第48話 帰ってきた子分
「おはようございますバーザック様」
「おはようございます」
「おはようございます」
王宮を歩いてゆくと、部下の魔法使い達が挨拶をしてくる。
だが部下と言ってもバーザックの私兵である子供達の事ではない。
宮廷魔導師筆頭バーザックの部下だ。
先日、バーザックが国家転覆を目論んで私兵としていた子供達を復讐の檻から解放した俺は、そのまま王宮の自室へと戻っていた。
まぁ、その前のメリネアの食事でかなり散財したが、それは置いておくとしよう。
ともあれ、一仕事終えた俺は心機一転宮廷魔導師としての仕事を始めようという訳だ。
「さて、今日はどんな仕事があるかな!?」
「おはようございますバーザック様。本日の業務は他の者達が現地に向かいましたのでバーザック様のお仕事はございません。あえて言うならば、出張書類にサインをしてもらう事くらいですね。どうぞ」
俺の組織のNo2である少女が俺に出張申請の書類を手渡してくる。
任務に赴く書類には俺の組織の幹部達の名前が書かれていた。
「うむ、彼等の実力ならば問題あるまい」
「はい」
俺はさらっと書類にサインをして少女に手渡す。
「やれやれ、コレでは今日一日暇だな」
「上司の部下育成能力が優秀だからです。親としては鼻が高いのでは?」
「ふ、まぁな」
育てたのは俺じゃないけどな。
「どうぞ、お茶です」
「ああ、ありがとう」
俺は少女から貰ったお茶を口に含み……噴いた。
「何でいるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」
「おや、今頃気付かれましたか?」
俺の目の前には昨日別大陸の荒野に放置してきた少女が居た。
それはありえる筈のない光景であった。
「ど、どういう事だね!? 何故君がここに!?」
「どうしたんですかバーザック様? リナルさんがバーザック様の傍に居るのは当たり前じゃないですか」
「そうですよ、バーザック様の秘書なんですから」
部下が何を言ってるんだ? といった視線で俺を見てくる。
「実は『バーザック様より戴いた任務が予想外に早く終わった』為に夜中の内に戻って来れたのです」
「あー、なるほど。それで驚いたんですか」
「バーザック様でも驚くんですねぇ。ははははっ」
笑い事じゃねぇよ! この子達を置き去りにした大陸はリタリアの港から最速の船を使っても半年はかかる距離だ。
全員の力を合わせれば、あの荒野でもバーザックが教えた魔法や技術で水や食料を確保するのは難しい事ではない。
だが、人の生活圏を探すには相応の時間が必要だし、そこから港町を探し、更に都合よくリタリアにまっすぐ向かう船が見つかるなんてある訳が無い。
そもそも夕べの話だ!
「どうやって……」
俺の疑問に少女、いやリナルが微笑む。
「それについてですが、現在建造中の新しい魔法施設の視察を行いながら説明致したいと思います」
「っ!?」
新しい魔法施設、それはリタリアの新たなマジックアイテム開発工場の事だ。
だがそれは表向きの話で、本当の狙いは俺がリタリアを支配する為の兵器開発工場なのであった。
リナルはそこに行くというのだ。
つまり誰にも聞かれない場所で話すと。
「うむ、そうしようか」
◆
「全員居るのか」
「はい、全員です」
工場に着いた俺を待っていたのは、俺が置き去りにした子供達全員だった。
別の荒野に置き去りにしたギリギスやヴランズの子供達も一緒に居る。
「では、いかにして私達があの荒野から戻ってきたのかをご説明いたしましょう」
子供達の先頭に立ち、リナルは語り出した。
「バーザック様がドラゴンに連れ去られた後、私達はどうにかしてバーザック様を取り戻そうと考えました。ですがドラゴンの速さは凄まじく。誰一人として追いつく事はできずに力尽きました」
ドラゴンであるメリネアに追いつくなんて、人間には不可能だからな。
「仕方なく私達はアジトに戻りこれからどうするかを相談する事にしました。ですが何も良いアイデアは浮かばず、とりあえず復讐を完遂する事を選択したのです」
ああ、ヤッパ殺したのか。
「正直な話、両親の敵を殺した瞬間はスッとしました。両親殺され、家も、友達も無くし、更に育ての父であるバーザック様も無くした私達にとって、コレまで抱えてきた憎しみをぶつける相手を手に掛ける事が出来たのですから」
リナルはそこで一息つく。
後ろの子供達も喜びと苦笑を混ぜたような不思議な感情だ。
「ですが、復讐を終えた私達はからっぽになってしまいました。今までの自分を満たしていたモノが、動く為の力が無くなってしまったのです。勿論復讐は虚しいなどという詭弁を口にするつもりはありません。恨みを持った相手を生かし許す理由など無いのですから。復讐は間違いなく私達にけじめを与えてくれました。それは大変喜ばしい事でした」
ですが、と言葉を区切ってリナルは続ける。
「その後がなくなってしまいました。復讐を無くした私達は、その後にしたい事が思いつかなかったのです」
燃え尽き症候群ってヤツだな。
「けれど、呆然とするにしてもアジトの中は血の匂いで満たされていて、仕方なく私達は外に出ました。あの時は外で殺せばよかったと後悔しましたね」
そんな事も考え付かなかったと苦笑するして会話が再開される。
「外に出た私達は誰とも無く地面に寝ころがって夜空を見ました。大切なものを奪われて、初めて落ち着いた気持ちで空を見たのです。そしてキーラが気付いたのです」
後ろに並ぶ少女が頷く。
「星の並びがリタリアのモノでないと」
……何?
「キーラは占星術師、その彼女が星の配置がおかしいと言い出したのです」
後ろからキーラが出てきて言葉を繋ぐ。
「ミミック座の星がリタリアよりもずっと北にあったんです。それにグール星も。だからここはリタリアじゃないって気付いたんです」
な、何だってー!?
星? 星の並びで現状に気付いたのかよ!
マジかよ…………せっかく俺が頑張ってドラゴン時代に行った事のある土地の中からリタリアとかに近い植生の植物が生えている土地を選んだってのに。
それに転移魔法陣書くのも大変だったんだぞ! 星の並びなんて工作できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「それで私達はバーザック様に担がれた事に気付きました。即座にギリギスとヴランズに居る筈の仲間と通信魔法で連絡を取り、彼等も同じ様に荒野に取り残されたと知りました。そして私達は即座に合流してこの大陸に戻ってきたのです」
「ちょっと待った……待った。戻ったというが、どうやってだね? あそこからどれだけ速くとも一年はかかる計算だぞ。どうやって半日も経たずに戻ってこれたのだ!?」
イヤホント。いったいどんなトリックを使ったんだ?
「バーザック様と同じです」
「何?」
リナルがわが意を得たりと語りだす。
「バーザック様、あのアジトの周りに書かれていた模様は転移魔法陣ですよね」
「っ!?」
バカな、アレは魔法で崩したから魔法陣だとは理解できないはずだ。
「破壊されていない陣の欠片から魔法陣であると断定しました。そしてあの状態で使うであろう魔法陣は、大規模転移の魔法だと確信したのです」
おいおい、まさか……
「バーザック様は仰いました。『切り札を持て』と。全員1つ、誰にも秘密の自分だけの切り札を持てと」
つまりリナルの切り札ってのは……
「私の切り札は……『転移魔法』です」
はい! ダブッたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
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