第51話 魔法使いの先生
「私がこの冒険者ギルド、イドネンジア支部を預かるハイダニだ」
アルガに教えられた建物に着いた俺は、傭兵登録を申請すると何故か奥の部屋に案内された。
そして部屋にいた人物ハイダニが挨拶をしてきた。
ハイダニは30代の中年男性で、鍛え上げられた肉体には幾つモノ深い傷がついていた。
それだけ激戦を潜り抜けたのだろう。
「バーザックです。ここは傭兵登録をする為の建物なのでは?」
「冒険者ギルドはどんな仕事もする。傭兵の仕事もな」
ハイダニがにやりと笑う。
成程、通常傭兵と言うのは国が直接雇うものだ。
その方が中間マージンが安く済むしな。
だがイドネンジアは海に囲まれた島国、傭兵の数にも限度がある。
だから国家間の交渉の手間の無い冒険者ギルドに頼って傭兵を募集いたのか。
勝手に他国で傭兵依頼をする訳にもいかないだろうし、募集施設を他国の港町で借りるのも無駄な金がかかる。
恐らくイドネンジアは冒険者ギルドに依頼して傭兵募集を行い、更にイドネンジアが傭兵募集をしているという噂も流したのだろう。
俺のような冒険者ギルドに所属していないが金を求める人間がやって来るように。
「私は冒険者ギルドに所属すれば宜しいのですか?」
だがそれだとここに呼ばれた理由が分からない。
「おや、貴方に頼みたい依頼が在る」
「仕事の話ですか」
「そうだ。まぁ座りたまえ」
ハイダニに促されてソファーに座ると、職員がお茶を持ってやって来る。
「どうぞ、粗茶ですが」
「どうも」
ハイダニが頷いたので戴いたお茶を口にする。
なんというか麦茶に近い味わいだ。
「なかなか美味しいですね」
「この国の名産だ。他国に輸出もしている」
ハイダニも茶を口にして一息つく。
「それで依頼と言うのはだな。魔法使いの育成なんだ」
「魔法使いの?」
「そうだ、君は空から雷の魔法で海の中の魔物をしびれさせ、動けなくなった所で一網打尽に下と言うでは無いか。しかもたった一人で」
「まぁ、間違っては居ません」
漫画のネタをそのまんま使っただけだがな。
「我々の知る魔法使いと言うのはだな、魔法を弓の魔力版としてしか扱っていないようでな、君の話を聞いた魔法使い達が驚いていた」
そんな驚くほどでもないだろう。相手の属性を考えて魔法を使うのはバーザックの記憶でも普通にあったし。
「驚くような事でもない様な気がしますが」
「それなりに慣れた魔法使いならばな。だがそうでない魔法使いも多い。師が教えなかった者、そもそも気にしてもいなかった者と理由は様々だ。しかし君のやり方なら弱い魔法使いでもより戦術を広げられる。基礎的なもので良いので魔法使いの戦術を教えてやってほしいのだ」
聞く感じだと割りと楽な仕事に思える。
だが普通に考えてそこまで魔法使いがバカとは思えないんだが。
だって魔法をつかうんだぜ、才能もあるけど勉強が出来なければ魔法を覚える事はできない。
俺はその辺りの事を聞いてみた。
「う、うむ。まぁ普通に考えればな。だがコレまで起きた被害報告を見るに、教育の必要があるのだよ。例えば、味方を襲った魔物に火魔法を叩き込んで一緒に火傷させたり、敵を攻撃しようとして攻撃範囲の広い風の衝撃魔法を使ったら近くに居た味方を巻き込んだりと言った具合にな。魔法を学ぶ知恵はあっても実戦の空気に飲まれて清浄な判断を下せないのだろう。巻添えを食らった者達も命を救われた為に強くはいえなくてな」
成程、勉強の出来るバカってヤツか。
もしくは応用の利かないヤツ。
全く馬鹿馬鹿しい話だ。力と言うのは使いこなして初めて真価を発揮するというのに。
ただのバカなら構わないが、味方を巻き込むバカならちゃんと教育しないと俺の身も危ない。
仕方ない、ここは受けておくか。
「分かりました。お受けしましょう」
「おお、助かるよ!」
ハイダニは大げさに喜ぶと俺の手を握った。
「報酬は期待してくれたまえ。弟子の活躍次第ではイドネンジアから追加で褒賞が出るかもしれないぞ」
ハイダニの言葉に俺は引っ掛かりを覚えた。
「イドネンジアから? 魔法使いの教育でですか?」
それは傭兵達の問題だろう? イドネンジアは戦力が向上して喜びはするだろうが特別に褒賞をだす義理はないはずだ。金は全て冒険者ギルドに支払っているから俺達への報酬はギルド経由で支払われている。
となると考えられるのは……
「気付いたようだな。その通り、魔法使いと言うのはイドネンジア出身の魔法使いだ」
成程、イドネンジアの軍の所属している魔法使いを鍛えるのが真の目的か。
つまりイドネンジアは大陸式の魔法使いの戦術を求めている。
確かにコレなら報酬が高いはずだ。
「話もついたし、君の弟子を紹介しよう。入ってきたまえ」
どうやらこの依頼は受ける事を前提に進められていたみたいだ。
ハイダニの声にドアが開き、中に人が入って……何!?
「紹介しよう。こちらの子供達が君の鍛える弟子達だ」
「宜しくお願いします先生!」
「「「「よろしくお願いします」」」」
部屋に入ってきたのは、小さな子供達だった。
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