第43話 落ちぶれ海賊
カジキング改め海賊となった俺は、現状の詰みっぷりにちょっぴり絶望した。
まず現在の俺達は指名手配犯だ。
いや、海賊の時点で既に犯罪者なのだが、王族を狙って誘拐を行ったのでその時点で国家反逆罪となった。つまり追っ手の規模が段違いと言う事だ。
更にマズイ事に船長を始めとした船の有力な乗組員が突然現れたカジキによって殺され、海賊団の戦力は激減していたのもピンチに拍車をかけていた。
ぶっちゃけ俺が原因なんですけどね。
だから久しぶりの食料を手に入れた事、そしてその獲物が憎きカジキであった事に彼等は大興奮していた。
「ヒャッハー! 思い知ったかカジキ野郎め!」
「船長達の敵だぜ!」
「俺達の強さを思い知ったか!!」
彼等のテンションの上がり様は尋常ではない。
ここでこのカジキが彼等の憎むカジキ本魚だと教えたら、一体どうなってしまうだろうか?
まぁ言わないけど。
◆
「さて、メシも食ってマシな気分になった所で話がある」
船長達有力な船員が全員死んでしまった為、纏め役となった一番古参の船員が越えを挙げる。
「話の内容ってのは俺達のこれからだ」
普段は真面目に会議などしない海賊達も今回ばかりは神妙な顔で話を聞く姿勢になる。
「依頼された王族の誘拐に失敗し、船長達も死んじまった。しかも国の騎士団に狙われているのが今の現状だ」
ほう、依頼主が居たのか。俺の体は下っ端の一人だからそう言う話は聞かされてないんだよな。
まぁ、ここに残っているヤツ等はほぼ全員下っ端なんだけどさ。
「俺達に出来る事は2つだ。もう一度王族を誘拐するか、逃げて海賊業に戻るかだ」
「いや無理だろ」
話を聞いていた船員達が異議を口にする。
「この船を見てくれよおやっさん。騎士団の軍艦に追われてボロボロだ。とても王族の船を襲うなんて無理だ。今頃は何倍もの護衛が付いてるぜ」
「ああ、それに船がこんなじゃ海賊業を続ける事もできないぜ」
確かに、今の男達が言った通りこの船は度重なる追撃によってボロボロだった。
とてもコレまでのように海賊として働く事はできないだろう。
「なら廃業しかないか」
おやっさんと呼ばれた古参が項垂れながら甲板に座り込む。
「けど、どうやって生活していけばいいんだよ」
「海賊を辞めたら暮らしてけねぇぜ」
元犯罪者だからなぁ。でも日本と違って情報技術がつたないこの世界なら遠くに逃げればワンチャンあるだろ。
「そうなると後は船を何処に沈めるかっスね」
俺は身体の持ち主の記憶をトレースしながら意見を述べる。
「どういうこった?」
「船を岸に着けて出てったら間違いなく俺達がその辺りで船を捨てて逃げたとバレるっすよ。だからどっかで船を沈めてボートで陸に行くんスよ。ボートなら騎士団に見つかっても近くの漁師だと思われるっスよ」
俺の意見を聞いた船員達がなるほどと納得する。
「確かに、俺達が船を捨てたとバレるよりは船を沈めた方が今も船で逃げてるって思わせる方が良さそうだ」
船員達も納得してくれたみたいだ。
「どうせこの船じゃこれ以上逃げ切れねぇ。荷物だけ持ってトンズラすんぞお前等」
「「「応っ!!」」」
そうと決まれば行動は早かった。
海賊達は使える荷物とわずかばかりの金品を小船に積み込んで陸地の近くへと向かい、陸が見えたら小船を下ろして船底に斧を叩き付けて穴を開け始めた。
「悪りぃなぁ大鉈号」
「いままでありがとうな」
船員達が涙ぐみながら船に穴を開けて沈めていく。
船員にとって船は大事な家族。それは海賊であっても同じだった。
「お前ぇ等、大鉈号に敬礼!!」
恐らく騎士団を真似たのだろう。おやっさんの号令に従い船員達が敬礼をする。
「大鉈号、今までありがとうよ」
◆
「さって、これからどうすっかな」
陸に上がった船員達は、これから何をすれば良いのか分からずに途方に暮れていた。
「まずは町を目指すか」
「だな」
全員が同じ方向を目指そうとしたので、俺は反対の方向に向かって歩き始めた。
「んじゃ、俺はここでおさらばっス」
「何?」
おやっさん達が驚いた顔で俺を見る。
「お前何処いく気だよ、俺達と一緒に行かないのか?」
つれションじゃねーんだから考えろよお前等。
「騎士団が陸でも捜索している可能性があるっス。だからバラけて行動した方が捕まりづらいっスよ」
街道を不審な集団が集団で歩いていたら誰だって不審がるだろう。しかもそれが商人の様に荷物を持たず、手ぶら同然だとすれば尚更だ。
少人数の旅なら分かるが、このご時勢に大勢で徒歩旅行なんてのはまずありえない。
だから彼等と別行動をするのだ。
「そうか、達者でな」
おやっさんが受け入れると、他の船員達も同じ様に別方向を目指すべきかと相談を始める。
まぁ好きに悩んでくれ。
「じゃあそう言う事で」
俺は今度こそ彼等と別れた。
分かれようとした。
「おっと、逃げられては困るな」
邪悪、そう断言できるおぞましい声が聞こえた。
そして振り返った先には赤い噴水が出来ていた。
否、それは噴水ではない。
人間の体だ。
頭の無い人間の体から、その首から大量の血が噴出していたのだ。
「血のシャワーと言うのは暖かくてとても素敵だとは思わないかい?」
噴水の中央には見た事も無い男が立っていた。
「私は殺した相手の血を浴びるのが大好きでね。なんというか……自分が殺した相手の命を独占している気持ちになるのだよ」
男が照れくさそうに語る。
そんな事聞いてねぇよ。
「だから……君の命も私にくれたまえ!!」
抵抗しようとした、だがそれよりも早く目の前の男から攻撃が放たれた。
「エアハーケン」
突然視界が揺れる。
何故か俺の視界がグルグルと回転し出す。
そして揺れた。
頭に痛みが走る。
最後に俺が見た光景は、首の無くなった自分の身体だった。
「今度の身体は魔法使いか」
先ほどまでの自分の身体と首を見ながら俺は呟いた。
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