第77話 エルフの里は何処ですか

 ふはははははははっ!

 我こそはアリ! 強大な龍魔法を使い、6本の足であらゆる者を蹴り砕く昆虫の王者である!

 今、俺の足元には先ほどの戦いで敗北したムカデの死体が転がっている。

 自分の数倍の身体を持つムカデすらも俺の龍魔法は打ち砕いた!

 魔法アリ始まります!


 ◆


 と、いう訳で、戦闘での心配がなくなった俺は安心して森の中を進んでゆく。

 てってけてってけ、6本の足を動かして腐葉土の上を歩く。

 何処に向かって居るのかって?

 それは勿論エルフ達の棲家さ。

 アリに憑依してしまったが、エルフの行動が怪しいのは確か。寧ろ小さなアリになったのは好都合といえるだろう。

 つー訳で俺は今、絶賛エルフの里を探しております。


 ◆   


 景色が変わらん。

 行けども行けども見つかるのは樹と草とキノコと魔物と虫と腐葉土ばかり。

 その間にも幾多の虫が襲ってきては返り討ちにしていた。

 うん、広すぎるね!

 だって今の俺はアリなんだもん。

 このまま歩いていても目的地にはたどり着けそうもないな。

 何か別の方法を探さないと。

 ……そうだ! 飛行魔法を使おう! アリの身体なら人間の時と違って魔物から逃げずに高速飛行する必要も無い。


(ストームウイング!!)


 早速俺は飛行魔法を発動して……

 発動し……

 発動しねぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 魔法が妨害されている!?

 そういえばさっきも転移魔法が発動しなかったし、それが原因か!?

 でも龍魔法は発動したし!?

 俺は落ち着いてもう一度魔法を使うべく叫んだ。


(ストームウイング!!)


 だが俺の叫びは全く木霊しなかった。

 だってアリは人語を喋らないからね!

 そーでしたー!! アリでしたー!!

 龍魔法はドラゴンの魔法だし、発動プロセスが違うのだろう。だから発動した。

 けど人間の開発した魔法は人間と似た体構造、少なくとも喋る事が出来なければ発動できないみたいだ。

 まぁアリの身体に他の魔法の才能がないだけかもしれないけどね。

 はー、無理でしたか。

 まぁ出来ないものはしゃーない。龍魔法が使えただけでも御の字と考えよう。

 という訳で、他の方法を考えよう。

 自分で飛べないのなら、乗り物を探すというのはどうだろうか?

 幸い森の中には大量の魔物や獣がいる。そいつ等に乗っていけば移動時間も大幅短縮できるだろう。

 よし、それで行こう!

 作戦が決まった俺は手ごろな乗り物を探して周囲を見回す。


「ぶるぅぅぅぅぅ」


 お、あんな所に猪っぽい魔物がいる。

 アイツなら鈍そうだし、俺が乗っても気付かないだろう。

 と言う訳で、龍魔法ジャーンプ!


 スタッ


 よーしよし、猪は俺が乗った事にも気付かずにのんびり歩いていた。

 のんびりと言ってもアリの俺からしたら十分早いのだが。なにせ歩幅が違う。

 暫くはこの猪に乗って散策を続けよう。

 せっかくだから頭まで移動して景色を楽しむかな。背中は毛が多くて視界が悪い。


 てけてけてけ、ピョーンピョーン。


 何かが飛び跳ねながら近づいてくる。

 何よアレ?

 それは間違いなく俺を目指して近づいてきた。

 アレは……ノミ?

 そうだ、あの独特の形状、アレはノミだ。

 そしてノミが俺に向かってやって来る理由は何だ?

 やっぱアレか? 他所者の撃退?

 ……よし戦おう!

 俺は向かってくるノミを撃退すべく龍魔法を発動して蹴りを……ってあれ?

 気が付けばノミの姿が無い。

 もしかして俺を狙ってると思ったのは気のせいだったのか?

 何だ、脅かしやがっとぶぅぁぁぁぁぁあ!!!?

 突然背中に激しい衝撃が当たる。

 な、何だ一体!? ……ってノミ!?

 先ほどまで俺に向かっていたノミが、気付けば俺の背中に落ちてきたではないか!

 一体どういう事だ!?

 などと思っているとノミがこちらを向く。そして口を俺の背中に押し当てようと体をかがめてきた。

 俺の体液を吸うつもりか? させるかよ!

 俺は身体を転がして逆にノミを地面に叩き付けようとするが、ノミはピョーンと飛びのいて回避した。

 数十mの距離を飛びのいた。いや、あくまで体感の話であって、実際には数十cmくらいだろうが。

 だがノミの跳躍力、コレはヤバイ。

 この跳躍力をフルに使って攻撃されたら流石にマズイ。

 ならば狙いは1つ。

 俺はノミが動くのを待つ。

 ノミの姿が消える。

 上を見る。

 ノミの巨体が俺に向かって落ちてくる。

 龍魔法によって強化した肉体で渾身のアッパーを叩き込む。

 結果、空中で回避行動を取れなかったノミは、俺のアッパーをモロに受けて真っ二つに引き裂かれた。

 対空強攻撃で迎撃完了!

 ふふふ、お前が戦ったアリはただのアリではなかったのだよ。

 さーて、猪の頭に向かいますかねー。


 ◆


 猪の頭に向かっていたその時だった。


「ぶもぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 突然猪が苦しそうな叫び声を上げる。

 身体をブルンブルンと振り回して苦しみにのた打ち回る。

 一体何事だ!?

 猪が暴れる為に体が振り回されるが、幸いにも猪の長い毛皮がクッションの役目をして振り落とされるのを防いでくれた。

 猪の身体に何かが起こっている。見れば猪の頭が有る方角には巨大な塔が立っていた。

 塔の先端には巨大な鳥の羽のような物が等間隔に並んでいる。

 なんか見た事が有るような気が?

 などと思っていると、塔が何本も猪の身体に突き刺さる。


「ぶもぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 猪が更に苦悶の声を上げる。

 間違いない、これは攻撃だ! そしてこれも塔じゃない。

 コイツは……矢だ!!!


「ぶも……ぅ…………」


 猪の巨体が地面に崩れ落ちる。

 その衝撃で吹き飛ばされそうになるが、俺は毛皮に捕まって必死で堪える。

 そうして、永遠に続くかのように思われた衝撃が収まると、全てが凍りついた様な静寂が訪れる。

 終わったのか?

 猪は死んだのだろう。今はピクリとも動く気配がない。

 そして猪に近づく巨大な影。

 俺は毛皮に隠れてその陰に見つからない様にする。


「中々の獲物だ」


「コレだけあれば数日は肉が食べれますね」


 巨大な影の声がする。

 だが人間では無い。この森に人間がいる筈も無いからだ。

 そして魔族でも無い。魔族が何度侵入を試みても森の主に撃退されてきたからだ。

 だとしたらこの影の正体は何か?


「ドワーフ共との戦いも近い。全て食い尽くすなよ。半分は保存食にするのだからな」


「分かってますよ」


 コイツ等の正体は、森の支配者……エルフだ!!

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