第6話 国家略奪

 大臣達の半分を冤罪で処刑した俺達は、戦の出来る王族を王位に付けた。

 付けたのだが……


「魔族と戦う為には強力な武器が必要だ! 兵士の装備の質を上げて敵との戦いを有利にするのだ!」


 新しい王の言葉はまぁ間違ってはいない。良い装備はそれだけ生存率を上げるからな。

 だが……


「陛下、騎士団全員の装備を新調するには資金が足りません。やるにしても厳選した部隊に少数配備から……」


「1つや2つ装備を替えても意味などなかろう! 師団単位で装備を揃えるのだ!!」


「ですから資金が……」


「金など国民に出させればよい!!」


 新王は戦いの素人だった。

 いわゆるあれだ。本を読んだだけで全てをマスターした気になっているにわか知識層というやつである。

 実戦経験が全く無いのだ。

 戦略などの知識は教育で教える事はできるが、あいにくとこの王はそれ以外を学んでいなかった。

 経済や帝王学といった金の流れや人を動かす方法をこの王は知らないかったのだ。

 当然大臣達は困った。戦時中にイキナリ増税されても金を出すのは困難だ。

 唯でさえ魔族との戦争で増税しているというのに、更に増税なんてしたら国民の支持が得られなくなる。

 専制君主制だから選挙の心配は無いが、代わりにクーデターにあう可能性は非常に高くなる。

 少なくとも、今の国の財政では騎士団の武装を新調する予算なんて出せない。

 王がなんと言おうともだ。


「一週間以内に予算を集め、国中の優秀な鍛冶師に最優先で作らせろ! これは国家を護る為の戦ぞ!!」


 あー、これは駄目ですね。きっと装備を整えたらコレで勝つる! 全軍突撃ジャー! とか言い出しかねない。


 ◆


「いや困った」


 新国王は言いたい事だけ言って会議室を出て行った。

 後に残された大臣達は頭を抱えている。


「騎士団の装備をすべて新調など無理だ! そんな事をすれば民が餓死するぞ」


 彼等の判断は正しい。

 王の頭の中には、民の生活が入っていなかった。


「コレは暴動か謀反が起きるかもしれませんな」


 俺が気楽に言うと、大臣達が怒り出す。


「気楽に言ってくれるな! もしそんな事になったら貴公も唯では済まんのだぞ!!!」


 まぁ確かに。


「では民か王を殺すしかありませんな」


「なっ!!」


 大臣達が動揺の声を上げる。


「き、貴公……王位を簒奪するつもりか!?」


 ああ、ソレも面白いな。


「このままでは国が滅びます。戦いは戦う者が、国の運営は運営する者やるべきでしょう。どちらも出来ない者は不要だとは思いませんか?」


 大臣達が顔を青くする。

 だがその口角は醜く歪んでいた。


「魔族は待ってくれません。ご決断を」


「……今の王では国が滅ぶ」


「我々は家臣として国を護る義務がある」


「仕方ありません、仕方ありませんな」


 大臣達が言い訳がましく理由を口にしていく。


 そして、新国王は即位1日で不慮の死を遂げた。


 ◆


「諸君、私が新国王エイラン=リイト=アリアン=メリケである」


 新国王として即位した俺は、王女との結婚式と即位式を同時に行った。

 国民は突然の国王交代が2度も続いて困惑している様子が見て取れる。


「諸君が驚くのも無理は無い。前々国王が魔族の策略によって命を落とし、そして前国王までもが魔族のてにかかった。諸君等も不安であろう! だが私は違う!! このエイナル=リイト=アリアン=メリケは、コレまで幾多の魔族を屠ってきた! 魔族がどれだけ卑劣な策略を行おうとも私を殺す事など出来ないのだ!!」


 俺の宣言に呼応して、市民に紛れたサクラが俺を褒め称える。


「確かに、騎士団長だったエイナル様なら魔族なんて怖くないだろうさ」


「ああ、戦下手の王よりも騎士団長だったエイナル様が王になった方がよっぽと上手く魔族と戦えるぜ!」


 サクラ達の希望的観測に満ちた言葉を受け、市民達も俺が王になれば魔族に勝てると思い込んでいく。

 そんな訳ないっつーの。


「エイナル王ばんざーい!!」


「新国王ばんざーい!」


「「「「バンザーイ!!!!」」」」


 ◆


 あっという間に俺は頂点にまで上り詰めた。

 自分を殺した王達を殺し返し、騎士団長の権力を使って邪魔な大臣達を殺した。

 そして今では王だ。

 自然と笑いがこみ上げてくる。


「随分と嬉しそうですね、エイナル様」


 俺の傍に寄り添っていた女が問いかけてくる。

 女はエイナルの婚約者イルミナではなかった。

 彼女の名はアミアルナ=テルマ=ケル=メリケ第一王女。

 つまり先々代国王の長女だ。

 俺は自身が王になる為の手段として王女を妻にした。

 単純に俺が王になればただの簒奪者だが、王女と結婚すれば王の義理の息子になるので簒奪者ではなくなる。

 ものすごい屁理屈だが、実はこの方法で王位を奪うのは良くあることなのだ。少なくともこの世界では。

 子供が生まれれば、その子が次の国王なので、王の血が混ざっていれば王家の血は守られる。 

 奪う者と奪われる者の間の無言の妥協点なのだ。

 そして、そうする事で自分と子供への暗殺の確率が減るのも事実なのだ。

 子供がうばれれば父である簒奪者は次期国王の保護者となる。お互いに次の王にしたいモノが一致するからだ。

 そしてこの方法にはもう1つのメリットがあった。


「ああ、まさか私がエイナル様の妻になれるなんて」


 アミアルナがうっとりとした表情で俺に抱きついてくる。

 そう、アミアルナはエイナルに恋をしていたのだ。

 コレまでは婚約者であるイルミナが居た上に、アミアルナにも婚約者が居た。

 だが俺が王位を簒奪し、アミアルナに結婚を迫った事で、彼女はチャンスを手に入れた。

 愛する男を自分のモノに出来るチャンスを。

 もっとも、中身は俺であるが。

 しかしソレを知らないアミアルナは大喜びで俺の申し出を受け入れた。

 本人が喜んで居るのだから、周りもアミアルナを無理やり妻にしたなどといえなくなってしまったのだ。

 全く、エイナルは罪な男である。


「アミアルナ、今日から私達は夫婦だ。王と王妃、私達が初めて行うお勤めは何か分かっているね?」


 俺の持って回った言い回しにアミアルナが頬を染める。


「跡継ぎ……ですね……」


「そうだ。沢山子供を作らねばな」


「……はい!」


 灯りを消し、俺とアミアルナはベッドへと潜るのだった。

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