第7話 調子に乗ってたら刺された

 国王になった俺は、王として魔族と戦う事にした。

 正直俺を殺したクソ国家なんてどうでも良かったが、せっかく国王にまで上り詰めたのだから好き勝手してみようと思ったのだ。

 そう、好き勝手。

 

 ◆


「ではコレにて議題を終了する」


 俺は大臣達との会議を終え、後宮へと戻る。

 王になった俺には世継ぎを沢山作る義務があるのだ。

 幸い、大臣や貴族達が是非にと自分達の娘、そして孫を妻にと差し出してきた。

 お陰で俺は数十人もの妻を持つ大ハーレムを作り上げる事になる。

 正直笑いが止まらない。


「エイナル様…………」


 か細い声が俺を呼び止める。

 一体誰かと思い振り向けば、そこに居たのはエイナルの元婚約者イルミナであった。


「イルミナか。一体なんの様だ?」


「あ、あの……カーティアの花が綺麗です。一緒に、見に行きませんか?」


 勇気を振り絞ってイルミナが俺を誘ってくる。

 だが、俺にはその誘いに乗るメリットが無かった。


「スマンが、これから世継ぎを作る為に妻達の下へ行かねばならん。花は一人で見てくれ」


「っ!?」


 イルミナが泣きそうな顔をするが、俺はソレを無視して後宮へと向かった。

 確かにイルミナは美人だし、エイナルに従順な良い女だった。

 エイナルにとっては。

 だがあの女の性根は貴族。そして勇者を自分達のために戦う下僕としてしか見ていなかった。

 どれだけ美しかろうともあの女も俺達異世界人の敵でしかない。

 王女と結婚して、妻が増えよりどりみどりになった俺にとって、イルミナに固執する意味などないのだ。

 何より、王女が嫌がる。

 王女にとってイルミナは自分から俺を奪った嫌な女だ。

 俺が王女から愛される為、そして王としてやっていくのにイルミナは邪魔だ。

 だから切り捨てた。


「さよならだイルミナ」


 ◆


「ああ、陛下ぁ」


「エイナル様ぁ」


「ぜひ私に世継ぎを」


「いえ、私にぃ」


 多くの美女達が俺に群がってくる。

 王位を簒奪した俺に。

 エイナルの皮を被った異世界人である俺に!

 笑いが堪えきれない。

 使い捨てる消耗品と思っていた相手に媚びへつらう姿がたまらなくおかしい。

 俺はそれを悟られないためにも妻達を抱き続ける。

 この国を改造する為の可愛い子供達を仕込む為に。


 ◆


「……と言う訳なのだ。君達が大人になり、国の運営を行う立場になった時には皆勇者達に敬意を持って接してくれたまえ」


「「「はい、エイナル陛下!!」」」


 子供達が俺の言葉に元気よく返事をする。


「良い子達だ。じゃあ次は勇者と共に戦った時の事を話してあげよう」


「「「わーい」」」


 俺は城内にいる貴族の子供達の意識改革を行っていた。

 大人の貴族達は魔族の策略にかかり、で共に戦い尊敬しあう存在である筈の勇者を使い捨ての消耗品であると信じ込まされている。彼等は自分達は偉い貴族だから、異世界から来た勇者を使い捨てても良いと信じてしまっている。だが勇者は王祖が神から賜った秘術で召喚する神の使い。神の使いを使い捨ての駒にするなんて神を冒涜する行為だと教えた。

 コレがどうでも良い人間の言葉なら子供達も詰まんないお説教と無視する事だろう。

 だが俺は元騎士団長エイナル。

 子供達にとって魔族と戦う英雄なのだ。

 更に子供達は秘密という言葉が好きだ。

 自分達だけが持つ大人の世界。

 そう考えれば、ヒーロー番組のヒーローが正体をばらさない様に普段過ごすのも、そうした秘密のカッコよさがあるからなのかも知れない。

 大人達は騙されて、それが本当だと言っても信じてくれない。

 だから君達が大人になるまでこの話はナイショだ。そして大人になったら大々的に勇者達を護る為に国を改革して欲しいと子供達にお願いした。

 その秘密と使命に子供達は大興奮。

 全員が俺の言葉を受け入れてくれたのだ。

 欲にボケた今の貴族共では無理だが、子供達の代になれば俺の教育が生きてくる。

 俺は子供達を通してこの国を親勇者派の国に変えるのだ。


 ◆


 そして遂に魔族が攻めてきた。

 魔族はメリケ国の国境を越え、まっすぐ王都に向かっているとの事だ。

 電話や無線の無い世界だが、魔法による通信で直ぐに知る事が出来た。


「このままですと、明日の昼には王都にたどり着きますな」


 騎士団長が敵の進軍速度から、王都への到着時間を割り出す。

 彼は俺が王になった事で繰上げで王になった副団長だ。


「王都を危険に晒すわけにはいかん。ヒルオ平原で迎え撃つ」


「はっ!!」


 国境から王都の役半分の位置にあるヒルオ平原で俺達は戦う事にした。

 メリケ国の騎士団は騎馬が主力なので、森などの障害物が多い場所では不利になるのだ。


「よし、それでは出陣する!!!」


「はっ!!」


 ◆


 王となった俺だが、王位を簒奪した者として玉座でのんびり座っているわけにもいかない。

 戦場で活躍して、誰の目からも俺が王になったのは正しかったと納得させる必要があるのだ。

 幸い今の俺は元騎士団長エイナルの身体に取り憑いている。

 戦場では負けなしの正真正銘エースの肉体だ。

 敵がコレまで通りの魔族なら負ける要素が無かった。

 つまり勝ち戦だ。


 ◆


「お見事な采配でした、陛下!」


 騎士団長が俺を褒め称える。


「いつも通りに戦っただけだ。お前の指揮も中々なのモノだったぞ。やはりお前を団長に任命して正解だったな」


「恐縮であります!!」


 結果は圧勝だった。今回の魔族の侵攻はコレまでの戦いから学んだ通常の対策しかしていなかったからだ。

 まずはいつも通り、騎馬に対抗する為に魔法で遠距離からの攻撃をしてくる。

 何時もと違ったのは騎馬の槍を耐えられる重装甲の魔物を多く前面に出してきた事だ。

 敵は数が少ない上に気性が荒い鉄甲犀を最前列に出して、こちらの弓を無効化しながら攻め込んできた。

 一頭二頭なら回避も可能だが、横一列に並んで向かってくる鉄甲犀の集団は正に脅威であった。

 間違いなく敵は本気で潰しにかかってきている。

 しかしそれが通用するのは何時もの戦闘の話である。

 鉄甲犀達は、例外なく俺の張った罠に嵌まった。

 俺の用意した落とし穴に。

 罠は非常に単純、俺達と魔族の間にあらかじめ横に長く落とし穴を掘らせておいたのだ。

 それも深いヤツではなく、膝まで入る程度の浅いヤツだ。

 だがそれで充分だった。

 本来は馬を落として骨折させるつもりで用意した罠だったが、鉄甲犀も例外なく罠に嵌まってくれた。

 しかも鉄甲犀は気性が荒い。

 罠に嵌まった事で興奮し、落とし穴に落ちた事で振り落とされた仲間の魔族達に襲い掛かったのだ。

 単純に近くに居たからという理由で。

 罠の成功を見た俺達は最前線を無視して、中列、後列の魔族に攻撃を仕掛けた。

 魔法や弓が降り注ぐ。

 前に進みたくとも鉄甲犀が暴れていて進軍は不可能。

 後ろに下がりたくとも後列が居て渋滞を引き起こす。

 結果、最後列が逃げ出すまでに中列の魔族達は被害を出し続けた。

 戦場に残ったのは、仲間を殺してなお興奮する鉄甲犀だけ。

 俺達は残った鉄甲犀を魔法で焼き殺して戦いを終わらせた。


 ◆


「いやー、今日は疲れた」


 この世界にやって来て初めての集団戦だ。

 エイナルの経験が逢ったとはいえ、俺としては初めてなのだから緊張していたのだ。


「この疲れは妻達に癒してもらわんとな」


 俺は後宮で待っている妻達の事を考え笑みを浮かべる。

 さーて、今日は誰と楽しむかな。

 そう考えていた時だった。


「…………っ!?」


 突然わき腹に熱い感覚が生じた。


「な……!?」


 視線を向ければ、俺のわき腹には一本のナイフと二本の手。

 ナイフは俺のわき腹に深々と突き刺さっている。

 そして二本の手を伝っていくと、そこにはエイナルの元婚約者イルミナが居た。


「エイナル様。愛しています」


 壊れた笑顔で微笑むイルミナ。


「イル……」


 ナイフが引き抜かれる。

 血が出る。

 再びナイフが突き刺される。


「愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています。だから一緒に死んでください」


 俺はイルミナによって殺された。

 二〇股は良くないね。反省。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る