第117話 おいでよメリケ死霊館

『助けてくれぇぇぇぇぇ!!!』


『死にたくないぃぃぃぃぃ!!!』


『私は無実だぁぁぁぁぁ!!!』


 俺は逃げた。


 ◆


 あの夜、メリネアに助けられた俺は、後日別の魔法使いの屋敷に突入した。

 そして全ての屋敷で悪霊に襲われた。

 前回の失敗から学んだ俺は、あらかじめドアを開けておき何かあっても閉まらないように固定しておいた。

 なお、前回ドアで弾かれたのは屋敷の主である魔法使いが泥棒対策に作らせたマジックアイテムのドアだった事が近隣住民の情報で判明した。

 普通に開ける分には良いが、ドアを破壊しようとするとその力を相手に跳ね返すマジックアイテムだったのだとか。

 無敵と思われた龍魔法だったが、物理反射に弱いとは意外であった。

 で、ドアを開けっ放しにして侵入したら、別の悪霊に襲われたという訳だ。

 中には怪しい力でドアを閉めようとする悪霊も居たので、閉まらないようにつっかえ棒をしておいて本当に良かった。


 あの悪霊達は恐らく、というか間違いなく俺の指示で殺された魔法使い達だ。

 殺された人間が無念のあまり悪霊になるのはまぁ分からんでもない。

 しかしだ、幾らなんでも多すぎる。

 殺された魔法使い達が全員悪霊になったのでは無いかと思えるくらいだ。

 更に言うとそんな悪霊達を何故誰も退治しないのか。

 ファンタジー世界なんだし、ターンアンデッドの魔法とか無いわけ?

 ちょっと調べてみるか。


 ◆


 翌日、改めて旅人に扮して町に入った俺は宿で一夜を明かしてから、夜に悲鳴が聞こえたと従業員に相談した。


「ああ、誰かが殺された魔法使いの家に忍び込んだんですよ」


「殺された魔法使い?」


「ええ、なんでも魔族と手を組んで国を裏切った魔法使いだとかで、先代の王様に処刑されたみたいですよ。で、怨みを持って死んだんで悪霊になって屋敷を徘徊している訳です」


「はぁ」


 どうやら魔法使いが悪霊になった事は近隣住民も知っているみたいだ。


「何で退治しないんですか?」


「さぁ、そういうのは冒険者ギルドに聞けば教えてもらえますよ」


 従業員はソレだけ言うと仕事に戻っていった。

 ふむ、冒険者ギルドか。


 ◆


「それはですね、死者を退治する魔法使いの数が圧倒的に少ないからです」


 凄くシンプルな答えが返ってきた。


「そうだったんですか。悪霊とか神に使える神官様とかが退治してくれるかと思ったんですけど」


 俺がそう言うと、ギルドの職員がないないと笑いながら手を振った。


「最近そういう事言う人増えたんだよね。誰がいったのやら。けどそれは無いですよ。神様に祈ったって怪我は治りませんし、悪霊だって消滅したりはしませんよ。ただの噂です。死者の魂を攻撃するのは精神体にダメージを与える攻撃魔法だけですよ。まぁ、田舎に行くとインチキ神官がニセの悪霊退治をして現地の人間を騙す事件がありますけどね」


 わーお、宗教詐欺はこの世界でもあるのか。

 それにしてもこの世界には神聖魔法とか神の奇跡とかは無いのか。

 ……あれ? 確か俺と一緒に召喚された聖女ちゃんは【神の祝福】っていうスキルを持っていた筈。

 それともスキルと神聖魔法は別って事か?

 ふーむ、とにかく精神体にダメージを与える魔法なら悪霊を退治する事が出来るわけだな。

 となればなんとかできるかもしれない。


「色々教えて頂き、ありがとうございます」


「いえいえ、この町は魔力溜まりが出来易いから悪霊が生まれやすいんですよ。だからこそ死者を退治できる魔法使いが重宝されるんですけどね」


 ん? 魔力溜まりが出来易いから悪霊が生まれやすい?

 それも初耳だな。もちっと聞いた方が良いか? でも専門知識だし詳しい人間に聞いたほうが良いかも……って居たよ! 正しくは知ってたよ! そうじゃん、バーザック達の知識を読み解けばその辺りは直ぐに分かるじゃんか!

 ううむ、イキナリ悪霊に襲われたから、我ながらパニックに陥っていたみたいである。

 一度宿に戻って情報の検索をしてみよう。


 ◆


 悪霊とは、強い負の念を持ったまま死んだ知的生命体が濃く淀んだ魔力に浸される事で発生する精神生命体の一種。

 生命体と言っても、生前の妄執に憑かれていしの疎通など出来ないので、どちらかといえば壊れて同じ箇所を延々と流し続けるレコーダーといった方が正しい。

 タチが悪いのは、現実に影響を与える事の出来る立体映像と言うところだが。


そして悪霊の発生条件、濃く淀んだ魔力のある場所。

 本来こういった場所はめったに存在しない。

 地脈とか龍脈とか言われるような魔力が多く流れる場所、かつて大規模な儀式の行われた場所、そういった場所と大規模な戦といった無念の死が混ざり合う事で悪霊は発生する。

 それゆえ、悪霊は普通の墓場などでは発生しない。 


 だと言うのにメリケ国では只の町中の家で悪霊が発生した。

 何故か?

 理由は簡単だ。

 この国では少し前まで大規模な魔法を連発し、更には大量の命を無残に殺していたからだ。

 その魔法の名は勇者召喚。

 無残に失われた命は勇者。


 そう、メリケ国の王都は大量の勇者候補達を殺しつくした事で、悪霊がいとも簡単に生まれる恐ろしい街へと変貌していたのだった。

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