第46話 復讐頓挫計画
「バーザック様! 計画が完成しました! ご確認を!!」
夕べの今朝で誘拐担当の幹部が計画書を持って来た。
ちょっと有能過ぎませんかねぇ。
「まぁ、見せてもらおうか」
俺は幹部から誘拐計画書を受け取り中身を確認する。
『ギリギスは王族が婚儀を行う際に聖域にある聖なる泉で花嫁の清めを行う。その際は一切の者が泉のある聖域に近づく事が出来なくなる為、聖域の護衛を排除して花嫁を奪取する。護衛の排除は魔物使いによって運ばせた魔物を魔香によって暴走、凶暴化させて聖域近辺に解き放つ。更にギリギス王都にも魔物を放ち騎士団の援軍を出せなくする。コレはヴランズが自分達の反抗では無いと見せかけるための工作と認識させる為』
魔香と言うのは魔物に対するマタタビのようなものだ。
問題はこれを使うと魔物が暴走して大暴れしてしまう事。
この状態になると魔物使いの命令は聞かなくなるし、リミッターが外れて普段以上に強力になる。
命令を聞かなくなる上に肉体を限界以上まで酷使する為、魔香を使うメリットは殆ど無い。
ろくなものではないが、今回の様に魔物を使い捨てにするには丁度良い香だ。
実際これを使っている者は少なくない。
『この状態でも主力の騎士が護衛に当たっている可能性が高い為、聖域周辺に睡眠薬を散布し眠らせる。それを耐える相手が居た時の為に強行突破部隊を出撃させ、その部隊が敵に迎撃された際には隠密技術を持った部隊を7方向から突入させ聖域に侵入。更に王女の誘拐が成功する前に、オトリの偽王女に事前に確認しておいた王女の儀式衣装を着せ誘拐成功を演出する。これによって偽王女を負わせている間に本物の王女を誘拐した実行犯を脱出させる』
なんというか、本格的だ。最後まで隠れているかもしれない敵の主力を引きつけ、更に逃走用の護衛まで用意してやがった。
更に脱出ルートに脱出用の乗り物まで複数用意してやがる。
ガチだなコレ。
現状動かせる戦力をギリギリまで使っての作戦行動か。
どうしたモンかな。これ今のギリギス王家の戦力や調査した軍人達の性格を考えると成功しちまうよ。
「いかがでしょうか!」
うーわ、めっちゃいい笑顔で聞いてきやがる。
ここで否定するのも手だが、ここでリテイクさせたら更に完璧な計画を提示してきかねない。
「侵入の際に睡眠薬を使うとの事だが、食事に遅効性の睡眠薬を入れないのは何故だ?」
一応相手に穴が無いかゆさぶってみよう。
「はい、あらかじめ薬を用意しますと、薬の存在がばれた場合相手をよ警戒させてしまいます。そうなれば護衛の数は更に増えましょう」
まぁ、理にかなっているな。
「現場で薬を使えば、敵もまだ他の薬を使ってくるかもしれないと警戒して動きが鈍くなる可能性も考慮してあります」
うーん、ちゃんと考えているのね。
うーむ、ならいっそこのままやらせるか? 失敗すればよし、成功した場合は俺が王女を預かっていい感じに誤魔化せばよいか?
「問題は無いが念の為、よりヴランズらしい策になるように調整せよ」
「はっ!」
今の内に調べ物をするか。
◆
「私がリタリアを憎む理由ですか?」
俺はまず部下達の憎しみの理由を調べる事にした。
情報を知る事で部下達の憎しみを上手く解消させたいのだ。
情報を知らない事には対策も練り辛いしな。
「私の、私達の理由は知っている筈では?」
その通りだ、俺はバーザックの記憶から彼女達の復讐の理由などを聞いている。
しかし今回はより詳細に確認をしたいのだ。
「此度の祭りはお前達の心を解き放つ為の儀式。それゆえにお前達はあの時の気持ちをはっきりと思い出さなければならない。その心に復讐の成就を刻む為に!」
かつてバーザックが幹部を始めとした部下達に言った言葉を返してやる。
その時の事を思い出したのだろう。No2の少女が目を細めながら過去の事を思い出す。
「……そうですね、あの頃私は6歳でした。その日は私の誕生日で、父が仕事を終えたら私の誕生日を祝ってくれるといって目の前のケーキを我慢してずっと、ずっと待っていたのです。そして日が変わる頃に、父は血まみれで帰って来ました。そして父は私に言いました。逃げろと。誕生日おめでとうではなく、逃げろと!!」
怒りに身を振るわせる少女を俺は抱きしめる。
「誰の手引きかは分かったのか?」
「はい、父を殺すように命じたのは……」
◆
「まずは一人」
No2少女の憎しみを淡々と聞くのは非常に辛かった。
だが、必要な情報は手に入った。
この調子で残りの部下達の情報も手に入れよう。
◆
「お、終わった……」
全ての部下達の言葉を聞き終わった俺は、精神的に疲れ果ててベッドに倒れ込んだ。
「情報は得た。そしてそれを実行する為の第一の鍵は即座に手に入る状態だ。しかしコレだけでは心もとない。何かシメは無いものか?」
アレ等が手に入れば子供達の本当の復讐を行わせる事が出来る。
だが子供達が幼い頃に得た怒りは、時間がかかりすぎてしまったが故に歪だ。例え本懐を為したとしても綺麗には終わらない。それ故に更なる荒療治が必要なのだ。
「あと一手」
「随分お悩みね。貴方様」
声が響いた。
目の前の窓が開いている。
窓の枠には誰かが座っていた。
真っ赤なドレスの美女が真っ赤な髪を風にたなびかせて座っていた。
黄金長方形の様に美しく窓に座る少女の名はメリネアルテニシモアムエドレア。
俺の妻にして宝石の龍。ドラゴンの王である龍皇の一人娘。
真紅の芸術が俺の前に姿を現す。
「また面倒事?」
「いえ、いま解決しました」
子供達の憎しみと怒りを解消させる方法が遂に見つかった。
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