第115話 次元追跡実験の後、照り焼き

「よし、これで試してみるか」


 俺の前の床には巨大な魔法陣が書き込まれ、更に魔法陣の中には上に水晶玉が付いた馬鹿でかい四角い箱が鎮座していた。

 このマジックアイテムは一見すると上に水晶玉が付いた馬鹿でかい四角い箱だが、その正体は漸く完成した地球の座標を捜索するマジックアイテムの試作品だった。

 箱の片面には蓋が付いており、そこに物を納めると同じ波長を捜索するというマジックアイテムだ。

 魔族の転移装置の理論を参考に作成した次元転移魔法陣と、それに連動したこのマジックアイテムを起動すれば、転移先の座標が自動的に箱に入れた物と同じ波長を示す場所へと繋がるようになっている。

 今回使うのは勇者から手に入れたシャーペン。正しくはそれに使われているプラスチックだ。

 プラスチックはこの世界に存在しない合成物質である。

 地球で作られたプラスチックがある場所は地球、つまり転移先は地球になるのが道理なのだ!!


「と、いう訳で起動!!」


 転移装置が起動し、マジックアイテムが唸りをあげる。そしてマジックアイテムから光が漏れその光が床の魔法陣に伝い魔法陣の文様が輝きだす。

 さぁ、地球よ、再び俺の前に姿を見せてくれ!

 そして輝きが最高潮に達すると、魔法陣の中心に円が現れ、その中には洞窟とは違う風景が映し出された!


「来た!!」


 俺はその光景をよりはっきりと見る為に、身体を前に突き出す。


「うぉ!? 何だ!?」


 人の声が聞こえる。誰かが居るんだ! しかも日本語!

 そこに見えた光景は!!!


 ◆


「え? 何? なんか目の前に洞窟が見えるんだけど」


 俺にシャーペンを売った勇者だった。


「…………」


 俺はそっと魔法陣を停止した。

 魔法陣は光を失い、別空間に繋がった穴も消えうせた。


「失敗だよ」


 どっと疲れた。


 あまりの肩透かしに脱力して地面に転がる。

 夢中でマジックアイテムを作ったというのにこの結果である。

 もう何もかも面倒になってきた。

 つーか何で俺はわざわざ地球に繋がる転移魔法陣なんて作ろうとしたんだろうなぁ。

 自分でもよくわからんくなってきた。

 とにかく何もかもめんどい。

 ごろごろと地面を転がってだらける。

 あー、冷たくて冷やっこいわー。


 そんな俺の背中を何かがぴったんぴったんと叩く。

 ごろりと転がれば、其処には同じ様に地面に転がったメリネアが頬を膨らませていた。


「お腹空いたの、ご飯が食べたいわ」


「はい」


 外食に行く事にしました。


 ◆


 すごい勢いで空を飛んで行く。

 ドラゴンの姫であるメリネアの翼に掛かれば大陸と大陸を飛び越えるのに数時間も必要なかった。

 最も、その上に乗っている俺は龍魔法必須なんですけどね。ないと死ぬ、マジ死ぬ。

 メリネアは魚を食べたがった。

 具体的に言うとカジキ、カジキングを。

 なのてちょちょっとひとッ飛びで海までやって来たのだ。


「あそこに居ますよ」


 上空からカジキングの巨体を見つけた俺は、メリネアに指示を出すと自分は飛行魔法でメリネアの背中から離脱する。

 直後、メリネアは高速で海面に飛び込んでカジキングに体当たりをし、哀れカジキングは一撃の元に死亡した。死因は追突死。

 カジキングを捕獲したメリネアが上空に舞い上がって俺の元へと戻ってくる。

 俺は再びメリネアの背に乗り彼女が飛ぶに身を任せる。

 暫く飛んだメリネアは近くの陸地で降りて人型に戻る。


「今日はコレをご飯にして頂戴」


 作れと仰るか。

 7メートル近い巨体で何を作れと仰るのか。


「にこにこ」


 笑顔で要求してらっしゃる。

 ……仕方ない。


 転移魔法で適当な町へ移動し、調理器具一式と食材と調味料を狩ってくる。

 そして米を研ぎ、ご飯を炊く間にカジキングを捌く事にする。

 近くの岩と大岩を真っ二つに切ってから魔法で水を流し、次に火炎魔法で煮沸消毒。

 再度魔法で水を流して冷やしたら大岩の方をまな板にして仕込み開始だ。

 まず臓物を抜き、頭部とエラと尻尾をカット。

 そしてカジキングの肉の一部を手ごろな大きさにカットしたら、まな板にしていない方の岩に火炎魔法を掛けて熱した後に油を軽くひいてその上にカジキングの肉を焼く。

 肉を焼いている内に残りの肉もカットしていく。

 途中で焼けてきた肉をひっくり返してから、新たにカットした肉の両面に塩を振りそちらは清潔な布をしいた皿においておく。焼いている肉が焼けたら軽く塩コショウをかけてメリネアに差し出す。


「まずはコレをどうぞ」


 コレだけでも普通の人間の一食分だが、ドラゴンであるメリネアには前菜程度の量でしかない。


「それじゃあ頂くわ」


 メリネアが前菜を食べている間に残りのカジキングの料理を進める。

 先ほど塩を書けた肉を岩のフライパンに乗せて焼き始める。

 その際肉の表面に醤油、砂糖、みりん、を混ぜたタレを塗っていき、ある程度まで焼けたらひっくり返してその面にもたれを塗って焼いてゆく。

 そして両面が焼けたら完成だ。


「カジキングの照り焼きでございます」


 本来なら焼く前に酒につけるのだが、この世界では日本酒が無いのでみりんだけでカンベンしてもらおう。


「コレが今日のメインね」


 メリネアがカジキングの照り焼きをフォークで刺して口に運ぶ。


「もぐもぐ」


 味の感想を聞きたいところだが、俺には次の照り焼きを作る役目がある。

 一々待っている時間など無かった。

 黙々と照り焼きを量産していく。

 完成する度に照り焼きが消えていくのでマズい訳ではないようだ。

 俺は一心不乱にカジキングの肉を焼いていった。

  

 ◆


「ご馳走様」


 そしてついに7mのカジキ肉が消滅した。

 当のメリネアは涼しい顔で口元を拭いている。

 メリネアの姿を見てもそのスタイルが乱れた様子は全く見えない。

 いったい食べたモノは何処に消えているのやら。


「今日も美味しかったわ。やっぱり異世界人の作るモノは珍しくて美味しいわね」


 珍しくメリネアが異世界人に対して言及する。


「そんなにお気に召しましたか?」


「ええ、異世界人の料理はこの世界の料理よりも美味しいわ。私達ドラゴンとしても大満足よ」


 それほどなのか。……まぁ確かに過去の地球の人間は料理に命をかけてる連中が多かったからなぁ。 

 河豚とか毒キノコとか、何で毒塗れのものを其処までして食おうとするんだよって言わずには居られないくらいに地球の人間達は食にこだわった。

 異世界人から見れば牛丼ですら大ヒットするのだからお察しである。


「やっぱり外の知識を呼び込むのは大事ね。身内で固まっていたらこんな美味しい料理は食べられなかったもの」


「? それはどういう意味ですか?」


 ドラゴンが外部の知識を必要とする? この世界で最強の存在が?

 龍魔法があれば大抵の相手には負けない存在であるドラゴンが? 

 一瞬食事の事かと思ったが、俺が憑依したドラゴン然り、ドラゴンは種族的に生食がメインだ。


「自分の知らない知識を知るのは大事な事よ。特に美味しく楽しい知識はね」


「はぁ……」


 この言葉の意味を俺は深く考えなかった。  

 単にたまたま結婚した俺が食べ物を美味くする方法を知っていたからくらいの意味かと思ったのだ。

 だが、彼女の言葉はもっと深い意味を持っている事に、俺はまだ気付いていなかった。

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