第98話 海の彼方より来る者
波が押し押せる浜辺から少し陸地に位置する林で俺はじっと待っていた。
俺が待つ相手は無謀にもエルフとドワーフが支配するウィンブランド島に密伐採にやって来る獣人の船だ。
だが彼等が何時来るのかは分からない。俺は大陸がある方向の海岸を定期的に巡回する事で獣人達の船を捜した。
そうして、3日が過ぎた頃にヤツ等は現れた。
◆
俺が夜の巡回を行っていると、浜辺に小船が数隻乗り上げてるのを発見する。
沖を見れば数百m先に灯りが見える。どうやらあの船からやって来たらしい。
小船には人影は無い。
コレは重畳。
俺は数隻の小船を下駄代わりにして海に出る。
前回の反省を生かし身体を上に伸ばして細い足で小船に乗る。
そして近くの森で作った長い櫂で海底を突きながら小船を沖の船へと近づける。
夜だしこちらは透明だから船の連中も気付いていない。
今の内に船に乗り込むぞ!
◆
船の上は大パニックに陥った。
「巨、巨大スライムだー!」
「な、何だコイツは!? こんな魔物見た事ねぇぞ!」
耳と尻尾を生やし、全身が毛に覆われたモフモフの獣人達が驚きの声を上げる。
カネダ国に居た獣人は人間にケモ耳と尻尾が生えてた萌えタイプだったけど、この獣人はケモナータイプなんだな。
「落ち着けお前等! 幾らデカくとも所詮はスライムだ! 魔法使いの炎で燃やせ!」
リーダーらしき虎の獣人が叫ぶ。
中々冷静だね。だが無意味だ
「喰らえフレイムアロー!!」
甲板に燃え移るのを嫌がったのだろう、魔法使いは単体攻撃用の火炎魔法で俺を攻撃してきた。
だがエルフの魔法すら吸収する俺にとって、獣人の魔法なぞ薄めた砂糖水同然。
魔法は俺に傷1つつける事なく吸収され消滅した。溶けた氷で薄くなったコーラっぽい魔力だなぁ。
「ば、ばかな!? 火炎魔法が聞かないスライムだと!?」
スライムに火属性の魔法は常識。それはこの異世界でも変わらないようだ。
そんな常識が無視されて魔法使いが驚きの声をあげる。
別に攻撃しなけりゃこっちも襲わないよ。
俺は敵意がない事を示すように反撃をせずに甲板に腰を下ろす。
うん? スライムの腰って何処だ? いやまぁそんな事はどうでもいいか。
「フリーズスフィア! ハリケーンジャベリン!!」
魔法使いがなおも魔法を放ち続けるが俺は全くの無傷。
その度に魔法使いは別の魔法を唱え続けるが、遂には魔力が切れてしまった。
「魔法が聞かないなんて……」
獣人達が絶望の声を上げる。
「うぉぉぉぉぉ!!」
恐怖に耐えられなくなった獣人の一人が剣を振り回して俺に攻撃してくる。
だが液体ボディの俺には剣なんて通用しない。
ピリッ!
痛てて! 一体なんだ!? 俺にマジックアイテムは通用しない筈だぞ!?
「効いてるぞ!」
「よっしゃー!ぶっ殺せー!」
何故かは知らないが獣人の剣は俺に痛みを与える。それは喰らっても死ぬようなものではないが薄皮一枚を切り続けられるようなジワジワとした攻撃は気分の良いものではない。
俺はスライムアームを伸ばして獣人達の剣を持つ腕を握った。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「痛でぇぇぇぇぇ!!!」
獣人達が腕を酸で焼かれて悲鳴を上げる。
そのスキに武器を取り上げる!
ピリリッ!
またしても痛みが走る。
だが痛みの理由がわかったぞ。
この剣海水が付着している。
恐らく高い波を繰り出す海を渡ってきた事で、海水をかぶったのだろう。
道理で痛い筈だ。
俺は獣人達から武器を奪い取ると、それらを全て海に投げ捨ててやった。
こうして武器も魔法も無力化された獣人達は俺に手を出せなくなった。
◆
「おい、アイツ何時までここに居座るつもりなんだ?」
「俺が知るかよ」
獣人達が遠巻きに俺を見ながらぼそぼそと喋っている。
まぁ突然乗り込んできて何もせずにじっと甲板に座ってたらそうも思うか。
「丘に上がったヤツ等が戻ってきたらどうするんだ? アイツを乗せたまま大陸に帰るのかよ」
「知るかよ。エルフも居るし何時までも居座ってられねぇだろうがよ」
獣人達の意見は纏まる様子もなかった。
てか、船長とかいないのん? この船には。
「おい、船長達が来たぞ!」
マストの上の物見台から見張っていた獣人が叫ぶ。
だが暗い夜の闇に遮られて俺にはさっぱりだ。
「おい、ボートはこっちだぞ! 迎えに行かないと!!」
俺が乗ってきた小船を見て獣人が叫ぶ。
そうでした。ゴメンねー。
獣人達が合わせて小船を漕いで陸地に向かう。
「エルフだ! 出航準備急げ!! 錨を揚げろ!!」
マスト上の獣人が叫ぶ。ホントよく分かるなぁ。
なんて思っていたら遠くから魔法の炎が飛んでくる。
炎はドンドン近づいてくる。しかも近づいてきた事で分かったが、この炎かなりデカい。
家一件分はあろうかという巨大な炎の玉が船を焼き尽くそうと迫ってくる。
「に、逃げろぉぉぉぉぉ!!」
船員達が慌てて船から飛び降りるが、とても全員が逃げ出す余裕なんてない。
ふふ、俺が乗り合わせていて良かったなお前達。
俺は身体を大きく広げると、船を庇うように自ら魔法に身を晒した。
そして着弾。
魔法の炎は燃える事もなく、爆発する事もなく俺に吸収され消滅した。
大量の魔力を喰らって体が大きくなる。7mまで小さくなったからだが8mほどの大きさに巨大化する。
「な、コイツ……俺達を守ったのか?」
獣人達が俺を見て呆然としていた。
か、勘違いしないでよね。別にあんた達を守ったワケじゃないんだから!
なんてやっているうちに仲間を迎えに行ったボートが戻ってくる。
「な、何だコイツは!?」
俺を初めて見た獣人達が驚きに身をのけ反らせる。
「それは後だ! 今は脱出が先だ!!」
先に俺に遭遇していた獣人の言葉で正気に帰った船長らしき獣人がハッとした顔になる。
「お、おう! 野郎共出航だ!!」
「「「アイアイサー!!」」」
こうして、俺の新たな船出は始まるのだった。
「おい邪魔だ! もっと隅っこに行ってろ!!」
あ、スンマセン。
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