憑依無双 ~何度殺されても身体を乗り換えて復活する~

十一屋翠

第1話 早速死んだ

「良くぞ来てくれた勇者達よ!」


 第一声はソレだった。

 目の前にはいかにもファンタジー世界の王様みたいなのが居て、そいつが喋っていた。

 その横には大臣、騎士、魔法使いとコテコテのメンツだ。


「余はマサカー、このメリケ国の王である」


 やはり王様らしい。

 周囲を見回すと、足元には魔法陣、横には4人の子供達が怯えてへたり込んでいた。

 中学生くらいだろうか、男の子1人に女の子3人だ。

 一体どういう関係なのかと邪推してしまう。

 ちなみに俺は彼等とは関係ない。

 たまたま近くを歩いていただけのサラリーマンだ。


「この世界は今、おぞましい魔族共に侵略されている。騎士達も勇敢に戦ったが魔族共の卑劣な策略に劣勢を強いられた。故に! 余は王祖が神より賜った秘術を用いて汝等勇者を召喚したのだ!」


 王様が聞いていない事をサクサクと説明してくれる。

 けどこの物言いが気に食わない。何というか会社の上司を思い出すんだよな。

 自分を持ち上げて他の連中を貶めて出世してきた上司をさ。


「そなた達召喚者は世界を越える際に魂の一部がこの世界に適応し力を得る。即ちスキルを手に入れるのだ。さぁ心の中で求めてみよ。己のスキルを!!」


 足早に説明する王様の言うとおり、俺はスキルとか言うのを念じてみる。

 すると突然脳裏にイメージがわきあがった。


 スキル【憑依】


 なんか出た、多分コレがスキルだ。

 けど憑依? なんか幽霊みたいって言うか、悪役の技っぽいな。


「スキルが分かったか? では余に教えるのだ」


 なんか偉そうだなこのオッサン、いや王様だから偉いのか。

 すると少年が意を決して宣言した。


「お、俺のスキルは【聖剣】です」


「「「おおおぉ!!!」」」


 王様達が歓声を上げる。勇者っぽいスキルだ。俺とは大違いだな。


「わ、私は【神の祝福】です」


 プリーストかな?


「あたしは【武の極み】」


 戦士だな。


「私は【魔導の頂き】」


 まんま魔法使い系だ。

 不味いな。ここで俺が【憑依】ですって答えたらマジで空気が白けそうだ。

 どうしよう、っていうか俺間違いなく巻き込まれた系のモブじゃね? たまたま近くを歩いてただけだし。


「素晴らしい、素晴らしいぞ! 正に勇者とその仲間達にふさわしいスキルだ! それでそなたは?」


 王様が期待の眼差しでこちらを見てくる。


「ええと、無いです」


「……何!?」


「無いです」


 言わない事にした。いかにも悪っぽいスキルだし、黙っておこう。

 邪悪なスキルの持ち主として牢屋に閉じ込められたくはないからだ。


「出来損ないか」


 ぼそりと王様が呟いたのを俺は聞いた。


「そうか、それは仕方が無いな。そなたは宮廷魔導師達が責任を持って元の世界に帰す。安心せよ」


 良かった。今の言葉で帰れなかったらどうしようかと思ったが、ちゃんとアフターケアはしっかりしてるみたいだ。


「帰還魔法陣に案内いたします。こちらへどうぞ」


 騎士が俺に声をかけてくる。

 京都のぶぶ漬け並のお帰り対応である。


「あ、はい」


 俺は騎士に付いて謁見の間だろうか? を出て行った。

 部屋を出る前に少しだけ振り向くと、少年達が王様にベタ褒めされてその気になっていく光景が見えた。

 頑張れよ少年。

 俺は日本に戻ってビールを飲んで寝る。


 それが、俺の異世界人生最初の失敗だった。


 ◆


 俺の体から熱が失われていく。

 右肩からわき腹までが痛い。

 喉が異常に渇く。


 目の前に俺を案内してきた騎士が居た。

 彼は無表情に俺を見下ろしている。

 その手には血で濡れた剣が握られていた。

 俺の血で濡れた剣を。


 そう、俺は切られたのだ。

 そして悟った。

 できそこないという言葉の意味を。

 元の世界に帰る方法なんて無い。

 俺はここで殺される。

 役に立つスキルを持っていなかった俺は、ここで死ぬのだ。


 …………………………………………


 嫌だ、死にたくない。

 まだ生きていたい、遊びたい、女の子とデートしたい、エッチしたい。

 死にたくない!

 俺はあがいた。騎士の足を掴んで死にたくないと言った。

 そして首を跳ねられた。


 ◆


 目の前に俺の死体が転がっている。

 首が胴体から離れて、血がドバドバ出ている。

 コリャ酷い。まさか自分の惨殺死体を眺める日が来るなんて。

 コレが噂に言う臨死体験ってヤツか? いやどう見ても死んでるから幽霊体験?

 参ったね。

 まだ20代の若さなのに死んじまうとか。

 ビックリだわ。驚きすぎて逆に冷静になっちゃう感じ。

 マジどうしよう。

 異世界に来ただけでも驚きなのに、異世界で死んじゃったよ俺。

 このまま死ぬと異世界の天国に行くのかな?

 でも成仏する気配もないしお迎えが来る気配も無い。

 つまり亡霊ってヤツか? アンデッドモンスターになっちゃった?

 異世界アンデッドデビュー?

 驚きすぎてもう現実感ないわー。


 「あー、マジどうしよう?」


 俺は途方に暮れる。

 異世界で死んじまって、一体何をすれば良いのか?

 やるせない状況に、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 これはあれだ、恨むしかないな。幽霊になったんだから、あのクソったれの王様に取り憑いて呪い殺してやる!!

 幽霊なんだからその位の事はできるだろう。

 でもターンアンデットとかのアンデットを消滅させる呪文で殺されないだろうか?

 いやいや、もう死んでるし。だいたいああいう魔法は成仏させるもんだからこれ以上苦しむ事は無いだろう。よし、そうと決まれば善は急げだ、さっそく取り憑きに行こう!!

 俺は部屋を出てさっきの謁見の間に向かう事にした。

 そしてドアを開けようとして、幽霊だからドアに触れないと気付く。

 が、直ぐにそもそもドアを開ける必要がない事に気付いた。


「幽霊だから壁抜けすればいいのか」


 人生初の壁抜け体験である。


「いっきまーす!!」


 俺は壁に向かって突っ込み、そしてぶつかった。


「ぶはっ!?」


 何故か俺は幽霊なのに壁にぶつかった。


「何で?」


 まさかこの世界の幽霊は物に触れるのか? 亡霊系アンデッドだけど物理攻撃が効くのか?

 それ亡霊のメリット無いじゃん!!

 仕方なく、俺は手でドアを開ける事にした。

 篭手を装備した腕がドアを開ける。


「……篭手?」


 俺はもう一度自分の手を見た。

 篭手だ。俺の腕に篭手がついている。

 どういう事だ? 何で幽霊の身体に篭手がついているんだ?

 見れば篭手だけじゃない。鎧を着ている。足には脚甲が装備されているし、兜も被っている。

 そして、俺の右手には、俺を殺した騎士の剣が握られていた。


「これってまさか…………」


 どうやら俺は、自分を殺した騎士に乗り移ってしまったらしい。

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