第49話 パパ逃亡

「私の切り札は……『転移魔法』です」


 まさかの義親子ダブリ切り札、リナルの切り札はバーザックと同じ転移魔法だったのだ。


「そう言うわけですので、ご説明願えますか? バーザック様?」


 リナルの笑顔が笑っていない。

 ここはアレだ、お前達の人生を復讐だけで終わらせたくないとか適当に言っておけば……


「私達の人生を復讐だけで終わらせたくないとか適当な事で誤魔化したりしませんよね」


 オーゥ、ばれてーら。

 どうやって、どうやって……誤魔化そう。


「バーザック様、バーザック様のお考えを、この判定魔法の使い手であるミイナの前でお答え下さい」


「っ!?」


 マズイ! あの少女、ミイナが使う判定魔法は尋問などで使う嘘を見抜く魔法だ。

 俺が適当な事を言えば直ぐに俺の嘘はバレてしまう事だろう。

 ではどうする?

 決まっている。


「ふっ」


 俺の口から我知らず不適な笑いがこみ上げる。


「バーザック様?」


「エマージジャンプ!!」


 こんな時は、逃げるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぅう!!

 俺は緊急回避様の転移魔法を発動させた。


 ◆


 エマージジャンプ、それはあらかじめ帰還する為のマーカーを設定して使う魔法だ。

 通常の転移のマーカーと違ってこれ1つしか使わないので転移先選択の時間や発動の時間が短縮される。

 さらに魔力を蓄積するマジックアイテムと連動できるので魔力切れになっていても使える優れものだ。

 唯一の欠点は一箇所にしか行けないことか。

 その魔法を使ってバーザックの秘密の隠れ家に転移した俺は、即座に移動を開始する。

 リナル達はこの転移先の事を知らないが、何かしらの手段でここを見つける可能性が在る。

 緊急脱出用に置いてあった荷物を回収して隠れ家を出る。すると隠れ家の中から物音が聞こえてきた。

 まさか転移で追ってきたのか?

 いったいどうやってこの場所がわかった!?

 可能性は考慮していたが、本当に来るとは!

 まずは俺を追ってきた方法を探る必要があるか。

 俺は使い魔の蝙蝠を召喚し、近くの林に隠しておく。

 そして飛行魔法で空へと逃げた。


 飛行魔法で移動し続けていれば転移魔法で追う事は出来ないし、飛行魔法で追ってくる者が居れば転移魔法の使い手とは離れ離れになる。追っ手が減れば出来る事も増える。

 後方から俺を追ってくる影が見える。

 恐らくは幹部の一人タズマだ。アイツは風系の魔法が得意だからな。

 だが俺に追いつくのはまだ無理だろう。

 今の内に使い魔と視界を共有して味と付近の様子を見る。


 ◆


「バーザック様の位置は確認できる?」


 リナルが傍に居る小さな少女、マインに語りかける。

 マインは小さな地図をじっと見つめる。

 地図には赤い光点と青い光点、そして黄色い光点が輝いていた。


「バーザック様はまだ移動中。タズマお兄ちゃん達は追いかけてる最中」


 成程な、マインが覚えたのはマーカー系の魔法か。

 本来は巣を持つ魔物を狩りつくす時や、逃げた犯罪者や泳がせて居る犯罪者の現在位置を調べる為の魔法だ。それを俺に使う事で現在地を特定し、リナルの転移魔法のマーカー代わりにしたのだろう。

 全く、有能な子供達だ。誰かが誰かをサポートするのに適した技術を学んで互いに補い合っている。


「親としては全く持って誇らしい子供達だな」


「そいつぁどーも」


 背後から声が聞こえる。

 タズマだ! だがタズマのスピードでは俺に追いつく事は不可能な筈……

 いや! マインは行った、タズマお兄ちゃん『達』と、つまりタズマは……


「ボクも居るんですよ、バーザック様!」


「付与魔法使いのトールか!」


「ご名答!!」


 付与魔法の使い手のトールがタズマの飛行魔法を強化して俺を追ってくる。

 本当に良く力を合わせる!


「捕まえたぜ!!」


 タズマが俺のローブを掴む!


「だが、甘い。ウィークネス!」


 バフを掛けたのならデバフをかける! 弱体化魔法を使われたタズマが手を離した所で俺は更に加速してタズマ達を振り切った。


 ◆


「一体何処に逃げたの?」


 リナルがマインに俺の場所を問うが、マインは首を横に振った。


「わからない。多分魔法で自分の位置を隠蔽している」


「っ! そんな魔法まで使えるなんて」


 マインが俺を見失ったと答え、リナルが悔しそうに唇を噛んだ。


「どうするの?」


「一旦タズマ達と合流してから戻るわ。その後で相談する……かしら」


「私もそれがいいと思う」


 今後の方針を決めたリナル達が転移魔法で姿を消す。


「ふぅ、何とか撒けたか」


 監視の使い魔とのリンクを切った俺は予約一息ついた。

 マインの監視を逃れる為、俺は魔法で自分の位置をさくてきできないようにジャミング魔法を自分に掛けた。

 お陰でこっちの戦力は6割減だ。

 4割を超えた威力で魔法を使ったら、ジャミングでは隠し切れずにマインに居場所がバレてしまう。

 せっかく宮廷魔導師になったって言うのに、面倒な事になったもんだぜ。


「しゃーない、暫くは縛りプレイで進めるか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る