第13話 仮にも勇者?

 旅の途中、野宿をする事になった俺達は、夕食の準備をしていた。

 ナイガラの町で店を開いていた時の食材を持ってきているので、和食の用意は万全だ。

 メインの食事の準備が出来たので、次に干物と乾燥させた海草で出汁を取ってお吸い物を作る。

 最後にあと1品何かが欲しいと思い、足の早い食材を取り出す。

 取り出した葉野菜を軽く洗って土を取り、軽く茹でた後で水で冷やしおひたしを作る。

 この世界、地球と全く同じ食材が在るわけではないが、異世界に転移させられた日本人達の涙ぐましい努力で醤油っぽいモノは出来ていた。実際、東南アジアにも魚醤などがあるので、異世界でも食にこだわる人間が集まれば似たようなものは出来るのだろう。

 最も、未だに味噌を見た事は無いのだが。


「ご飯ができましたよー」


「「はーい!!」」


 周囲の警戒を行っていた二人が戻ってくる。


「今日の夕食は白米のご飯と魚の出汁のお吸い物、それに葉野菜のおひたしです。いつも店の残り物でごめんなさいね」


「いえいえ、イルミナさんの食事が食べられるだけでも大感謝ですよ!」


「それに残り物と言っても食材がというだけで、食事自体は作りたてじゃないですか」


 ケンジとタカユキが大喜びで食事を始める。


「そう言っていただけると幸いです」


 この2人は本当に単純で良い。

 この数日一緒に旅をしたが、この二人は俺に指一本たりとも手を出そうとしなかった。

 それは日本人として教育された道徳教育の成果であり、2人がチキンである証拠であった。

 最も、それは俺にとってメリットであったから問題では無い。

 俺に嫌われる事を恐れる二人は俺が嫌がる事をしようとはしない。

 それどころか俺は2人にとって手作りの食事と宿代を負担してくれる美少女雇い主なのだから手を出して良い筈がない。

 男2人で旅をしてきた2人にとって俺という女は心のオアシスなのだ。

 少なくとも。旅が終わるまでは大丈夫だろう。

 最悪、風俗のある町で泊まれば自分でなんとかしてくれるだろうしな。

 その位の理性と欲望の計算は出来るだろう。


 ◆


「ヒャッハー!! 金と女を寄越しやがれー!!」


 翌日、街道を進んでいると、前方から絵に描いたような盗賊団がやって来た。

 お前等は世紀末の住人かと言いたくなる様な姿だ。


「ヒャッハー! ハクいスケじゃねぇか! こいつはタマンねーぜ!!」


 いやまてお前等、そう言うセリフはどっから学んで来るんだ?

 それとも何処の世界でもチンピラのセリフは同じようなモンなんだろうか?


「おい手前ぇ等、その女と荷物を置いていくんなら逃がしてやってもいいぜ。なにせコレだけ上等な女は久しぶりだ。使ってよし、奴隷にして良しと金の匂いがプンプンしやがる。まぁ、売る前に味見はするがな」


 盗賊の頭が唇に垂れた涎をベロリと舌で舐めとりながら下卑た笑い声をあげる。

 だがケンジ達はその言葉に従おうとはせず、寧ろ俺を庇う様に前に出た。

 いや、実際庇ってくれているのだろう。

 この盗賊達の視線から。


「汚いツラでイルミナさんを見るんじゃねぇ!!」


「ああ、貴様等こそ消えろ。イルミナさんの視界に汚物を入れる訳にはいかん」


「ヒャハハハハハ! 女の前だからってカッコつけてんじゃねーよ!! おうお前等、この兄ちゃん達を可愛がってやんな」


「「「「へい親分!!」」」」


 手下達が俺達を囲む。


「いいか、女には傷1つつけるんじゃねーぞ」


「「「「ヘイッ!!」」」」


 盗賊達が俺達を数で圧倒しようとする。

 それは戦術としては正しかった。

 相手がただの冒険者ならば。


「マジックストーム!!」


 ケンジの嵐の魔法で盗賊達がはるか高くまで吹き飛ばされ、そのまま地面に激突して動かなくなる。


「死ねやぁぁぁ!!」


 タカユキが盗賊の攻撃をモロに受ける。


「へへ……何ぃ!?」


 みればタカユキを攻撃した剣の方が折れてしまったではないか。


「お前、今何かしたか?」


 ニヤリと笑うタカユキ。


「ひぃ!?」


「オラァ!!」


 驚く盗賊にタカユキの斧が振り下ろされる。


「ぎゃぶっ!?」


 哀れ盗賊の首は真っ二つに跳ね飛ばされてしまった。


「な、何だコイツ等!?」


 数で圧倒していた筈の盗賊達に動揺が走る。

 雑魚はケンジの魔法で蹴散らされ、腕に自信のある戦士達はタカユキの身体を貫く事を出来ずに反撃を食らっていた。


「そう言うことね」


 恐らくタカユキの体の硬さはスキルに寄るものなのだろう。

 あの体の硬さで敵の攻撃をわざと受けてから、手にした斧で攻撃しているのだ。

 最強の防御力があるからこその守りを捨てた戦い方。

 そして遠距離の敵や数の暴力には魔法系のスキルを持ったケンジが対処する。

 意外にこの2人はバランスの取れたチームである。


「ひ、引けぇぇぇ!! て、手前ぇ等次にあった時は唯じゃすまさねぇからな!!」


「だってよ」


 捨てセリフを吐いて逃げ出す盗賊達を呆れた顔で眺めるタカユキ。


「アレは俺の間合いだな」


 ケンジが遠距離魔法で残った盗賊達を一掃した。


「チョロすぎるだろ盗賊共」


 さすがは勇者である。


「「イルミナさん! 俺の活躍はどうでしたか?」


 全く同じタイミングで俺を見てくるバカ2人。


「「あ?」」


 これまた同じタイミングで互いを見る。


「盗賊を一番倒したのは俺の魔法だ」


「俺が強いヤツを引き付けてやったからお前が魔法を使えたんだろうが!」


「「ヤルか!?」」


 バカが剣呑な雰囲気になっていく。

 ここから本当の喧嘩に発展する事は稀だが無駄な事に時間を費やしたくは無い。


「お二人共、とても素敵でした!」


 俺の笑顔の仲裁でバカ2人がデレデレになって喧嘩をやめる。


「いやー、ソッスか?」


「あの程度、たいした事はありませんよ」


 だったら手柄を争うなよ。


「もうすぐ次の町へ着きますよ」


 タカユキの言った通りに町の影が見えてくる。


「ああ、見えてきた。アレがこの先のプルスア山脈越えをする前の最後の町、ジーハですよ」


 その町、いやプルスア山脈での出会いが、俺を更なる波乱に導く事になるとは、この時は思っても見なかった…………っていうかそろそろ落ち着かせろよ!! マジで!

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