第3話 召喚阻止
勇者君達を逃した俺は、何食わぬ顔で生活をしていた。
俺が憑依したカドルくんに成りすまし、日常を過ごしていく。
だが何もしていなかった訳ではない。
俺は騎士として生活をしながら、王と召喚士達を殺す為の算段を練っていた。
始めは勇者君達が逃げ出した所為で、新たな勇者を召喚するかと焦っていたのだが、どうも召喚には手順が必要だったらしい。
召喚触媒の準備、儀式を成功させる為の補助儀式、そして召喚に最も適した星の並びが揃う日。
そんな手順があった為に、召喚はすぐには行われなかった。
◆
騎士団の訓練を終えた俺達は、いつも通り城下町の食堂に向かう。
「くはー! やっぱ訓練の後はコレに限るよなぁ!」
カドルくんの同僚であるヒイエがジョッキを一気飲みする。
「飲みすぎてぶっ倒れるなよー」
「この程度で倒れるかよ!」
何時もの会話をして、何時もの料理を食べ、いつも通りに酔っ払って帰る。
ソレが俺達の日常だ。
しかし、今日はいつもとは少し違った。
「ご機嫌だな」
聞きなれた声が俺達の耳に届く。
誰かと思って振り向けば、そこには若い騎士が立っていた。
「だ、団長殿!?」
慌ててヒイエが立ち上がり敬礼をする。
俺もすぐさまそれに習って敬礼をした。
エイナル=リイト=アリアン、メリケ国の騎士団長である。
彼は若くして騎士団長となった出世頭である。
「ああ、楽にしろ。今は勤務外だろう」
「「はっ!」」
エイナルにいわれて俺達は敬礼をやめて椅子に座った。
「ここ、良いか?」
「ど、どうぞ!」
エイナルに請われてヒイエが慌てて椅子を引く。
「ああ、ありがとう」
遠慮くする事無くエイナルは椅子に座った。
「君、私にも彼等と同じ物を」
エイナルはスラスラと給士に注文をして俺達に向き直る。
「まずは乾杯といくか」
「「はっ!」」
エイナルが杯を掲げたので俺達もソレを追って杯を掲げる。
「メリケ王国に乾杯!」
「「乾杯!!」」
互いのジョッキを当ててから酒を煽る。
異世界のビールも悪くない。
「それにしても、団長がこちらに来られるとは珍しいですね」
エイナルは騎士団長、つまり貴族だ。
それもこの伯爵家の跡継ぎである。間違っても俺達が来る様な安酒場に来るような人間ではない。
「ああ、お前達に言っておく事があってな」
エイナルの言葉に俺は警戒した。
これまで、少なくともカドル君が知る限りエイナルがこんな事を言い出した事はないからだ。
まさか俺がカドル君に憑依しているのがバレたか?
だとすればエイナルと戦う事も考えなくてはならない。
エイナルはまだ若いが、騎士としての実力は確かだ。
そうでなければ魔族と戦う騎士団の団長になんてなれない。
「一週間後に勇者召喚の儀式が行われる。お前達にはその際の護衛役を頼みたい」
「「はっ!」」
勇者召喚、遂に来たか。
こんなに都合よく儀式に立ち会える事になるとは思わなかったがな。
だが邪魔するには丁度良い。
「前回の勇者達には逃げられたからな。今回の召喚ではソレを警戒して勇者達に呪いをかける事にしたそうだ」
「呪い!?」
えらく物騒な単語が出てきたもんだ。
「ああ。呪いをかけて逆らったら地獄の苦しみを味あわせる。そうやって逃げれないようにするそうだ」
エイナルが顔色1つ変えずに説明する。うん、コイツもクズだわ。
俺の抹殺リストの中にエイナルの名前が登録される。
「だが相手は勇者だ。呪いや苦痛に耐性がある可能性もある。そうだった場合、お前達には召喚士の護衛、場合によっては勇者の殺害も視野に入れてもらう」
「「了解致しました!!」」
大変な事になったぞ。俺が勇者君達を逃した為に王達が本腰を上げて召喚される異世界人を奴隷にしようとしはじめた。
これは何としてでも阻止しなくては。
◆
儀式当日。
俺はヒイエと共に召喚儀式を行う部屋へとやって来ていた。
この儀式が成功しない様に妨害しなくては。
俺の計画は単純だ。
城下町で買ったマジックアイテム煙玉で視界を奪い、召喚士達を皆殺しにする。
その後は誤魔化せるなら賊が逃げたと言って追撃するフリをする。あとは煙玉が投げられたから犯人は分からないと言ってしまえばよい。
もし駄目そうなら、あらかじめチェックしていた逃走経路を使ってこの国から逃げ出す。
シンプルな作戦だが、カドル君の能力と財力ではコレが精一杯だった。
●
「では儀式を始める」
召喚士が宣言をし、召喚呪文を唱え始める。
部屋の広さは5mの正方形。
その中に召喚士が10人、魔法陣の周囲で等間隔に円を絵描いて経っている。
騎士達は武器を構えて部屋の四隅に立っており、そのうち一人は騎士団長であるエイナルだった。
しかもエイナルの立っているのは入り口側の隅。俺が立っているのは部屋の奥、エイナル側の隅だ。
侵入者が入ってきたとするのはキツイな。
召喚士を殺したドサクサで逃げるしかないか。
計画を修正している間にも儀式は進んでいく。
いつ呪文が唱え終わるかも分からない為、俺は早々に行動を開始する事にした。
持ち込んでいた煙球のマジックアイテムを発動させ、足を伝って地面に落とす。
音が鳴らない様に布を巻いていたので、地面に落ちた際の小さな音は儀式の呪文に掻き消された。
あらかじめ練習していた成果もあって煙玉は俺の足元に落ちる。
煙玉は直ぐに煙が沸く訳ではない。手榴弾の様にちょっとタイムラグがあるのだ。でないと使用者が投げる前に煙が発生してしまう、だから余裕がいるのだ。
俺は脚をそっと動かし煙玉を隣の隅で立っているヒイエに向けて蹴る。
煙玉はそっと転がっていき、丁度俺達の中間辺りで止まった。
そして煙が噴出す。
「な、何だ!?」
まず最初に騎士が気付く。
「慌てるな! 召喚士を護れ!!」
エイナルの指示に従って騎士達が召喚士に向かって走り出す。俺も走り出す。
召喚士達は突然の事に動揺して呪文を止める。
「コレは煙玉か!?」
煙が周囲を隠したところで俺は行動を開始する。
部屋の中心がある筈の方向へと進み、誰かとぶつかる。
「ひぃっ!」
鎧では無い感触、間違いなく召喚士だ。
俺は躊躇う事無く横薙ぎで召喚士を切り裂いた。
「ぎゃあ!」
「ぐあぁっ!!」
「ひぎゃあ!!」
近くに居たらしい召喚士も一緒に切り裂いたらしく複数の悲鳴があがる。
更に俺は購入したマジックアイテム、炎玉を周囲にばらまく。
コイツは初級の火属性攻撃魔法を発するマジックアイテムだ。
とはいえ、コレは魔法を使えない人間用なのでとっても弱い。
普通の魔法使いの初級魔法の半分位の威力しかなかった。
だがそれでも十分。何も見えない状況で突然身体が燃え出したらどれだけ恐ろしいか。
「うわぁぁぁぁ!! 火! 火がぁぁぁ!!」
「熱い、アヅイィィィ!!!」
ローブに燃え移ったらしく、召喚士達の悲鳴が上がる。
儀式は大混乱だ。
俺は更に剣をふるって召喚士達を攻撃していく。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
「クソ!! ぶっ殺してやる!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「やめろ、同士討ちになるぞ!!」
パニックに陥った騎士達が闇雲に剣を振り回し味方に攻撃してしまう。
幸い、中央で召喚士を狩っていた俺は召喚士を囲むように護っていた騎士達の攻撃を受けずに済んだ。
「慌てるな! ドアを開けて煙を外に出せ!!」
エイナルの指示で誰かがドアを開けに行く。
不味いな。
俺は今になってこの場に居残るのが難しいと気付いた。
だって俺召喚士切りまくって返り血まみれなんだもん。
そうだよ、人を切ったら血が出るのは当然だよな。
俺は急いで出口へと向かった。
しかし時遅くドアは開け放たれた。
覚悟を決めた俺は残ったマジックアイテムを全てばら撒きながらドアに突っ込む。外にも騎士がいる筈だが、体当たりしてでも逃げる!
煙が外へと流れ出ていく。
俺は身を低くしてドアに突っ込んだ。
筈だった。
横から強い衝撃が走る。
出口が横にスライドしていく。
自分の身体が地面をバウンドして跳ねた時、漸く自分が攻撃されたのだと気付いた。
「かはっ!?」
呼吸が上手く出来ない、苦しい。
「召喚士を部屋から出せ! 入り口を固めろ! 賊を外に出すな!!」
エイナルの指示を受け、騎士達が召喚士を逃がす。
そして煙の大半が部屋の外へと流れ出し、遂に互いの姿が認識できるほどになった。
「お前は、カドル!?」
エイナルが驚きの声を上げる。
「何故お前が儀式の邪魔を!?」
他の騎士達も動揺している。賊かと思ったら仲間である俺が儀式を邪魔していたのだからな。
しかしこの状況は不味い。
とても逃げれそうにないし。もし捕まったら拷問をしてでも情報を引き出そうとするだろう。そうなったら俺の憑依スキルの事がバレてしまう。
もしスキルの事がばれたら、きっと俺を処刑しようとはせずに牢屋にでも入れて自然死させるだろう。
それは不味い。
「…………」
「ダンマリか。だが必ず口を割らせる。我が国の拷問士は甘くないぞ」
やっぱり拷問か。
なら、覚悟を決めるしかないか。
俺はゆっくりと立ち上がってエイナルに近づいていく。
「武器を捨てろ。大人しく捕まるのなら捕虜として扱ってやる」
でも拷問はするんだろ?
俺はエイナルとの距離がギリギリまで縮まった所で、剣を手に一気に飛びかかかった。
「貴様!?」
俺のやぶれかぶれの攻撃にエイナルは反撃をする。
若くして騎士団長となっただけあってエイナルの動きは洗礼されていた。
何よりも動きが違う。
明らかに才能のある人間の動き、凡人には超えられない壁の向こうの動きだった。
このままでは間違いなく負ける。
エイナルの攻撃が俺の腕や足を切りつける。
だが致命傷ではない。
殺したら情報が手に入らなくなるからだ。
だから俺は遠慮せずに特攻を続けた。
「うおぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「くっ!! 正気か!?」
負傷を恐れる事無く突っ込んでくる俺に対し、エイナルが驚愕の声を上げる。
もっと怯えろ!
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
何度も何度も、どれだけ傷つこうとも俺はエイナルに特攻をし続けた。
周囲の騎士達も俺の異様な特攻に気圧されて立ち入る事が出来ないでいる。
「死が恐ろしくないのか!? 傷つく事が恐ろしくないのか!?」
怖いに決まってる! 痛いに決まってる!!
だが、だからこそ今死ぬほど痛い思いをしてでも攻撃を続けなけりゃならないんだよ!! その後の為によ!!
そして遂にその瞬間は訪れた。
「ぐぶぉっ!」
「っ!? しまった!!」
エイナルが悔恨の声を上げる。
床に血が撒き散らされた。
血の源は、背中から鋭い棘を一本だけ生やしている。
エイナルの剣という棘を。
そう、俺はエイナルに刺し貫かれたのだ。
「なんという事だ」
エイナルの声だけが聞こえる。
身体から熱が失われてゆく。
そして俺は意識を失った。
◆
「治癒術師を呼んで負傷者の治療に当たれ! お前達は最近のカドルの行動を調べ、裏繋がっている者達を探れ!」
「はっ!!」
部下達が命令を受けて行動を開始する。
騎士団長エイナルに憑依した、この俺の命令に従って。
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