第129話 ただいま日本 前編
「本当に日本に帰る事が出来るのか!!!?」
静かな室内を揺るがす程の声が響き渡る。
ココは魔族達の臨時王都、その中の一室。
そこにいるのは、魔族の王子ルシャブナと勇者のリーダー高柳さん他大勢だ。
そして大声を出したのはリーダーの高柳さん。
周囲の魔族と勇者達が珍しく声を荒げた高柳さんの姿に驚いている。
「ああ、すまない。いやすみません」
高柳さんは直ぐに冷静さを取り戻し、敬語で再度質問をしてくる」
「ええ、その通りです」
俺は勇者達を日本に帰還させる為、以前魔族にコンタクトを取った時の姿であるドットリオの名前を出して彼等に接近した。
突然姿を消したドットリオの関係者と言われた事で、俺は詳しい話を聞かせてもらいたいと王宮の中へと連れて行かれた。
どちらかといえば、エルフやドワーフの【源泉】と【井戸】に関しての情報を求められていたみたいだが。
そこら辺に関してはドットリオに聞けの一点張りで通して、自分は勇者を元の世界に帰還させる為に来たとだけ伝える事にした。そしてこの状況だ。
「私はドットリオさんと同じ組織に属しております。ドットリオさんの担当は魔族がこの世界に侵略してきた原因の調査。そして私の担当は勇者様達を元の世界にお返しする事です」
今の俺はこの世界の人間の体を借りているので、勇者達には敬意を表した態度をとって会話をしていた。
これが日本人の身体なら日本人らしい距離感での会話が必要になる訳だが。
「我々が開発した勇者送還術式を使う事で皆さんをもとの世界へとお帰しする事が出来ます」
もう一度俺が元の世界へ帰れると言った事で、勇者達からどよめきが上がる。
さっきは高柳さんの声で皆驚きそびれてたからな。
クール系指導者の高柳さんが驚くとは珍しい事もあったもんだ。
だが勇者達の反応はまちまちだ。喜ぶ者、思い悩む者等色々な感情がその場に溢れる。
勇者達は地球に帰りたがっている。
だが全員が帰りたがっているわけでは無いのだ。
例えばこの世界とスキルの力に魅せられた者。そしてこちらの世界で伴侶が見つかった者。
単純に地球に世界に帰ると都合が悪くなる者。
まぁ帰るか帰らないかは好きにして欲しい。俺は帰りたいヤツだけを帰すからさ。
「といっても、すぐには答えの出ない方がいらっしゃるようですので、一週間後までに答えを決めて頂きたい」
「そう……ですね。まだ帰ってきていない者達も居ますから、一度【通信】スキルの使い手に頼んで全員を呼び戻します」
皆が興奮する中で高柳さんだけは冷静さを維持して返答をしてくる。それでも言葉の端々に見える興奮の残り香は隠せないが。
「本当に感謝します」
高柳さんがぴったり90度頭を下げて礼を言ってくる。
「いえいえ、お気になさらず。私の仕事ですから」
ここまで感謝されると逆にくすぐったい。
「それでは私はコレにて」
高柳さんは頭を下げたままだ。
その時、高柳さんの口から小さな呟きが漏れる。
「漸く、漸く帰れるぞジョウタロウ、ユキ……」
んー、なんか聞き覚えのある名前のような気が……まぁ同姓同名の他人だろう。
◆
その後、俺が帰ろうとしたら以前ドットリオがバックれた事について聞かれそうになったので転移魔法でおさらばした。
アイツ等はもう【源泉】も【井戸】作れんから後は魔族がどうするかの問題だ。
【源泉】と【井戸】が破壊された事を確認した後、エルフとドワーフを放置してリ・ガイアに帰るのか、あいつ等が二度と同じ物を作れ無い様に殲滅戦を行うのか。闘うとなったら魔族には相当の犠牲が出るだろうが、エルフはあのスライムで圧倒的に数を減らしているし、ドワーフも井戸がなくなったから鎧を動かすだけの魔力結晶は作れないといっていい。1つの世界に暮らしていた種族が圧倒的な数で攻めれば両種族は滅びるだろう。
俺はあくまで一連の騒動の原因となったアイツ等が好き勝手出来なくした時点で復讐を終えた。
後は俺達地球人以上の被害を被った魔族達に任せるさ。
流石に2つの種族を滅ぼすなんて話は俺には重過ぎる問題だ。
過去の地球人は沢山の種族を滅ぼしていたけどさ。
俺はあくまでも現代の一般人だ。
◆
そして一週間後、俺は勇者達に返事を聞きにやって来た。
「お父さん、あの人達が勇者さん?」
娘が大量に集まった勇者達を見ながら聞いてくる。
「そうだよ。でもお父さんじゃないだろ」
娘が慌てて口を噤み、メリネアの元へと駆けていく。
先週勇者達と面会に行って帰ってきたら、娘にえらい怒られた。
勝手に居なくなってズルイと。
仕事に行っていたと説明したのだが、子供の癇癪に理屈は通じない。
メリネア耳元でこっそりと教えてくれて、漸く娘が俺が居ない事に怯えていたのだと理解した。
なるほど、父親と引き離され、母親と再婚相手の元で虐待を受けていたのだから、俺が居なくなったことでまた俺が帰ってこなくなると思ったらしい。
といった出来事があって、娘は俺に24時間引っ付きぱなしでトイレにも困る有様だった。
そして勇者達の面会場所にまで付いてきてしまったのだ。
泣く子にゃ勝てないってヤツで、メリネアの護衛を条件に許可をする事となった。
なお、メリネアには後日護衛料として腹いっぱい食事を作るという裏取引がなされたのは娘には内緒である。
娘には勇者達と会う条件としてメリネアの傍から離れない事、そして俺の事をお父さんといわない事を約束させた。
これは俺が憑依する度に姿が変わる事と、娘を人質にして俺に異世界への転移ゲートを開かせようとさせない為だ。
勇者達の大半は地球に帰るだろうが、彼等に拠点を貸していた魔族がどう動くか分からない。
本当は連れてくること自体避けたかったんだがなぁ。
「おお、来てくれましたか」
高柳さんが俺の姿を見つけてやって来る。
「帰還される勇者様はこちらで全員でしょうか?」
「ええ、連絡が付いた勇者185人中151人。残りはこっちの世界に残るといってどこかに行ってしまいました」
「連絡がついたという事はまだ確認の取れていない勇者様がいらっしゃるのですか?」
「ええだがこの世界です。旅の途中で死んでる可能性が高い。勇者と言っても人間、油断して死ぬ事があります」
なかなかドライな発言だ。だが事実死んでる勇者は多いしな。
「承知いたしました。それでは今後ご帰還を望まれる勇者様と遭遇いたしましたら私共が勇者様方を故郷へ帰還させましょう」
「何から何まで申し訳ない。しかし……その、あなた方は何故そこまで我々に強力してくださるんですか?」
歯に物が挟まったような感じで高柳さんが俺に質問してくる。まぁ聞きたい気持ちは良くわかるわ。
一切の謝礼を求めず、人間、魔族、勇者と様々な人種が勇者達を元の世界に帰還させる為に強力してくれるんだからだ。
しかも魔族がこの世界に侵略してくる原因まで知ってたとなれば気にもなろうと言うもんだ。
まぁ説明する気は無いので適当に答えておこう。
「我々の長の望みですよ。我々の長はとある勇者様に大層お世話になりました。そのご恩返しと思ってください」
「恩返しですか」
高柳さんはそれ以上聞いてこなかった。信じてくれたのか、それともそう言う事にしておこうと思ったのか。
「それでは勇者様方を元の世界へお送りさせて頂きます」
「ええ、宜しく頼みます」
◆
俺は勇者達を連れ城から出て近くの草原へと連れて行く。
メリネアと娘は勇者達の後ろから付いてくる。更にその後ろには魔族の騎士団だ。
彼等は見送りと言うよりは監視だろうな。
「何処まで行くのですか?」
直ぐですよ。
俺は草原に転移魔法陣をが書かれた大きな布を広げ、四辺に大き目の石を乗せて固定した。
「この魔法陣で勇者様を帰還させる魔法陣のある場所までお送りします。人数が多いので数回に分けてお送りします」
「馬鹿な! あんな魔法陣でこの人数を運ぶというのか!?」
「たった一人の術者で魔力が足りる筈が無い!」
後ろの魔族達が驚きの声を上げる。
どうやら騎士だけでなく、転移魔法関係の技術者も居たみたいだ。
まぁドワーフとエルフの技術が混じったハイテク魔法陣だからな。仮にコレを盗み見ても彼等には複製は不可能だろうさ。
俺は勇者を20人ずつに分けて転移させる。
転移先はプルスア山脈の近くにある平原だ。
そう、以前俺が魔改造トラックの試運転をした場所である。
そこに最初の勇者達を運ぶと俺は量販店で購入した地球の服を勇者達に手渡す。
「こちらは勇者様達の世界の服になります。残りの勇者様達をお運びしている間にお着替え下さい」
「あ、はい」
勇者達に服を纏めて手渡したあと、俺は転移で帰還する。
後ろの方で勇者達が「おい、これムミムロの服じゃね?」とか言ってるのはスルーだ。
◆
そうしてほぼ全員の転移が終わる。
勇者達を一度に20人ずつ運んで7往復、最後の11人+メリネアと娘を運んで終わりだ。
「ではコレで最後です。メリネア、由紀! お前達も来なさい」
「ええ」
「はーい」
「えっ!?」
何故か高柳さんが反応する。
高柳さんはメリネアと一緒に来た娘を愕然とした顔で見つめていた。
「由紀……か?」
娘は高柳さんの声に反応してその顔を見る。
「あれ? タカおじちゃん? 何でここにいるの?」
あれ? 知り合い?
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