第60話 転移ゲート
「拙者の名前はゴブ之進と申します! 階級は10人長でござる!!」
「わたくしの名はおゴブと申します。階級は兵士、ゴブリンヒーラーです」
「拙者ブリ之助と申す。階級は1人長でござる」
「わたくしはおリンといいます。階級は兵士、ゴブリンメイジです」
俺の部下となったゴブリン達が自己紹介をしていく。
っていうか和風な名前だなおい。
この世界、というかリ・ガイアのゴブリンは地球でいう下級モンスターではなく、ちゃんとした知性ある種族らしい。あと意外と規律正しい。
正しくはゴ・ヴリ・ンと呼ぶらしく、森と平原の狭間の者という意味だそうだ。
正直どうでも良い。あと50人も覚えきれねーよ。
「以上50名、バグロム百人長の指揮下に入るでござる!!」
「俺はバグロムだ。これから宜しく頼む」
「挨拶も終わったようだし、メリッケ大陸に戻るぞ」
挨拶が終わったのを見たボークシャーに移動を命じられ、俺達は転移ゲートへと向かった。
◆
黒く巨大な円形の建物。
魔族の侵略活動の発端となった技術である召喚魔法の産物であり、ガイアへの侵略の最重要施設。
それがこの中にある転移ゲートだった。
施設の壁は特殊な鉱石をふんだんに使った特別製の壁で非常に硬く、魔法への耐性も強いらしい。仮に敵がゲートの向こうから侵入してきたとしても、入り口を封鎖して相手を閉じ込める。さらに操作室への入り口は建物の反対側からしか入れないので、内側から操作室を占拠する事は不可能なのだとか。
建物の中に入ると通路があり、それを少し歩くと大きな空洞になっていた。ここは結構な広さであり、転移前に兵士達はここで待機する事になるのだ。
そして周囲の円弧を書く壁には、1から8までのNoが書かれた扉が置かれている。
俺達はあのNoに従って目的地に移動するのだ。
Noが若いほど重要度が高い地域である。ちなみにイドネンジア方面は8番である。
「メリッケ大陸は2番ゲートだ」
ボークシャーが俺に入るべきゲートを教えてくれる。
「50人ならギリギリ入るか」
俺は入場が許可された2番ゲートに部下達を入れ、中で待機する。
『メリッケ大陸方面転移術式、起動します』
室内にナビゲーターの声が響く。
足元の魔法陣が光ったかと思うと、僅かな浮遊感を感じたと共に景色が変わった。
『バークシャー千人長及び部下の方々、ようこそメリッケ大陸へ』
ナビゲーターの声が聞こえる。
到着のようだ。
しかしこの転移魔法陣、ガイア側の技術よりも輸送できる量が多いな。
バーザックの転移魔法は魔法陣による補助と魔力をブーストするアイテムを大量に使い捨てにして漸く30人くらいだ。
技術的に同じ事が出来ても、その規模において人間は負けている。
普通に戦ったら人間負けてたな。
魔族の兵数が少ないのとガイア側の種族が主導権争いしているからこその奇跡的バランスだ。
◆
その後、俺達はボークシャーと別れ、そのままメリケ国にいる部隊と合流する事となった。
転移装置のあるボークシャーの基地はカネダ国にあった。
そこは以前俺が迂回する事を拒否して、プルスア山脈越えを選んだ迂回路の近くだった。
メリケ国の国境はここから3日、部隊と合流するのに2週間というところらしい。
「バグロム百人長、拙者人間の大陸は初めてでござる!」
「拙者もでござる」
ゴブ之進達が浮き足立った様子で話しかけてくる。
意外とフレンドリーなのな。
「そうか、俺も大陸は初めてだな」
バグロムは速攻で僻地行きだったから大陸の知識は無い事になっている。
そこら辺注意しないとな。
「基本的に森や山の中を通って目的地へ向かう。間違っても人間達に見付かるなよ!」
「「「了解でござる!!!」」」
ゴブリン達が元気よく返事をする。
隠密移動中に元気よく返事をするのは駄目じゃないか?
◆
しかし困った。
魔族の情報が手に入るかと思ったが、結局戦場に逆戻りだ。しかもメリケ国に。
なんかあの国と因縁でも在るのかね?
魔族の詳しい情報を手に入れようにも、その知識は権力者にしかない。
となると何とかして権力者に殺されるか地力で出世するしかない。
不幸中の幸いだったのが、侵略先はメリケ国だったということか。
なんつーかあの国相手ならあんま良心の呵責なく攻撃できる。
けどその後も他の国に攻撃できるかって言うと難しいよな。
この世界の全ての人間に恨みが在るわけじゃないしさ。
まぁだからといって、魔族の事情を知った状況だと、魔族が一方的に邪悪な存在ってわけでもないんだよなぁ。だが王子は許さん。
理想的なのは王子を始末して穏健派の誰かに指導者になってもらって人間への攻撃をストップ、そんで人の居ない無人島とかで暮らしてもらってリ・ガイアから魔力が無くなっている原因を解明してもらう事かな。っつーかなんで戦うんだろうな? 他の世界へ行けばいいんじゃないかと思うんだが。
そこら辺も俺の地位じゃ知る事の出来ない機密情報って訳か。
まぁ多分やらないのなら出来ないって事なんだろうな。
◆
「バグロム百人長、目的地が見えてきたでござる!!」
旅を始めてそろそろ2週間と言う所で部下が報告してくる。
正直森や山の移動で進路がずれていないか心配だったのだが無事に着いたようだ。
漸くベッドで寝れるか。流石に野宿が続くのはきつい。
「バグロム百人長、目的地の様子がおかしいでござる!」
「何?」
部下の言葉に俺も先頭に追いついて部下の指差した方角を見る。
すると指の指し示す先に煙が見えた。
山火事か? いや違う。火事ならもっと派手に燃えているはずだ。
不安に思った俺は数人を斥候として出し、注意しながら前進を開始した。
◆
「こいつは酷い」
目的地である基地に到着した俺達が見たのは、瓦礫と化した廃墟であった。
恐らく戦闘があったのだろう、そこかしこに魔物や魔族の死体が倒れている。
「隊を5人一組に分けて生存者を捜索する。応急処置の出来る者及び、ヒーラーのいない隊から2隊を周囲の警戒に回す。ゴブ之進班分けを頼む」
「了解でござる!」
ゴブリン達が迅速に動き出し生存者の捜索を開始する。
本当にゴブリンのイメージが狂うなぁ。
◆
「生存者発見でござる!!」
ゴブリンが生存者発見の報告をしてくる。
「何処だ!?」
「建物の影で倒れていた為に見逃されていた様でござる。ですが酷い怪我でヒーラーの治療も間に合わないでござる」
「連れて行け!」
ゴブリンに案内されて向かうと、そこには地面を真っ赤に染めて横たわる魔族がいた。
「容態は?」
「回復魔法を使ってはいますが、傷が酷く、私達の魔法ではとても回復が間に合いません」
「おい、意識はあるか? 誰にやられた!?」
このまま死なせる訳にはいかない。何としてもこの基地を壊滅させた相手の情報を手に入れなければ。
「ゆ……」
「聞こえんぞ! もっと大きな声をだせ!!」
俺は耳を近づけて再度要求する。
「ゆ……しゃ……」
それが限界だった。
男はそれっきりじゃべらなくなった。
「申し訳ありません。私達が未熟なばかりに」
ヒーラー達が謝ってくる。
「気にするな、お前達がいなければ情報を聞き出す事は出来なかった」
「では敵の正体が分かったのでござるか?」
俺は頷き、敵の名前を口にする。
「敵は……勇者だ」
憑依を繰り返した俺の人生において、もっとも過酷な戦いが始まろうとしていた。
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