第114話 研究開始!?
魔族から異世界転移の情報を手に入れた俺は、早速地球帰還術式の構築を開始する事にした。
開発を行う場所は、なつかしの我が家。プルスア山脈にあるドラゴンの巣である。
ここなら俺が居るとは誰も思わないだろう。
「特に荒らされてはいないみたいだなぁ」
久しぶりに帰ってきたが、巣が荒らされた形跡は無く、裏の宝物庫も荒らされてはいなかった。
作業を始めるために龍魔法で肉体を強化し、近くの岩を持ってくる。
そして龍魔法によって強化された肉体による圧倒的速度の斬撃で、近くの岩を切り裂き簡易机を作成。
簡易と言っても龍魔法によって強化された肉体で振り下ろした刃の一撃は、歪みの無いまっすぐな面を岩に与えてくれた。まるで大理石のような表面である。
まぁ剣の方が保たなくて、机を作り終える頃にはすっかりボロボロになっていたが。
「んじゃ始めるか」
今回構築するのはバーザックの転移魔法をベースにした術式で、そこに魔族式の魔力追尾機能を盛り込む。
魔族の転移装置がガイアへの転移を可能にしたのは、ガイアへと流れるリ・ガイアの魔力がヒモとなってガイアへ繋がっていたからだ。
つまり入り口と出口がヒモで繋がっており、魔族は術式でその糸を伝っていったのが魔族式の追尾術式の理屈だ。つまり情報が全く0の状態から転移先を指定した訳では無いという事だ。
それゆえ、ここで困った問題が発生する。
地球への転移を行いたくても、座標を追跡する為のヒモが無いのだ。
しかも勇者召喚術式は俺が破壊し、資料になるものも関係者ごと破壊した。
つまり手がかり0な訳だ!
いや、0では無いか。
手がかりはある。
それはメリケ国に召喚術式をもたらした謎のローブの人物だ。
性別も体格も不明。
推測できるのは、その人物が転移もしくは召喚魔法に詳しい人物という事だけだ。
ほんま役にたたん手がかりやでぇ。
仕方ないので追跡系の魔法で代用できないか試してみよう。
かつてバーザックの弟子が俺を追跡した様に、地球を追尾する為の波長を探せないかと思ったのだ。
地球とこの世界に召喚された勇者との間に同調する波長を見出せれば、モンタージュの写真の様に地球の座標を照らし合わせる事が出来るのでは無いか。
そしてそれを行うには、地球人である勇者の私物が必要であった。
◆
この世界には無く、地球にしかない物体、それがあれば地球の波長を検索できるのでは無いか?
と、いう訳で俺達はメリケ国へと来ていた。
勇者達がベースにしているのは、自分達を召喚したメリケ国か、逃亡先であるカネダ国だ。
カネダ国は高柳さんのお膝元なので、彼等の帰還前にバックレた俺はちと行き辛い。
だってあのまま残ってたら【源泉】が破壊されていた事について色々と聞かれそうだったんだもん。
なのでカネダ国で暮らす勇者との接触は後回し。
今回はメリケ国の勇者達との接触を優先する。
それにメリケ国の勇者の方が色々と都合が良いのだ。
と、言うのもだ……
「今日も魔族が動く気配無いってよ」
「つーか魔族居なくなっちまったらしいぜ」
「マジかよ!?」
「マジマジ、俺のスキルで軍議の様子覗き見したからよ。魔族が居なくなったからどうするよって話してた」
丁度都合の良い所で勇者と思しき若者達を発見する。
何故分かるかって?
そりゃこんな朝っぱらから働かずに町をブラブラしている黒髪で、かつこの辺りでは見ない服装をした若者といえば日本人以外にありえないからだ。
この世界では中学生くらいの年齢の少年は例外なく働いている。貧乏ならもっと若い年齢で働くだろう。
何よりもあの服、化学繊維で作られた服はこの世界には存在しない。
彼等は元の世界に帰る為、魔族との戦いに明け暮れていた。だがその魔族が居なくなった所為でする事がなくなってしまったのだ。
「で、魔族が居なくなった理由とかは分かったのかよ」
「さっぱりだとさ、なんで居なくなったのかは検討も付かないらしい」
「じゃあ俺達はお払い箱、地球に返してもらえんのかね?」
それはそれでつまんねぇなと髪の先端をやや茶色に染めた勇者が呟く。
元々は全部茶色に染めていたのだろうが、こちらの世界には毛染めの薬がなくて地毛の色が出てきたのだろう。
しかし黒髪の勇者の方がそれを否定する。
「いや、なんか俺達を使って隣国を攻めようって話になってるぜ」
「げ、人間同士の戦争とか簡便だぜ。さすがにそりゃマズいっての」
魔族はいいけど見た目の同じ人間とは殺しあいたくないというのはどうよと思うが、まぁそこでスキルを使って殺し放題だー!とか言われるよりはよっぽどましか。
「あと先代の王様が自分達騎士の権力を守る為に、魔法使い達を殺しまくったから俺達を日本に帰す準備が遅れてるって話な、アレ嘘みたいだ」
「どういう事よ?」
「俺の【千里眼】で覗いたらよ、元々俺達を返す魔法なんてなかったんだとよ。でも魔族居なくなったから元の世界に帰せって言われたら困るから、魔法使い達を殺した先代の王様に罪を全部擦り付けるつもりみたいだぜ」
「げ、マジか!? 俺達ずっとコンビニもない世界で暮らさなきゃならないのかよ!?」
ほほー、【千里眼】か。聞いている限りでは映像だけでなく音も聞けるみたいだな。スパイ活動にはうってつけの良いスキルだ。
「どうするよ、このままだとマジモンの戦争に狩り出されるぜ」
「ちょっとカンベンだよなー」
「ああ」
「逃げるか?」
「何処へだよ、金なんてねーぞ。俺達給料なんて貰ってないからよ」
「だよなー、欲しいもんなんてこの世界じゃ全然ないもんな。精々美味い喰いモンか」
「それも日本のメシの方が美味いし、マジックアイテムも大半は100円ショップに行けば手に入るモンばっかだもんな」
「分かる。ハンバーガーとか牛丼とか喰いてーわ」
「ああ。まじジャンクフード喰いてぇ」
「「はー」」
今後の事を考え憂鬱そうな顔でため息を吐く勇者達。
いい感じにヘコんでるな。
これなら交渉は上手くいきそうだ。
俺は2人を追跡し、あまり人気の無い場所まで来たところで2人に話しかけた。
「そこのお兄さん達」
「あ、俺達の事か?」
呼び止められた事に気付いた勇者達が俺の方に顔を向ける。
「ええ、そうですよ、お兄さん達」
俺は笑顔で2人に近づいていく。
「お兄さん達、噂の勇者様でしょう。聞けば異世界から来たとかいう」
「お、おう。そうだけど……」
突然話しかけられた事でやや警戒の色が滲む。
けど本心では油断している。自分達にはスキルがあるからと。
「実は私旅の商人でしてね。勇者様の持っている異世界の品を売っていただけないかと声をかけさせていただいた次第です」
「異世界の品?」
売るという言葉に金の匂いを感じた勇者達が興味を示す。
「ええ、詳しいお話は食事などしながらでどうでしょう? 勿論私のおごりですよ。まずは話だけでも」
勇者達が顔を見合わせる。
「まか、話だけでもってんならな」
「そうだな、せっかく驕って貰えるわけだし」
勇者様フィッシュ!!
◆
「という訳で、勇者様の持つ異世界の品を売ってほしい訳ですよ!」
俺は勇者達を高級料理店へと連れて行き、店の高級な雰囲気に呑まれている勇者達に矢継ぎ早に説明をしていった。
高級料理店に入ったのは俺が金持ちであるアピールをする為と、高級な店に入った事のない勇者達を圧倒して萎縮させるためだ。
「あー、つまり……好事家の貴族が俺達の持ち物なら何でも買ってくれるって訳……ですよね?」
何とか説明についてこれた黒髪の勇者が噛み砕いて理解する。
「その通りです。ただし、見るからに異世界と分かる品でなければなりません。たとえ異世界の品でもこちらの世界にある物と大差なければ意味がありませんからねぇ」
「成程」
「どうでしょう、あなた方の所有する異世界の品を売っていただけないでしょうか? 多少は仲介料を頂きますが、品物によっては金貨一千枚は堅いですよ」
「っ! 金貨一千枚!?」
思わず口にした後で自分の口を押さえる勇者達。
「おい、金貨一万枚って日本円でどのくらいよ?」
「た、確か銅貨一枚で100円くらいだからそれが10枚で銀貨一枚、更に20枚で金貨一枚だから。金貨が1万円になって、それが一千だから……
「1千万円!?」
叫んだ瞬間お互いの口を押さえる勇者達。コントか。
「マジかよ、一千万って幾らだ!? プラスケ5が何台買えるよ?」
「100台くらい買えるんじゃねーの? つーかそれだけあれば暫く遊んで暮らせるぜ!……いや、ここは異世界だ。だったらその金を担保にして商売ができるんじゃね?」
「商売?」
「ああ、地球の知識を利用すれば異世界で大もうけする事もできるかも知れない」
「そっか、こっちの文明は遅れてるもんな!」
黒髪と茶髪の勇者はこそこそと小声で相談していたが、次第に興奮で声が大きくなってしまい相談の意味をなくしてしまっていた。まぁ気持ちは分かるが。
たまたま拾った宝くじが当たっていた気分なんだろうな。
もう少し交渉が粘るかもと思っていたが、意外にラクに済みそうだ。
「あの……金貨一千枚って話ですけど、お金は何時頂けるんですか? 売る時ですか? 売って金になってからですか?」
ドリーム満載の相談をしていた勇者達が真剣な顔で俺を見つめる。恐らく代金の踏み倒しを恐れたのだろう。
「ご安心を、代金は用意してあります。お売りいただけるのなら直ぐにご用意いたしましょう」
俺は持っていた袋の口を少しだけ開いて、彼等にだけ金貨が見えるようにする。
勿論袋の中身は金貨だ。
「おおっ!」
勇者達は黄金の光に目を輝かせる。
ちなみにこのお金はドラゴンが溜め込んだお宝のうち、俺には価値が見出せなかった品を手当たり次第に売り払ったて手に入れたモノだ。
鎧とか彫像とか使わんしね。
転移魔法の研究に使う資金も全部そこから出ている。
いやーお宝を隠しておいて正解だったわ。
「どうでしょう? 試しに何か1つ売ってみませんか。持っている物を全部売ってくれと言う訳ではありません。勇者様が売っても良いと思ったものに我々はお金を出させて頂くだけです」
「そ、そうだなぁ。おい、何かイイモン無いか?」
「ん、ああ、そうだな」
勇者達がポケットをあさって売れるモノが無いか探すが、意外に売れそうなモノが見付からなくて焦っている。
「皮の財布……」
「安物の合成皮だろそれ」
「シャーペン……」
「芯がねーじゃん」
「……スマホ?」
「かける相手がいないっつーか、そもそも電波通じないじゃん!」
「しまったー!!」
こういう時売れるものって以外に無いよな。
けど俺的には十分当たりだ。
「それ、見せて貰えますか?」
「え? でもコレ芯ないし電波が……」
「し、黙ってろって」
このままでは使えない事を正直に告げようとした黒髪の勇者を茶髪の勇者が制止する。
うん、長期的なお付き合いを考えたらダメだが、その場限りの商売として考えれば間違いではない。
「コレはどの様にして使うものなのですか?」
「え、えーと、それは財布です。そ、素材が俺達の世界でないと作れない珍しい皮です」
合成皮の財布の説明をしてくれる黒髪の勇者。やはりマジメか。
「ほほう、希少な皮なんですね。それにこの蓋をする機構、コレだけ細かいのに引っ掛かる事無く開け閉めができる! これは細工物を好む貴族の方が喜ばれますよ」
俺がいっているのはジッパーの事だ。小銭を入れる部分のジッパーをソレらしく褒めちぎる。
「そ、そうですか?」
金にならないと思ったものに意外な価値が見出されて勇者の顔がにやける。
「こちらの棒は何ですか?」
「ああ、それはシャーペンというペンで、中に細い芯を入れると書ける様になるんですよ。……今はその芯がありませんけど」
「だから余計な事言うなって」
茶髪の勇者が黒髪勇者の頭を小突く。
「言わないと後でトラブルになるだろ」
「その芯というのはどのようなモノなのでしょうか?」
あくまでも俺は商売に利用できるかというスタンスで彼等に質問を続ける。
「えーと、たしか鉛筆だから……鉛を細長くしたのを使ってたはずです!」
ずっごいざっくりした答えが帰ってきた。
とりあえずはその回答に感動しておこう。
「おお、鉛を使うのですか、なるほどなるほど。それで最後のコレはいったいなんですか? これだけ使い方が分からないのですが」
俺が質問している品はモチロンスマホの事だ。
異世界人らしくスマホの使い方を勇者達に質問していく。
「ええと、元々は遠くの人達と話をする為の道具なんですけど、こっちの世界にはアンテナが無いんで連絡には使えません。今使えるのはこうやって見たものを絵にする機能くらいですね」
そういってスマホを構えて俺を撮影すると、俺のほうにスマホの画面を向けて今写した俺の姿を見せる。
ああ、今の俺ってこんな姿なんだな。
「おお! 私の姿が絵になっている!! いや本当に絵なのかコレは!?」
俺は大げさに驚いて感動をしているとアピールする。
「いや素晴らしい! 勇者様の品はどれも素晴らしい物です!!」
「い、いやぁ、そんな大したモンじゃないっスよ」
べた褒めされてニヤニヤと笑いながら喜ぶ勇者達。
「勇者様方が宜しければ、これらの商品を是非売っていただきたい。代金は……そうですね、金貨一千五百枚でいかがでしょうか?」
「「売りますっ!!!」」
勇者達の声がハモった。
なかなかの即断だが、今後の事で不安になっている彼等からすればもう使い道の無い道具などゴミ同然と言う事だろう。
そのくらいならさっさと売り払って大金にしたほうがよっぽど建設的だ、そう考えたのは彼等の顔を見れば一目瞭然だ。
しかも最初の交渉から五百枚プラスである。
「ではこちらが代金の金貨一千五百枚です」
俺は金貨の詰まった袋を勇者達に差し出す。
「うぉ、めっちゃ重!」
「持って帰れるかな?」
「持って帰るんだよ! コレを使ってこの国からおさらばして、地球の知識で大もうけするんだ!」
「だな!」
そう宣言すると勇者達は急いで帰っていった。
今頃彼等の脳内では華麗な異世界商売無双が展開されているのだろうが、若い彼等が商売の世界でうまくやっていけるか心配だ。
ああ、片方の勇者君は【千里眼】スキルが在るから意外に上手くやれるかもしれないな。
まぁ頑張ってくれや。
俺は君達から手に入れた【プラスチック】や【合成皮】を使って地球の座標が検索できるか研究させてもらうからさ。
「さて、それじゃあ研究を再開しますか」
と、気合を入れた俺の袖が引っ張られる。
後ろを見れば大量の空になった串を持った見覚えのあり過ぎる美少女。
「食べたり無いからお小遣い頂戴」
「……はい」
ついに交渉にさえ加わる事無く、延々と喰い歩いていたメリネア奥様だった。
世界一周喰い歩きの旅じゃないんですけどねぇ。
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