザックの魔法知識があるんだ。俺は龍魔法と対魔法防御を唱えて隠し通路に飛び込む。

 一瞬強い眩暈がしたが何とか耐える事が出来た。

 今のはなんだ?

 いや、ここは戦場、考えている暇は無いか。


「援護する」


「助かる!」


 戦場にいたのは身なりの良い少年と護衛と思しき騎士達。マーデルシャーンの姿は無い。

 というか……


「この少年はルシャブナ王子ではありません! 捕獲対象ではありません!」


 俺の言葉に勇者達の動きが鈍る。

 それを察した魔族の騎士達も下がって少年を守るように態勢を立て直す。


「おい! お前は魔族なのに何故人間に味方するのだ!!」


 少年が居丈高な態度で俺に質問してくる。恐らく貴族の息子なのだろう。

 ここが城なら貴族の子供が居ても不思議ではないからな。


「ルシャブナ殿下が魔王陛下の命令を無視して人間達に戦争を仕掛けたからです。あの方が戦争を始めなければ同胞達は命を失わずに済んだ。私達は同じ魔族として、あのお方の凶行を止めなければならないのです!」


 城下町で市民達を説得したように少年に対しても説得を試みる。ルシャブナ王子を殺しただけでは魔族の方針を変えるどころか人間に対して更なる敵愾心を持ってしまう危険が有るからだ。


「確かに、兄上の考えには余も言いたい事は有る。だが、だからと言って人間と手を組んで首都を襲うとは何事か!?」


 むぅ、説得は難しそうだ。だとすれば一旦捕らえて後でジックリ説得……兄上?


「今、ルシャブナ殿下の事を兄上と呼ばれましたか?」


「いかにも!」


 少年の言葉に騎士達が続く。


「控えぃ! 控えおろう! このお方をどなたと心得る!! 恐れ多くも魔王陛下のご子息、第二王子ラウグル様であらせられるぞ! 頭が高い! 控えおろう!!」


「「「「ははー!!!」」」」


 なんとなくノリでひれ伏してしまった。水戸黄門かよ。

 っつーか勇者達もひれ伏してるじゃねーか。騎士達が戸惑ってんぞ。お前等ノリが良すぎだっつーの。


「そこなリザードマン、その話詳しく聞かせてもらおうか」

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