第41話 聖なる魚

「行くぞカジキ!!」


(応っ!!)


 漁師を乗せた俺は大竜魚に向かって突撃を行った。

 漁師はモリで、俺は吻を武器に大竜魚に必殺の一撃を!


 ペチン


 吹き飛ばされた。

 以外にも長い大竜魚のヒレが俺達を襲い、牛の尻尾がハエを払うかの様に吹き飛ばされたのだ。

 実際にはベジュイィィィィィィン!!!!! ってくらい痛かったが。


 バシャーーーーーーーンッ!!!


 勢いよく吹き飛ばされた俺達は石切の要領で水面を跳ねていく。

 もうあの漁師死んでねぇ?

 そして水のクッションで漸く止まった時には俺達は大竜魚から400mは飛ばされていた。


(おーい、大丈夫か?)


 死んでいる気が激しくする漁師に向かっていき、生死を確かめる。


「う、うう……」


 おお、生きてたか。

 400mも吹き飛ばされてよく生きていたモンだ。

 真上ではなく、横に吹き飛ばされていったのが丁度受身の状態になったのだろうか?

 まぁ世の中にはスカイダイビングをして、パラシュートが開かずそのまま落ちても生きていた人間がいるからなぁ。

 色々と運が重なったんだろう。

 だがコレでは闘うのは無理だな。

 仕方ない、運んでやろう。

 俺は魔力が切れて港に戻ろうとしていた船に追いつき漁師を引き渡す事にした。


「おい、あれ、誰か流されているぞ!」


 戦況を見ていた人間が丁度都合よく漁師に気づいてくれた。


「カジキに乗っているぞ。何で魚がコイツを助けてくれたんだ?」


 いいから早く回収しろ。


 ●


「よし、あげてくれ」


 船から下りた作業員が漁師をロープにくくりつけ、仲間に引っ張り上げてもらう。


「やっぱりカジキだ。あの危険なカジキが俺達の仲間を助けるなんて、いったいどういう風の吹きまわしだ?」


 お前等が死ぬと漁が仕事できなくなって俺を殺せなくなるからに決まっているだろうが。

 漁師の回収を確認した俺は颯爽と戦場に戻る事にした。


「おい、あのカジキ大竜魚の暴れている方向に向かってるぞ」


「まさか闘うつもりなのか? 無茶だ!」


 魔法使い達が俺の心配をしてくれている。

 いいのさ、気持ちだけ貰ってくよ。


「きっと神の御使いだ! 俺達を大竜魚から救う為に神が遣わされたんだ!!」


 いや、ぜんぜん違うから」


 ◆


 戦いは大竜魚の優勢だった。

 それもその筈、元々大竜魚は全長70mはあろうかと言う大怪魚だ

 幾ら魔法使い達の支援があったとはいえ、人間とのサイズ差は相当なもの。

 真っ向からの殴り合いでは勝ち目が無い。

 だったら、真っ向から闘うのは人間達に任せる事にしよう。

 俺は海中に潜って大竜魚の真下に付く。

 そして下方から勢いよく突進を行って大竜魚の腹にチャージ攻撃をかました。

 予想もしていなかった方向からの攻撃。大竜魚が悲鳴を上げて身をよじる。

 格闘ゲームで上段攻撃を警戒していたら下段攻撃が来て投げを喰らった気分だろう。

 俺は何度もチャージを繰り返す。

 攻撃が当たるたびに大竜魚が身をよじって苦しむ。


(けっこうダメージを与えたかな?)


 だがそれは慢心だった。

 何度も攻撃され怒り狂った大竜魚は海上の人間を無視して俺を攻撃する事に専念し始めた。

 人間の細くて貧弱な銛よりも俺のチャージの方が危険と判断したのだろう。

 再度チャージをしようと潜っていた俺を大竜魚が追いかけてくる。

 巨体の割りに意外と速い。

 大竜魚が大口を開けて俺を噛み砕こうとする。

 だが俺は紙一重で回避して海面へと向かう。

 一対一で闘うのは危険だ。せめて人間にも役立ってもらわないと。

 海面に飛び上がり、滞空時間で人間達の状況を確認する。

 何席もの船が転覆し、いくつかは沈没し始めていた。

 見ればよく面に巨大なでギザギザな円形の穴が空いている。

 恐らく大竜魚に噛み付かれた後だろう。


(あの跡、海底の沈没船の穴と似ている)


 サイズこそ違うものの、穴の形状は沈没船のものと告示していた。

 どうやら大竜魚は昔から悪さをしていたらしい。

 滞空時間が終わり、海中へと戻った俺は大竜魚の姿を確認する。

 流石にあの巨体では旋回に時間がかかるらしく、今だこちらの姿は発見出来ていないようだ。

 俺はその間に海面に投げ出され傷を負った漁師達を無事な漁師達の近くまで運ぶ。

 漁師達が俺に気付いたらあとはお任せで俺は距離を捕る。

 大竜魚が旋回を終えたらすぐにこちらに向かってくるはずだからだ。


 それからの戦いは長期戦だった。

 大竜魚が突撃してきて俺を噛み砕こうとし、俺はそれを回避して可能ならチャージを敢行。

 人間達はその隙を塗って可能なら銛で攻撃というパターンが続いていた。

 一見勝てそうなサイクルだが、それは難しかった。


「ああ、俺の船が」


「諦めろ、今は目の前の敵に集中だ」


 大竜魚の攻撃が失敗しても、俺が避けた先に漁師達の船があれば彼等が被害を受ける。

 更に大竜魚が動いた波で転覆する可能性も高かった。

 そうなると俺は攻撃を中止してでも漁師達を助けなければならなくなる。

 なぜわざわざ助けるのかって?

 それは簡単。最大攻撃力を減らしたくないからだ。

 最大攻撃力を維持していれば、常に最大の力を発揮する事はできなくとも、味方を撃墜されても敵に与えるダメージを維持できる。

 目の前の攻撃に目を奪われれば、気付いたら残っていたのは自分だけになってしまう。

 だからこその救援。

 しかし時間は疲れと言う新たな敵を呼び寄せる。

 何何時間も闘い続けた戦いに漁師達にも拾うが溜まる。

 こうなったら、俺が大竜魚の目を狙って視界を奪い、漁師達を一度町まで戻した方が良さそうだ。

 それに俺の限界も近い。

 覚悟を決めた俺は大竜魚へと突撃を敢行する。


「無理だ!」


「お戻りくだせぇカジキ様!」


 漁師達が止めるが、俺としても簡単には死ぬ気は無い。

 俺はコイツを倒して漁師達人間に俺を食べさせなくてはならないからだ。


(だから、お前は邪魔なんだよ!!)


 残った力を振り絞って俺は走り出した。

 そして……


『大物はっけーん!!』


 ……近隣の海最大の捕食者が乱入してきた。

 真っ赤な宝石の鱗。サファイアのヒトミ。オパールの目。

 この世でもっとも美しい宝石のドラゴン、その名は竜姫メリネアルテニシモアムエドレア。

 ドラゴンの王、竜皇の一人娘である。

 メリネアは俺が決死の思いで戦っていた大竜魚に噛み付くと。そのまま首を食いちぎってしまった。


『なかなかの量ね。味は大味だけど』


 メリネアが海を荒らしていた大竜魚を美味しく食べ始める。

 どうやら俺達の戦闘がメリネアの目に留まったらしい

 そしてその光景を見た漁師達の行動は早かった。


「そ、総員小声で全力撤退ー!」


 即逃げる事にした。


 ◆


「まさかあんな所にドラゴンが現れるとは思えなかったぜ」


「ああ、喰い殺されるかと思ったよ」


「けどドラゴンが現れたお陰で助かったよな」


「だな。さしもの大竜魚でもドラゴンには勝てなかったか」


 俺の嫁です。


「ドラゴン様々だ」


「「「「ははははははっ」」」」


 グー。


 突然船の上で気の抜けた音がした。


「あー、緊張が抜けたら腹が減っちまったぜ」


「だな、早く町へ戻って腹いっぱい飯を食おうぜ」


「ああ、俺は刺身が食いてぇな」


「俺もだ」


 いまが好機!!

 俺は即座に漁師達の傍に音を立てて浮上する。


「あれは……さっきのカジキだ!」


「本当だ、カジキだ!」


「カジキだ……」


 さぁ、腹の減った人間達よ。

 俺を襲うが良い、そして食料を手に入れるのだ!

 人間達よ、ボクの身体をお食べ!!

 だが人間達は予想外の行動に出た。


「カジキ様、ありがとうございます!!」


 人間達は俺に向かって土下座を始めたのだ。

 なにこの状況。


「貴方様が我々を助けてくださらなければ、今頃全滅しておりました。つきましてはカジキ様を我等の町の聖獣として未来永劫あがめた手間ツラさせていただきたく存知ます!!」


 それは、ポナリの町では今後絶対にカジキを食べない宣言であった。


(どうしてこうなった!!)


 俺のカジキライフはもうちょっとだけ続くのだった。

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