第110話 和平交渉をしに行こう
再び人間に憑依した俺は、先送りにしていた問題を解決する事にした。
それは魔族との和平とスキルについての調査だ。
和平についてはエルフとドワーフの両者についての情報を魔族に与えれば自動的に解決する……と思う。
だがソレを素直に教えてはこちらの得にならないし、魔族にしても突然現われた人間が何の見返りも求めずに自分達の探していた情報を渡すと言われても信用できないだろう。
互いにメリットがなければ情報の信頼性を疑わざるを得ない。
それが自分達の世界を崩壊させる原因である魔力枯渇現象についてなら尚更だ。
だから俺はメリットとしてスキルに付いての詳細な情報と転移技術の供与を求める事にする。
何故2つなのかと言うと、スキルについてはマーデルシャーンの知識にも無かった為にハズレの可能性が高いからだ。
その場合を考慮してコレまで召喚された地球人が帰還する方法を求めるわけだ。
一応以前俺がでっちあげた穏健派によって勇者達に技術供与をするという話をしておいたが、その穏健派の黒幕設定のマーデルシャーンもリザードマンも死んでしまったので、念の為新たに交渉しなおす必要が出来たんだよね。
まぁ情報を引き出す為に魔力枯渇減少の原因をエルフとドワーフで小分けにして出すつもりだ。
仮に技術供与が上手くいかなかったとしても、エルフとドワーフの転移技術を研究すれば地球に帰る技術を生み出せるかもしれない。
だた個人的には表裏一体となっているリ・ガイアからガイアへの転移を成功させた実績のある魔族側の技術も欲しいからね。
これ等の技術が手に入れば、エルフとドワーフの知識を持った俺なら地球に帰還するための転移魔法を開発できるかもしれない。
例え彼等にとっての高校生レベルの技術であっても、他種族から見れば数百年以上先の技術なのだ。
そんな数百年前の技術でも地球から召喚できたのなら、数百年後の技術なら召喚元を割り出す事も可能だろう。
そしてその割り出す技術の参考になるモノこそ、魔力枯渇減少の原因があるガイアを探り当てた魔族の技術だと俺は思っている。
ほかにも人間や獣人達との和平交渉も必要だろう。
人間と魔族の対立を何とかしないと争いは収まらないし、魔族が攻めてきた理由に関して正しく伝えないとこの世界の住人にとって魔族が一方的に悪役になってしまう。
そこんところを各陣営の事情を知っている俺が伝えないと色々と困った事になる。
何せ俺以外の連中は他種族の事情を全然知らんからなぁ。
人間側の持つスキルの情報はこの交渉をちらつかせる事で手に入れるとしよう。
最終的には地球に戻る研究を対価として、各国とコネがあるっぽい勇者のリーダー高柳さんにお任せする事になるだろうが。まぁその辺は俺だけが頑張る義理は無いしね。
大体の方針も決まったし、行動を開始しましょうかね。
◆
俺は転移魔法の発動準備をする。今回はエルフの転移魔法を使う。
彼等の転移魔法のほうがバーザックの転移魔法よりも性能が高いのが理由だ。
それと同時に今回の身体で転移魔法が使えるかのチェックもする為だ。
「あら、おでかけ?」
転移魔法を発動しようとしたその瞬間にメリネアが現れる。
「せっかくだから私もご一緒するわ」
そういってぎゅっと抱きついてくるメリネア。
俺の胸にメリネアの胸が押し付けられ、大変けしからありがとうございます!!
そして俺達は魔族領へと転移した。
◆
つー訳でやってまいりました魔族領。
勝手知ったる暫定王都をささっと通って王宮へ。
「何者だ貴様ら!?」
魔族の門番に止められました。
まぁそうなりますよね。
「私は勇者の関係者です。あなた方の世界の魔力枯渇現象についての情報を持って参りました。そちらの責任者に取り次ぎ願いたい」
「何!?」
勇者の関係者である事に驚いたのか、それとも魔力枯渇現象について知っている事に驚いたのか、門番達は困惑しつつも職務を全うする為に一人を残し城内へと報告に向かった。
そして数分後に戻ってきて言った。
「お会いになるそうだ。付いて来い」
俺とメリネアは門番について城内へと入ってゆく。
◆
「この部屋だ。入れ」
門番に従って部屋の中に入ると、そこには見覚えのある人物達が座っていた。
「よく来たな、まずは座るが良い」
妙に偉そうな口調で話す身なりの良い若者と、もう一人は黒髪の中年だった。
そう、魔族の王子にして第一王位継承者であるルシャブナ王子と、地球から召喚された勇者の代表である高柳さんだった。
まさかの両組織のトップのお出迎えに流石の俺も驚きを隠せないでいた。
「その顔を見るに余らの事は知っているようだな。お前達の名を教えてもらおうか?」
なかなか侮れない交渉になりそうな予感です。
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