第39話 カジキ無双
さて困った。
今の状況を冷静にまとめてみよう。
妻がカジキング狙いでご飯を食べに行った。
明日のご飯を釣っていたら巨大カジキに身体を貫かれた。
自分が巨大カジキになった。
元自分の身体に刺さってビチビチ。
コレが今の俺の状況だ。
つまり現在空気中で息が出来なくて超絶苦しい。
エラ呼吸ピンチ!!!
マジピンチじゃねぇか!
俺は必死で全身を動かし海に飛び込む。
幸い今の俺の体躯を乗せるのに、この魔法船では少々小さかった。
小さな魚はともかく。8mの魚が跳ね回る事を想定されて作られてはいなかったのだ。
跳ね回った事で船から落ちて海中に潜ったkとで、ようやく息が出来るようになった。
あぶねー。
◆
呼吸が出来る様になった事で漸く落ち着いた俺は、とりあえず現在の自分の身体についてチェックしてみた。
先端がものすごく長く尖ったこの肉体は間違いなくカジキだ。
身体の大きさは、前の身体が死ぬ前の記憶から考えて8mくらい。
恐らくコレがカジキングなのだろう。確か地球のカジキは大型でも3m位までしか成長しない筈だからだ。
だがデカイと言う以外では特に特別な事もない。
カジキングの記憶なんてホント読むモノも無いし……なんだこの記憶?
カジキングの記憶をチェックした俺は彼が泳いでいた時の映像に気になるものを発見した。
コレは、沈没船か?
カジキングの記憶には海の底に沈む船の姿があった。
ふーむ、ここからそう遠くないな。
ちょっと散歩がてら行ってみるか。
俺はぶらりと散歩に出かけた。
◆
驚きだった。
水中のあらゆるものがビュンビュンと後ろに流れてゆく。
その様はまるで新幹線に乗って外の景色を眺めているのようだった。
カジキングの肉体は予想以上に速い。
周囲の魚を軽々と追い越し、サメや魚の魔物すら俺に追いつけないのだ。
最初に遭った時はメッチャビビったがな。
それでも高速で泳いでいれば正面衝突する事もある。
だがそんな運の悪いヤツは、この先端に輝く吻で貫いていった。
気分は騎士が行うランスチャージだ。
それにしても、カジキがこんなに早いとは思わなかったぜ。
俺は予想外に強く速いカジキングの身体を楽しみながら、海底へと向かって泳いでゆく。
そうして一時間とかからずに目的の場所へとたどり着いた。
俺の前には巨大な船が沈んでいる。
船の全長は50mと言った所か。
中世レベルの文明である事を考えるとかなり大きいな。
船の周囲をグルグルと回りながら観察していく。
船には巨大なマストがあったが、帆がちぎれて無くなっていたのでマークなどを確認する事は出来ない。
船首には衝角がある、その根元に馬の彫刻が為されている事からユニコーンをイメージして居るのだと思う。更に船底を見ると大きな丸い穴が空いていた。
丸いといっても綺麗に切られたわけではなく、丸っぽい穴だが。
その形は、まるで巨大な生物に齧られたみたいだ。
50mの船を齧る事のできる巨大生物?
一瞬背筋が寒くなる。勿論気の所為だ。
だが俺はさっきまでの爽快感が失せ、正体不明の巨大生物が住んでいるかもしれない海が怖くなった。
……そろそろ戻るか。
俺は恐怖の感情を振り払うように全力で海上を目指した。
◆
海面へと戻る道すがら、これからどうするかを考えていた。
今の俺はカジキングになってしまった。
コレでは料理どころではない。それどころか町に帰る事すら出来ない。
家の管理はメリネアに任せればよいが、そもそも魚なのでそれを頼む事すら出来ない。
っていうかメリネア俺の事分かるよな。遭遇した瞬間食われたりしないよな?
水面が近づく。
いやいや、メリネアは今まで2回も俺の事に気付いてくれた。
だから今回も大丈夫だろう。
そう思ったとき、視界の先に在る海面が爆ぜた。
何だ?
海上から飛び込んできた何かが近づいてくる。
それは真っ赤に輝く何かだった。
凄まじいスピードで俺に向かってくる。
回避をしようと思ったけどこっちもスピードを出していた。
とても避けられない。
食われる。
生物としての本能が悲鳴を上げた。
目の前に巨大な口が迫る。
カジキ生短かったなー。
俺は死を覚悟した。
だが何時まで経ってもその瞬間は訪れなかった。
気が付けば目の前に居た赤い何かが居なくなっている。
「貴方様?」
聞き覚えのある声がする。
もしかして……
「あらあら、随分と美味しそうになって」
赤い影の正体はメリネアだった。
余りにも速く突っ込んできたら姿を確認する事が出来なかったみたいだ。
メリネアは突っ込んできた俺を回避して併走していた。
間違いなくぶつかって食われると思ったんだがな。
ドラゴンのスペック、ヤッパ凄いわ。
「その姿じゃ陸には帰れないわね」
肯定したいが喋れないので黙っているしかない。
「貴方様? ……ああ、魚だから喋れないのね。分かったわ。」
察しが良くて助かります。
「じゃあ暫くは海の中で生活ね。ふふ、それも面白いかしら」
メリネアが俺の周囲をシューティングゲームのオプションみたいに回りながら笑う。
ホント順応性が高い娘だわ。
「所で、一口だけ齧って良いかしら?」
断固拒否。俺は全力で拒絶のアピールをした。
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