第67話 巨人との死闘

「ここは通さんぞ!!」


 この作戦の要、転移ゲートの前で魔族前線基地の司令官バークシャーは大暴れをしていた。

 しかもご丁寧に入り口には大きな瓦礫が詰んであって、足元をすり抜けて中に入り込むのは不可能だ。


「アレはどっちの入り口だ!?」


 高柳さんの質問に他の勇者が答える。


「地図では転移側となっています。恐らく操作室側に侵入された事でこちらの入り口を塞いで魔族達の本拠地への侵入を遅らせようとしているようです」


「よし、1班と2班はあのデカイのを攻撃。3班は操作室の防衛、敵に取り戻させるな!、4班は敵の援軍を阻止せよ!」


「騎士団への指示はどうしますか?」


「言うだけ無駄だ。貴族でない俺達の命令なんて上がいない現場じゃ当然の様に無視するだろ。いいから好きにさせておけ。敵の援軍を少しでも削ってくれればそれで構わん」


 まるで騎士団を雑兵の様に切り捨てているが、きっとそれは長年最前線で戦ってきた人間だからこそ言える言葉なんだろうな。うっとおしい邪魔者として。


「さぁ、まずはヤツを倒すぞ!」


 高柳さんの指示の下、俺達は行動を開始した。


「ふんぬぁぁぁぁぁ!!!」


 巨大化したバークシャーが暴れる度に周囲の建物と共に勇者や騎士達が吹き飛ばされる。

 うーん、あれは何かの魔法なんだろうか? それとも種族特性かはたまたスキルか? あ、また誰か吹っ飛ばされた。

 まずは援護と行きますか。

 俺は全力を込めてバークシャーに対しスキルをチャージする。

 勇者達を纏めてなぎ倒すあの怪力が相手なら、こちらも出し惜しみはしていられない。

 だから普通に撃てば1日3回まで使えるスキルエネルギーを一回分に纏めて凝縮する。

 多くの仲間が倒されるよりは、俺一人が力を使い果たすだけの方が遥かに効率的だ。

 それにスキルが今日一日使えなくなっても普通の戦闘は出来る。

 バークシャーの視界から逃れ、物陰に潜んで狙いを定める。

 そしてバークシャーが味方の勇者の攻撃を受けて怯んだ瞬間を狙ってスキルを発動した。


「【波動掌】!!」


 俺の手から弾ける様に巨大な掌が現れ、バークシャーに向かって飛び出す。

 突然現れたエネルギーの気配を察知したバークシャーがこちらを振り向いて驚愕する。


「な、何だ!?」


 【波動掌】は巨大化したバークシャーの身体を軽々と掴んで握り絞め、そのまま握り潰そうとするかのように圧縮し細く小さくなっていく。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 圧縮されていく【波動掌】に巻き込まれるようにバークシャーの身体がボンレスハムの様になっていく。


「潰せ!!」


 俺の意思を感じ取った【波動掌】が更に強くバークシャーを握り締め、そして爆発した。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 【波動掌】の土煙で周囲が見えなくなる。

 倒したのか? まだ生きているのか?


「死ねぇぇぇぇ人間!!」


「っ!?」


 突然物陰から魔族の兵士が襲いかかってくる。

 俺はとっさに腰に差していた剣を抜き、相手の剣を受ける。

 どうやらバークシャーに攻撃する所を見られていたらしい。こうなるとこの場所は戦いづらいな。

 物陰だから武器を振りづらい。


「退け!俺達がやる!!」


 突如魔族の後ろから声が響き。その両サイドに魔族の姿が現われる。

 魔族達はそれぞれに槍をもっていた。


「マズッ!?」


 俺はとっさに腰を下げて回避するが、両肩に浅い傷を負ってしまう。

 ここから脱出したい所だが、この狭い場所では逃げるに逃げれない。

 味方の援護を期待したい所だが……


「うおぉぉぉぉぉお!!! よくもやってくれたな人間!!」


 土煙の中からバークシャーが姿を見せる。

 その姿はボロボロで満身創痍ではあったものの、まだまだ闘志が尽きる事はなさそうだ。

 俺に向かってこようとするバークシャーを仲間の勇者が妨害する。

 コレでは援軍は無理か。

 仕方なく一人で戦う事を決意し、この身体に使える魔法を検索する。


「ファイアアロー!」


 炎の矢を数本飛ばすだけの魔法だが、牽制には十分だ。怯んだところを逃げる!


「マジックプロテクション! そこから出すな!槍で突きまくれ!!」


 しかし敵も甘くない、魔法は後衛の魔法使いが防御して逃げる隙を与えてくれなかった。

 龍魔法を使って身体能力を上げるが、狭い場所ではその力を十全に生かす事は出来ない。

 肉体の防御力も上がって入るが、流石に敵も前線基地の兵隊、その攻撃は強力だった。

 敵の武器が淡く赤い光を放っている。 

 一般の兵士が魔法の武器を持っているとは思えないから、恐らくは仲間の魔法使いが武器の威力を上げる魔法でも使っているのだろう。

 攻撃力アップの魔法を使うのは主人公チームだけな分けないよな。

 こうなったらダメージ覚悟で突っ込むしかない。狙いは無効が槍を突き出してきた瞬間だ。

 そこを狙って飛び込む。


「死ねっ! 人間!!」


 再び槍が突き出される。俺はそれをかろうじて剣で払い、龍魔法を発動させて槍を引き戻す間に前列にいる剣使いの斜め横を狙って突っ込んだ。龍魔法で強化された肉体による加速であっという間に剣使いの横をすり抜ける。向かうは武器を持っていない左手側だ!そっちなら回避が容易! コレは騎士団での厳しい訓練を積んだエイナルの知識。騎士団長お墨付きの戦い方だ!


「はぁ!!」


 剣使いが俺に向かって攻撃してくるが、剣を持っていない側へは攻撃が届かず空振りする。


「くっ!」


 よし、このまま後ろに通り抜ける!!


「甘いんだよ!!」


 左側の腹に衝撃と共に痛みが襲ってくる。

 コレは、槍!? 見れば槍は剣使いの向こうから伸びていた。


「何度も同時に攻撃すると思うなよ!」


 まずった。敵は時間差攻撃で槍を一本しか突き出していなかったのだ。

 狭所で追い詰められていた俺はとにかく攻撃を避けるしかない。

 だから脱出に専念していた俺は、その攻撃が1発か2発かまでは認識が出来ていなかった。


「おらぁ!!」


「はっ!!」


 武器を構え直した剣使いと槍使いが攻撃を再開する。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ◆


「よし、バークシャー様の援護に廻るぞ!!」


「応っ!!」


 槍使いの一人であるリザードマンに【憑依】した俺は何食わぬ顔で返事をすると、バークシャーの援護に向かう仲間達の最後尾に立った。

 そして……


「ふっ!」


 周囲に聞かれないように小さい掛け声を発しながら、魔法使いの首に後ろから槍を突き刺した。

 槍を引き抜くと魔法使いが倒れそうになるので俺はそれを受け止めそっと地面に置く。

 そして残る剣使いと槍使いに狙いを定めた。


 ◆ 


「バークシャー様、援護いたします!!」


 俺はバークシャーの後ろから声を張り上げながら近づいていく。


「うむ、助かる!!」


「まずいな、援軍が増えてきた」


「怯むな、敵は満身創痍だ!!」


 敵の援軍が増えてきた事で勇者達の士気が落ちる。

 逆に魔族の士気は上がり始めていた。

 そしてその空気が一瞬にして逆転する事になる。


「死ねぇ!!」


 俺は龍魔法を発動させて大跳躍、手にした槍をバークシャーの目玉に向けて思いっきりぶち込んだ。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然の出来事に敵も味方も動きをとめる。

 地上に降りたら先ほど殺した槍使いの槍を戴いてバークシャーの背後に跳躍、首を切り裂いた。


「うがぁぁぁぁぁぁ!!」


 突然の裏切りと痛みにパニックに陥ったバークシャーが暴れ出す。

 片目の視界を奪った事も影響しているのだろう。その狙いはメチャクチャで建物だろうが味方だろうがお構い無しに破壊を始める。


「今だ!敵の視界の外から攻撃を掛けろ!!」


「お、応!!」


 俺の指示を受けた勇者達が魔法やスキルを使って遠距離から一方的にバークシャーに攻撃を仕掛ける。

 普通なら避けれたその攻撃も視界を半分失った今では、避けきれず何発か喰らってしまう。


「うぐぉぉぉぉぉ!」


「貴様裏切ったか!!」


 バークシャーの援護にやって来た魔族が俺に攻撃してくるが、龍魔法で強化された俺の肉体性能の前にはなす術もなく倒される。


「ば、馬鹿な……お前がこれほど強かったなんて……」


 同僚だった魔族が驚愕の顔で倒れる。

 確かに、この身体にしてから龍魔法の性能が上がった気がする。魔族だからなのか、それともリザードマンだからなのか?

 いや、今はどちらでも良いか。

 見れば勇者達の奮闘で、遂にバークシャーが倒された。

 地面に倒れたバークシャーの身体が見る見る小さくなって元の3mほどの巨体にもどる。

 数人の勇者が警戒しながら槍でバークシャーに止めを刺していく。思いっきりさっきの俺の姿だわ。


「君は……穏健派なのか?」


 高柳さん達が数人の勇者を引き連れこちらにやって来る。

 勇者達は武器を構えているのでまだ信頼はしていないみたいだ。


「そうです、俺達は貴方達がやって来るのを待っていた。今こそ我等の共通の敵であるルシャブナ王子を打ち倒しましょう!」


 遠くで操作室の完全占拠の声があがり、勇者達が転移ゲートの瓦礫を除去していく。

 騎士達と魔族の戦いの音が小さくなっていくその様子は、魔族と人間の戦いの終わりが近づいている事を教えようとしているかの様だった。

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