第99話 海域中心波高し
獣人の船に乗って、大陸への旅が始まった。
「おーい、メシだぞー」
船員が俺に声をかける。
俺はスライムアームを上に伸ばして了解と答える。
「今日はタコの丸焼きだ。お前タコ好きだろ?」
まぁワリと好きです。特に吸盤の弾力が好き。
まぁ今の俺の食べ方は消化液一択だけどな。
つーかこの海域タコ多すぎぃ!
この世界のタコは3mオーバーとかザラにいるので喰い甲斐があって大変良い。
10m越えのタコとかクラーケンか何かですかー!?
つーワケで食事はとにかくタコがよく出てきた。
俺がこの船に乗り込み数日が経過していた。
船員は始め、正体不明の俺に対して警戒心を顕わにしていたが、向こうからちょっかいをかけてこない限り俺が反撃しないと理解したら多少だが警戒を緩めてくれた。
と、いうのも、彼等にとって何もしないよく分からない存在よりももっと警戒しないといけない2つの存在が居たからだ。
一つ目の存在の名は海賊。
海を我が物顔で渡り歩く無法者だ。
獣人は海賊の影に怯えながらも密伐採を繰り返していた。
海賊に見付かれば、エルフの目をくぐって手に入れたお宝どころか、自分自身が海賊のお宝として金に換金される可能性すらあった。
そして次が魔物だ。
この当たりの海域は非常に水生の魔物が多く、漁師が沖に出れば高い確率で魔物に遭遇した。
獣人の漁師達も銛をもって魔物に対抗するが、相手のホームグラウンドである海で戦っては苦戦を避けられない。無事逃走に成功する時もあれば、犠牲が出る時もある。最悪船が破壊され乗組員が全滅する事もあるだろう。船員が武器を持ち、魔法使いが乗っていたのもただの密伐採というだけでなく、寧ろ護衛としての色合いが強かったみたいだ。武器を捨てちゃってゴメンね。
彼等は、そんな危険な海を渡ってまで密伐採を行っていたのだ。
何故か?
答えは簡単だ。
金も物も無いからだ。
大陸の外れに位置する彼等は、周辺を魔物が大量に生息する危険地帯に囲まれていた。
その為都市部で作られる商品を求めようとすると危険な魔物と闘わなければならない。
だが魔物と闘える人間などそうそういない。ソレが強力な魔物だったら尚更だ。
となると逆に魔物と闘える人間を雇って村まで行商に来てもらわなければいけなくなる。
当然商品の料金も高くなる。
そうしないと行商が来てくれないのだ。
だから彼等は商人にとって価値のある品を用意しなくてはならないのだ。
魔物が多い海では必要以上に魚を採っている時間的余裕は無いし、あまり取りすぎると餌がなくなった魔物が人間を襲いに村に来る危険がある。
だが運の良い事に獣人達の下には、商人達が価値を見出す商品があった。
それこそがウィンブランド島に眠る多くの薬草や大樹の枝であった。
かの島の植物は、多くの薬学者や鍛冶師にとって垂涎の品である。
何故ならウィンブランド島はエルフとドワーフの支配地域、圧倒的なまでに技術格差がある相手のお膝元で密伐採をできる者など居なかったからだ。しかもそこへ行くには魔物が跋扈する海域を潜り抜ける必要がある。帰りは更に危険だ。なにせ手に入れたお宝を狙って海賊が襲ってくるからね。
だから地元の海を知り尽くした獣人からお宝を買い取ったほうがよっぽど商人達にとっては出費が少なくてすむのだ。
もって来た商品も高く売れるしね。
そしてそれこそが俺が獣人達から信頼を得る事が出来た理由でもあった。
◆
「魔物が出たぞー!!」
船の左側面から大きなヒラメ型の魔物が4匹現われる。
「船転がしだ!」
船転がしと言うのは、数匹がかりで船に覆いかぶさって横転させ、船外に放り出された人間を喰らういやらしい魔物だ。
直接人間を襲わずに船をひっくり返そうとするので、船乗りの取っては闘わずに逃げたい相手だ。
だが今回は出現場所が悪かった。
船転がしはかなり近くまで海の中で隠れていたらしく、今の船速じゃとても逃げられない。
船員が船を必死で進めるが、船転がしはドンドン近づいてくる。
そして船転がしが船を横転させるべく覆いかぶさってきた。
普通ならコレで終わり。船員達は哀れ船転がしに喰われてしまっただろう。
だが今回は違う。
いっただっきまーす。モグモグ。
俺が居たからだ。
覆いかぶさってきた船転がしを俺は全身で受け止め消化を始める。
付着していた海水が俺に痛みを与えるが俺はソレを我慢して消化を続ける。
更に続けてやって来たほかの船転がしにもスライムアームを伸ばして消化を行う。
体内に取り込んだ最初の船ころがしが苦しみ始める。
だが既に全身を溶かされ始めた船転がしはヒレや尻尾を真っ先に溶かされまともに動けない有様だ。
更にエラからも侵入されて呼吸も出来ない有様。
魚は痛覚がないとの事だが魔物のコイツはどうなんだろう? もし魔物だから痛覚があったら相当な苦しみだろうな。全身、ソレも肺と手足を集中的に溶かされてるみたいなものだからさ。
二匹目以降のまだ船に完全に乗り上げていなかった船転がし達が慌てて逃げ出し始める。
俺も深入りはしたくないので逃げるヤツは放置だ。
体内で暴れる最初の船転がしが俺の体内で暴れ続けるが、次第にその動きが弱くなっていく。
そして遂には完全に溶かしつくされ、船転がしの居た証は欠片もなくなってしまった。
ご馳走様。
「………………」
その光景を見ていた船員達が船を操り手をとめてポカーンとこちらを見ている。
操船は良いんですか皆さん?
「………………お、おおおぉ!?」
「や、やった、やりやがったぞこいつ!?」
「船転がしを喰っちまったぞ!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
船員達が興奮しながら叫びだす。
「スゲェ!あの船転がしを逆に喰っちまった!!」
「トンでもねぇスライムだぜ!!」
まぁ船をひっくり返されたら俺も死んじゃうしね。
そうして俺は、港へ向かう間にも船を襲う魔物達を喰らっていく事で、船員達の信頼を勝ち取るのだった。
まぁその後はタコ祭りだったけどさ。
◆
「村が見えたぞ!」
見張り台の獣人が声を上げる。
彼の指差した方向を見ると、確かに小さな建物の影が見えた。
漸く大陸まで帰ってこれたな。
さーて大陸での冒険の始まりだー!
ドゴンッ!
俺の気が緩んだ瞬間を狙ったかの様に大きな音がと衝撃が響く。
船員達の顔に緊張が走る。
次の瞬間、船が傾いた。凄い勢いで船が倒れていく。
一体何事!?
「マーマンだ! マーマン海賊団が出たぞー!!」
そっかー、これが獣人達が話していた海賊だんかー。
なるほど、海賊だからって髑髏の旗でないといけない理由は無いよな。
海賊だからって船に乗ってないといけない理由はないよなー。
そう言うわけで俺はこれから海へダイブインです。
皆さんさようなら。
海面へと沈んだその時、俺の視界には全身を鱗で覆われた生き物達の姿が見えたのだった。
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