第66話 襲撃、魔族前線基地!

「成程、魔族の前線基地か」


 俺達はバグロムの手に握られていた手紙を、勇者達のリーダーである高柳さんに見せる事にした。

 高柳さんは一通り手紙を読んだ後、目を瞑って考え始めた。


「うーむ」


 一見ただうなっている様に見えるが、アレは高柳さんのスキル【戦略眼】を発動させているのだ。

 【戦略眼】は自分が得た情報を組み合わせて望みの結果に導く為の作戦を考えてくれるスキルらしい。

 ただし【戦略眼】の作戦成功率は手に入れた情報の精度と量に影響されるので、偽の情報が混ざっているとそれだけ成功率がさがる。

 そうした理由から高柳さんの周囲には情報収集に特化した勇者がサポートとして何人もついていた。

 王を立て続けに失い、勇者召喚の術式を失ったメリケ国が今だ無事なのも、高柳さんの作戦のお陰と言って間違いないだろう。

 だからこそ、高柳さんには欠片も俺の情報を与えたくは無いな。

 彼のスキルはを考えたら、今は味方でもいずれ敵になったらやばい相手だと認識せざるを得ない。

 俺の【憑依】スキルは倫理的には問題があるスキルだし、もしかしたら自分が乗っ取られるかもしれないと分かったら俺に危機感を覚える奴もいるだろう。

 なによりメリケ国に対して行った事を人道に反すると怒る連中も居るかもしれない。

 だからスキルの事はナイショにしておかないと。


 ……スキルといえば、この身体のスキルは使えるのかな?

 今までスキル持ちに憑依した事ないからそこら辺は分からないや。

 魔法は使える訳だからスキルも使えるとは思うが。

 えーと、この身体の持ち主、サカザキ=タクヤのスキルは……【波動掌】?

 掌の形をしたエネルギーの塊を飛ばす事が出来る。純粋なエネルギ-の為、魔法防御をすり抜けて効果を発揮し、込められた力によって威力や大きさが変わる。使用者の意思で自分の手と連動して動かせる。ただし1日3回まで。使用後は24時間の休息が必要か。

 ふむふむ、中々強そうな能力だな。いざという時は活用させてもらおう。


「よし、皆集まってくれ!!」


 作戦を思いついたらしい高柳さんが全員を召集する。

 遂に魔族との決戦が始まるようだ。


 ◆


 戦闘が始まった。

 プルスア山脈を渡らずにメシコンに行く為の迂回ルート近くに隠された魔族の前線基地に、勇者とカネダ国の軍隊、そしてメリケ国の軍隊が強襲を仕掛けた。

 何故カネダ国の軍隊が関わっているかというと、魔族の前線基地はカネダ国の領内に有るからだ。

 そして勇者達はメリケ国の所属。仮に勇者達だけでカネダ国に入って魔族と戦争をしても、メリケ国が自国領内で他国と戦争をした事になってしまうのだ。

 そこで高柳さんはメリケ国の騎士団に連絡をし、カネダ国に対して前線基地への総攻撃の許可を貰うように提案した。

 そこで問題となったのが、カネダ国が今後の国家間での発言力を高める為に自国の軍隊のみで前線基地を攻撃する事だった。

 もしそれを強行し失敗したならば、魔族達は基地の守りを最大限に高めるだろうし、最悪転移ゲートを破壊して本拠地への道を閉ざす可能性がある。

 それを高柳さんは何より恐れた。

 その結果、一旦魔族の基地の場所を秘匿し、メリケ国とカネダ国で手柄を共有して、他国に対して互いに発言力を得ようと言う事で話はついた。

 本当なら周辺国家全てで攻撃したかったところだが、前線基地の立地などを考えると、同時に攻めるにも限度が会った為にこの戦力で妥協したみたいだ。あとそれだとカネダ国が納得せずに地力で基地を探そうとして奇襲作戦が台無しになる為らしい。

 そうした紆余曲折があって、互いの足並みをそろえるのに少々時間がかかったものの、何とか準備も終わり、魔族の前線基地への襲撃が行われる事となった。


 ◆


 深夜、夜が明ける直前に襲撃は行われた。

 魔族や魔物には夜の方が活動し易い種族がいるからだ。だが日が昇っている時に近づいたらあっという間にバレてしまう。

 だから夜が明ける直前、もう来ないだろうという時間を狙っての襲撃だった。

 先行した隠密系勇者と斥候部隊が敵前線基地の入り口を魔法とマジックアイテムで爆破する。

 即座に灯りが増え、襲撃を知らせる警報魔法が鳴り響く。

 高速移動の出来る勇者と突撃騎士達に魔法戦士達が入り口に殺到する。

 本来なら城壁の上から弓兵と魔法使いが攻撃してくるはずだが、そいつ等は既に斥候部隊によって無力化、入り口はフリーパス状態となっていた。


「よし、転移ゲートを最優先で制圧しろ。他は無視して構わん!!」


 事前に行われた打ち合わせ通り、勇者達が転移ゲートへ向かっていく。

 既に隠密系勇者達が見張りを倒して施設の制圧準備をしている筈なので、俺達は敵が転移ゲートを防衛出来ない様に転移と操作の二つの出入り口を制圧するのが役目だ。

 その直後に制圧チームが先行した隠密形勇者達の援護に向かい装置を完全に制圧。

 その間俺達は敵の攻撃をしのぎながらメリケ国とカネダ国の援軍到着まで粘り、合流後は両国の騎士団に基地の制圧を任せる。

 その後俺達は回復魔法と魔法薬でHP、MPを回復させ、解析班が転移装置の操作方法を解析次第魔族の本拠地へと進軍を開始する手はずだ。


 だがそこに雷のような轟音が轟く。


「何の音だ!?」


 見れば前方に有る転移ゲート付近で、大規模な戦闘と思しき土煙が上がっていた。


「どうやら敵さんも必死だな」


 一歩間違えば自分達の本拠地に敵が攻め込んでくるのだから、彼等も必死だろう。


「急ごう、先に行った連中が心配だ!」


「ああ」


 そこで俺達は信じられない光景に出会った。

 転移ゲートの入り口を守るように戦う巨大な魔物の姿。

 ソイツが先行した勇者達を全員地に叩き伏せていたのだ。 


「馬鹿な!?」


 戦闘特化では無いとは言え、最前線で戦い続けてきた歴戦の勇者と騎士達をあの魔物は物ともしていなかった。


「ぐふぅぅぅ、またしても人間共がやって来おったか……」


「アレは!?」


「どうした?」


 俺の驚きの声を聞いた勇者が何か知っているのかとたずねてくる。


「いや、あんなデカい奴は初めて見たからおどろいただけだ」


「だな、魔族のヤツ等あんな隠し玉を用意していたなんてな」


 俺の言い訳を信じてくれたみたいだが、俺はアイツの事を知っていた。

 大きさこそ違うが、あの姿は間違いなく俺の知っている魔族だ。

 赤黒い肌の巨大な魔族。その名は……


「千人長ボークシャー」


 この前線基地の司令官だった。

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