第128話 皇の影

「メリネア」


 俺はメリネアを真正面から見据える。


「君はスキルについて何か知っているんだな」


 メリネアは何も答えない。ただ困ったような表情を浮かべるばかりだ。


「スキルについて知っているという事は、メリケ国に勇者召喚の術式を教えた誰かについても何か知っているという事なんだな!」


 メリネアはダンマリを続ける。

 だが、やっぱり子供は強力なスキルを取得するという言葉から、勇者やメリケ国の人間が知らない情報を知っているのは確かだ。そしてそんな情報を知っている人間といえば、メリケ国に勇者召喚の術式をもたらした謎のローブの人物意外にありえない。

 そうだ、ただの召喚魔法なら国家規模で行ったりはしない。

 最初に勇者召喚を行った人物は召喚された異世界人がスキルを取得する事を知っていたのだ。

 そして子供が強力なスキルを覚えるというメリネアの言葉から、件のローブの人物は実験を行ったはずだ。複数の検体を召喚して、勇者として使えるかどうかを。

 ソレを確認したからこそ、ローブの人物はメリケ国に【勇者召喚】の術式だと売り込む事が出来た。

 スキルを覚えるから【勇者】なのではなく、スキルを取得する戦力を召喚できるから【勇者召喚】と名付けたのだ。

 それをメリネアが知っているという事は。


「勇者召喚の召喚術式をもたらしたのは、ドラゴンなんだな」


 それが俺の下した結論だった。

 メリネアがため息を吐く。

 それは自分の失言を呆れるように。


「私からは詳しく話す事は出来ないわ。そもそも私自身詳しく知っている訳じゃないし」


 イタズラがバレた子供のように目を逸らしながらも、メリネアは否定しなかった。


「本気で知りたいのなら、私じゃなくて、他に聞くべき方が居るでしょう?」


 ドラゴンの王の娘であるメリネアが話せないって事は、それはより上位の存在から口止めされているからだろう。 

 言うまでもない。そんな相手はただ一人だ。


「龍皇だな」


 メリネアは肯定しない。そして否定もしない。

 人間達の世界に勇者召喚なんて技術をもたらした理由は一体なんなのか。

 それを知るには、龍皇の住まう聖域、ドラゴンバレーに行くしかなさそうだ。


「あ、そうそう。忘れてるかもしれないけど、ドラゴンバレーは人間立ち入り禁止だから」


「…………あっ」


 そうでした。ドラゴンバレーはドラゴン以外侵入禁止じゃん。

 そんな所に入っていったら速攻抹殺されちゃいますよ!!!

 駄目じゃん!!

 まいったな。せっかく情報を手に入れるチャンスがめぐってきたと思ったのに。

 うーん、何かいい方法は……

 と、そこで俺のズボンを誰かが引っ張る。


「ケンカは駄目」


 娘だった。

 喧嘩? ああ、そういう事か。

 俺がメリネアに詰め寄ったから喧嘩してると思ったのか。


「ちがうよ。喧嘩なんかしていないよ」


 俺はしゃがみこんで娘と同じ視線に立ってから優しく話しかける。


「ホント?」


「本当だよ」


「……わかった」


 なんとか信用してもらえたみたいだ。

 けどそうだ、ドラゴンバレーに行こうとするなら、娘を連れて行くわけには行かない。

 そうなると娘を一人にしてしまう危険がでてきてしまう。

 それはいかん。

 俺達が被害を被った勇者召喚を何故人間に教えたのか問い質したい気持ちはあるが、だからと言って娘をほうっておく訳にもいかない。

 せめてこの子が一人立ちするまでは離れる訳には行かないか。

 仮にメリネアに子守を任せたとして、俺がドラゴンバレーでドラゴンに殺されたら龍皇と話をする事はできても、その後はドラゴンの姿で子守をしないといけなくなる。

 そうなった場合、メリネアのように人間の姿を取る事が出来るならともかく、出来なければやはりドラゴンの姿で子守をしないといけない。少なくとも俺が憑依したドラゴンは人化の仕方なんて知らなかった。


「メリネア、ドラゴンってのは皆人間の姿に変身できるのか?」


 しかしメリネアは首を横に振る。


「いいえ、人化を使えるドラゴンは少ないわ。ドラゴンにとってわざと弱くなる人化には何の意味もないもの。精々が私のような変わり者達が人間達の世界に遊びに行く為位よ」


「習得にはどれくらいかかる?」


「さぁ? 早ければ50年くらい。遅ければ1000年くらいかかるんじゃないの? 私は200年位で習得したけれど」


 こりゃ駄目だ。後で人化を習得するのは無理そうだな。

 仕方ない。龍皇に話を聞きに行くのはまたの機会にしよう。

 取り急ぎは……そうだな、勇者達を地球へ返す事から始めようか。

 勇者達が居なくなればこの世界で勇者を利用する考えもなくなっていくだろう。


 そして、龍皇との面会の機会は意外にも早く訪れる事になると俺はすぐに知る事になる。

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