第72話 ブラック勇者共
それは地獄絵図だった。
「ヒャッハー! 見たか俺の【粉塵爆破】スキルを! コイツはどんな粉モノでも爆発させられるステキスキルなんだよぉぉぉぉぉ!!」
「燃えろ燃えろ! 俺の【業火】スキルでみんな燃えろー!!! 俺のスキルはどんなモノでも燃やす事が出来るんだぁぁぁぁぁ!!! ほぅぅ……美しいぜぇ」
「切る切る切る切る!! 俺の【両断】スキルで皆真っ二つだ! 何でもかんでも真っ二つだぜぇぇぇ!!!」
うっわー……何コレ?
何か勇者達が城を破壊したり魔族騎士達を虐殺してまわってるんだが。
……えーと、勇者ってこんな世紀末無法者だったっけ? 今まで遭遇した勇者達が例外的にまともだったのか?
いやいや、高柳さんとか普通だったよな。
って事はあいつ等がの方が例外?
「おい! 何をやってるんだ!! 俺達の目的は魔王と敵の王子だろ!!」
と、そんな光景に呆然としていたら、何人かの勇者達が暴れていた勇者達を諌めにやって来た。
「だからだよぉぉぉぉ、俺達が暴れれば敵も現われるだろ?」
「燃やしちまえば隠れる場所もなくなるしな」
「壁も天井も真っ二つにすれば逃げ場は無い」
暴れていた勇者達が愉快そうに笑う。
「だからといってやりすぎだろう! 彼等は王子の命令で戦わされているんだ。王子と魔王さえ確保できれば他の魔族と闘う必要は無いだろうが!!」
良識的な方の勇者達は無差別に暴れまわる勇者達に怒り心頭って感じだ。
どうでもいいけどどっちも勇者で分かりづらいな。
とりあえず暴れている方をブラック勇者と命名しよう。
ブラック勇者達は勇者達の説教など何処吹く風といった感じだ。
「別にいいだろぉ? 俺たちゃコイツ等魔族を殺しつくす為に召喚された勇者様なんだぜ」
「だからと言って何をしても良いって訳じゃないだろ!!」
うーん、勇者と言ってもランダムに召喚されたから性格もまちまちだなぁ。
だがコイツ等を放っておくと間違いなく無辜の民が犠牲になるのは目に見えている。
勇者達も同郷の仲間を傷付けたくないのか力ずくでやめさせようとはしない。
そしてブラック勇者達もソレを理解しているから好き勝手に振舞うのをやめない。
全く、そんなんだからそいつ等が調子に乗るんだよ。
しゃーない、俺がコイツ等を黙らせるか。
「その辺りにしてもらおうかな」
俺の声に勇者達が振り向く。
「何モンだ手前ぇ!!」
どう聞いても悪役のセリフだなぁ。
「土のマーデルシャーンという。城を破壊し同胞を虐殺する邪悪な人間を退治しに来た」
「何言ってやがる! 手前ぇら魔族が戦争を仕掛けてきやがったんだろうがよぉ!?」
まぁそうなんですけどね。
「コイツはルシャブナ王子と並んで重要人物だ! 可能なら捕獲するぞ!!」
「知るかよぉぉぉぉぉう!!!」
「早いもん勝ちだろ」
「真っっっっ二つぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
勇者達の指示を無視して襲い掛かってくるブラック勇者達。
うーん、このかませ臭。
とりあえず迎撃するか。
「喰らえぇぇぇ!!!」
ブラック勇者その1がでかい袋をこちらに放り投げてくる。
袋は口が開いており、その中から白い粉が噴出していた。
「何だ!?」
とても武器とは思えないがあれは一体?
袋が地面にバウンドすると、中の粉が周囲に撒き散らされる。
建物の中で撒き散らされる白い粉……なんか嫌な予感……って、ああ!!
俺はそこに至って漸く先ほどのブラック勇者その1のセリフを思い出した。
ブラック勇者その1のスキルの力を。
「んーじゃ爆発しろよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ブラック勇者その1が手をかざした瞬間、空中にまき散らかされた小麦粉が爆発した。
間に合え!!
「ロックウォール!!!!」
俺はマーデルシャーンが最も得意な土属性の防御魔法を発動させながら、身を倒す様に伏せた。
直後轟音が鳴り響く。俺は鼓膜が破れないように口を開けて地面にへばりつく。
至近距離で爆発物が炸裂した時の対策とかが書かれていたサバイバル系の本の知識だ。
正直よく覚えていたもんだ。
石の壁が何とか粉塵爆発を防いでくれたが、周囲に居た勇者達は大丈夫だろうか?
あのブラック勇者達の性格を考えると仲間を気遣うなんて考えはなさそうだもんな。
魔法を解除して勇者達の様子を確認する。視界には爆発の影響を受けてダメージを負った勇者達と、こちらに向かって何かを投げるブラック勇者その1の姿だった。
「え?」
袋からもれて居るのは黒っぽい粉。
「胡椒か!!」
これはブラフだ。胡椒では粉塵爆発は起きない。
ヤツは俺が粉塵爆発を防いだ事に気付き、胡椒でこちらを動揺させて懐に接近する策なのだろう。
だが俺は普通の魔法使いでは無い。
身体能力を何倍にも高める龍魔法の使い手なのだ! 多少ならば接近戦だって可能だ!
即座に龍魔法を発動させて胡椒袋の下をくぐってブラック勇者その1に殴りかか……
「爆発っ!!!!」
そうブラック勇者が叫んだ瞬間、胡椒が大爆発を起こした。
背中を襲った爆発によって俺は床に激しく叩きつけられる。
かろうじて意識はあるが、龍魔法が無ければ意識を失うどころか死んでいたかもしれない。
だがそれ以上に俺は不可解だった。
「何故……だ!?」
ブラック勇者その1が投げたのは胡椒じゃなかったのか?
「おやーまだ生きてたのか。中々シブトイねぇ。けどアレだ。俺のスキルのダメージは相当深刻みたいですよ」
「そりゃいけないな。傷口を焼いて血を止めてやらないと」
「いやいや、痛い所を全部切ってやろうぜ」
「っ!?」
どういう事だ!? 勇者達は全員ダメージを負っているってのに、ブラック勇者達はピンピンしているじゃねーか。
「不思議そうだな。いいさ教えてやろう。俺のスキルは【業火】どんなモノでも燃やす事が出来る。だから爆発を燃やした」
なっ!?
「俺のスキルは【両断】なんでもかんでも真っ二つだ。だから爆発も真っ二つに切った」
嘘だろ!?
「そして俺のスキルは【粉塵爆発】どんな粉モノでも粉塵爆発ができる。胡椒でも墨の粉でも砂でもな! そしてそんなスキルなんだから使用者は無傷なのは当然だろう」
ズ、ズリィ!! 何だよそのメチャクチャなスキルは!!!
スキルってそんなヤバイモンばっかりなのかよ!?
俺はバーザックやマーデルシャーン、それにエイナルの知識を使ってスキルに関する情報を探し出す。
結果……
ヤベェ、スキルマジやべぇ。
彼等の知識に残っていたスキルは、その全てが規格外の代物だった。
そういえば前に乗っ取った勇者のスキルもかなり強かったし、スキル持ちってのは相当恵まれた存在って訳かよ。
とにかく、ここに居たらまた粉塵爆発を喰らう。何とかして逃げないと……
「おーっと、逃げようとしてたろお前」
だが逃亡の気配を察したブラック勇者その1が俺を力いっぱい踏みつけた。
「ぐはっ!!」
「ふひゃははははは!!! ぐはっ! だって! お前四天王なんだろ? それともアレか? 『ヤツは四天王の中で最弱!』とか言われてる系?」
俺を踏みつけた状態でブラック勇者が楽しそうに笑う。
手前ぇ調子に乗んなよ!
「なぁなぁ、俺等にも楽しませてくれよ」
「そうそう、俺四天王真っ二つにしてぇよ」
ブラック勇者その2とその3が俺達に近づいてくる。
「おーけーおーけー。皆で楽しもうぜ」
「さっすがカッちゃん、分かってるー!」
何がカッちゃんだ、お前等直ぐに地獄を見せてやる。
ブラック勇者その1が俺の背中を踏みにじりながら大げさな振りで声を張り上げる。
「さーて、これから四天王様の活け造りショーをはじめますよー」
言ってろ。
俺はブラック勇者達が近寄ってくる瞬間を見計らって、ブラック勇者その2とその3の足を掴んだ。
「手前ぇ往生際が悪いんだ……」
「ディメンジョンジャンプ!!」
俺は転移の魔法を発動させた。
三人のブラック勇者を巻き込んで。
◆
「なっ!? 何だぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「お、落ちるぅぅぅぅぅぅ!!!」
そこは空だった。
俺達は、自分が先ほどまで居た魔王城の上空に転移した。
俺は飛行魔法で落下を免れたが、飛行魔法を持っていないブラック勇者達はそうも行かなかった。
粉塵爆発させる粉の無いブラック勇者その1、燃やす物の無いブラック勇者その2、真っ二つにする物の無いブラック勇者その3。
スキルの力が役に立たない彼等は、なす術も無く地面に墜落した。
「スキルの力だけに頼っちゃいけないって事だな」
俺もちょっと反省した方が良さそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます