第109話 ヒトの祭りと鳥料理
「今日は鳥鍋だぜぇぇぇぇぇ!!」
近隣の町に雇われた冒険者達が、バンカーホークと獲物のバルバイソンを切り分けて運べるようにする。
20m以上の巨体であるバンカーホークを解体し輸送するのは一苦労だ。
元俺の体であったバンカーホークは、この近辺の食肉に出来る魔物をバクバク食べる住民達の悩みのタネだった。
それでも住民達が食べていける分の肉は確保できていたのだが、数ヶ月前から牛肉の需要が非常に高まり出した。なんでもギュウドンと言う牛肉を使った料理が大人気となったからだとか。
……俺だよ。
どうやら俺が販売した牛丼が大ヒットした後、夜逃げした俺の後釜になろうと後追いの牛丼屋が雨後の筍のように出現。牛丼バブルを生み出したらしい。
お陰で牛丼はカネダ国の顔と言っても良い程のB級グルメとして定着した。
……俺が原因だよ!
そう言う訳で、現在牛丼の肉は高騰、近隣住民は牛および牛系の魔物を好んで食べるバンカーホークが邪魔になり、冒険者を雇って殲滅計画を立てた。
けれどそれは俺がドラゴンに憑依した事でバンカーホークが逃亡、計画は未遂に終わったのだった。
で、また戻ってきた為に駆除計画を再開し、無事成功したのであった。
つまり俺が生態系を乱したって事でしょうかーーーー!!!!
まさかたかが牛丼が原因で山の生態系に影響を与えるとは。
コレが文化侵略ってヤツでしょうか?
◆
バンカーホークの肉を回収した俺達は、依頼主達の居る町バークバーまでやって来た。
今回の依頼主は町そのもので、俺達は冒険者ギルドの仲介を受けてここに来た訳だ。
「いやー、実物はデカいな! よくこんなデカい奴を退治できたもんだ。さすがは冒険者!!」
依頼主の代表である町長がご機嫌で笑う。
「いえ、丁度獲物を狩って油断していたからですよ。コイツが食い意地の張ったヤツで助かりました。我々の予想以上に被害は少なかったですから」
冒険者の一人が町長に対応している。彼は冒険者ギルドが経験と実力を考慮して選んだリーダーであった。
「はははは、デカくとも所詮は鳥頭と言う訳ですか!」
「そう言う事ですね。ははははは!!」
はははははは、鳥頭で悪かったな!
「しかしこの量では売るにしても多すぎますな。ある程度は食べてしまいますか」
町長の言葉に冒険者達の目が光る。
「では仕事の完遂祝いも兼ねて鶏肉料理の宴としましょう!」
「「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
その提案に冒険者達が歓声を上げる。
こういった大規模な狩りの際は、手に入れた獲物を振舞う宴を行う村や町も少なくなかった。
というのも、この世界には冷蔵庫や冷凍庫が無いからだ。
氷魔法を使う手はあるが、アレは加減が聞かない。
魔法使いに冷凍庫役をしてもらおうとしたら毎日定期的に氷を作ってもらわなければならないが、本職の魔法使いはそんな小銭稼ぎだけではとても食っていけない。精々が魔法適正のある料理人などが個人的に氷魔法を使うくらいだ。
まぁ、たまに長距離移動の際に魔法使いを雇って沢山の氷を作って貰う事はあるみたいだが、まぁ稀なケースだな。
結局、腐る前に食べつくした方が皆の胃袋に優しくて良いと言う話だ。
宴には町の住民も出てくるのでお祭り騒ぎになる。
そうなると酒が入る。
酒が入ると人々の気持ちもゆるくなる。
気持ちがゆるくなると若い男女の関係もゆるくなって町の人口が増える。
町にとっても良い事が多いのだ。
少子化でも一部都市では十分以上に人の多い日本では考えられないだろうが、異世界では町の人口の減少は死活問題。地球の様に家族で軽々しく引越しができる人間はそうそう居なかった。
◆
「肉だー!」
「酒だー!」
祭りが始まると老若男女問わず皆が料理に群がる。
特に子供達は我先にと鳥肉に群がっていた。
「あの、お肉切り終わりました!」
「ああ、ありがとう」
妙に動きの固い少女が俺に切った鳥肉の入った容器を持ってくる。
実は宴の準備を手伝う事になった際に、料理を作れると知った町の女衆に異国料理を是非作ってくれと頼まれたからなのだ。
うん、ただ単に人手が欲しかっただけだろうな。
「あの、コレはどういう料理なんですか? それに油をあんなに沢山」
少女は俺が作っていたタレと粉、それに油の入った鍋を見て不思議そうに見ている。
この世界でも油を使った料理はそれなりにあるが、地球ほど質の良い油はそうそうないし、生活が安定していない田舎の人達にとって見れば油を水のように使う料理なんて贅沢にも程があった。
「出来てのお楽しみさ。まず用意してもらった肉をこの粉にタップリまぶす」
「はい」
「そしてこの熱した油の中に入れる!」
ジュワァァァァ!!!
「きゃっ!?」
当然油の中に入った肉は大きな音を立て始める。食事に集中していた人達が何事かとこちらを見ている。
「どんどん投入!」
俺は更に鳥肉を粉にまぶしてドンドン油の中に肉を投入していった。
もはや説明するまでも無いから揚げだ。
表面がやや濃いめの小麦色になるのを見計らってから手作りの箸で回収する。
包丁で真っ二つにすると中まで火が通っているのを確認する。
普通の鶏肉じゃないから心配だったが、これなら問題ないな。
「ほら、食べてみな。熱いから気をつけて」
そう言って俺は半分に切ったから揚げを少女に食べさせる。
「は、はい……熱っ!」
だから言ったのに。
始めは熱そうにほふほふしていた少女だったが、口の中が熱に慣れてきたのかモグモグと口を動かし始める。
「お、おいひいです!」
「今度はこっちのタレをかけたのを食ってみな」
半分に切った残りの鶏肉に、さっき作っていた甘辛のタレをかけたモノを食べさせる。
「こっちもおいひいでふ!」
熱そうにしながらも笑顔で鳥肉をほおばる少女。
「マジか!」
「俺も食いたい!」
その光景を見ていた人々が俺達に群がってくる。
「今揚げてる最中だから、順番順番! まずは子供からね」
俺は急いで鳥肉を揚げ始める。
「悪いけど粉にまぶすのを手伝ってくれるかい?」
少女に手伝いを頼むと、何故か頬を染めながら少女は両の拳をグッと握った。
「お任せ下さい!」
良くわからんがヤル気があるのは良い事だ。
◆
「はい次の人!」
俺は熱した油の前でえんえんとから揚げを揚げ続ける。
正直熱い。水が飲みたい。
「はい次の人!」
もくもくと肉を上げ続ける。
「粉付け終わりました!」
「ああ、ありがとう」
下準備の終わった鳥肉を持ってきてくれた少女に礼を言う。
「そ、そんな、お礼なんて……むしろ魔物を退治してくださった上にお料理のお手伝いまでしてくれた冒険者さんの方が大変じゃないですか」
「いやでも手伝ってくれたしねぇ。俺一人じゃコレだけの人数裁くのは無理だったよ。はい次の人!」
いやホント、下ごしらえの手伝いしてくれてホント助かったわ。
「せっかく外の町から来てくださったんですから手伝いくらい当然ですよ。……この町も町と言っても全然人が来ませんから町って感じはしませんし。だからこういう時に人手が増えるのは本当に助かるんです」
確かに、この町は町と言うよりは人の多い村って感じだ。
恐らくは交通の便が悪いのが理由だろう。周囲は近くにはプルスア山脈があるし、山脈越えの旅人は麓の町のほうに行く。ここはそういった生活のラインから大きく外れていた。
となると、この少女の雰囲気が硬いのも、田舎の村に都会から若い男が来たみたいな感じなのだろうか。
話題のない田舎ならちょっと知った娯楽と言う訳か。
「それで……あ、あの……冒険者さんは……」
「お肉くださいな」
肉待ちの女の人から催促の声がかかる。
いかんいかん、話に集中して料理の手が止まっていた。
「すいません、どう……ぞ……」
俺が差し出した鳥肉を二の腕まである真っ赤な手袋が受けとる。
女性は全身が真紅のドレスを纏っており、その顔立ちは完璧などという陳腐な言葉では到底形容しきれない美しさを誇っていた。
皿を受け取った女性はヒョイっと鳥肉を口にしてモグモグと食べ始める。
「……」
田舎町に不釣合いなほどの鮮やかなドレスに誰も口出しする事などできなかった。
何故ならそれ以上に女性の美しさが人々の言葉を奪っていたのだから。
「やっぱり貴方様の料理が一番美味しいわ」
女性が親しげに俺に近づき、鳥肉のお代わりを催促してくる。
はい、俺の嫁です。
つーかお前何しれっと宴に紛れ込んでるんだよ。
「負けた……」
そして何故か後ろに居た少女が真っ白になって項垂れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます