第118話 悪霊退散!

『私は無実だぁぁぁぁぁ!!!』


「マインドブレイク!!」


 物陰から飛び掛ってきた悪霊を精神攻撃魔法で迎撃する。


『ギャァァァァァ!!!』


 かつては優秀だった魔法使いも、悪霊になった所為で正常な思考力が無くなっていた。

 その為、生前ならば抵抗できたであろう魔法に対する抵抗力を殆ど失っており、俺の精神攻撃魔法の一撃を受けて存在をあっさりと破壊された。

 存在を破壊された悪霊の魂がどうなるのか、そもそもこの世界に天国や地獄があるのかは分からない。

 そもそも今倒した悪霊も、厳密には死んだ人間の魂って訳では無いみたいだ。

 先日バーザック達の知識から読み取ったように、淀んだ魔力と強い無念が形を持ったオートリピートされる映像って話しだし、本当の魂はどこに行ったんだろうな。


 俺は襲いくる悪霊を倒しながら建物の中をしらみつぶしに探す。

 といっても、頻繁に悪霊が襲ってくるので、部屋の中の悪霊を退治したら対霊体結界を張って捜索している。そうやって捜索していると、結界の外にうろうろと悪霊が待ち構えており、その光景は昔プレイしたターン型ダンジョンゲームを思い出させた。

 机の引き出しを開け、ひっくり返したり机の中を覗き込み、壁にかけられた絵画を外してその裏を確認し、ソファーを解体して中に何かかくしていないか調べる。

 それでもない場合は壁や床に隠し倉庫や隠し部屋が無いかを調べる為に龍魔法で無理やり剥がして解体していく。

 すると出るわ出るわ。

 不正の証拠に二重帳簿、賄賂に禁制品、盗品、犯罪目的以外の何に使うんだという薬やマジックアイテムの数々。

 いやー、大量大量。ある程度集まったら転移魔法で俺の洞窟の奥に隠された本当の美術館の方に仕舞わせて貰いました。

 なんか日記とかを発見した時には、結界の外から見ていた悪霊が本気で結界に体当たりしてるの見て笑っちゃったよ。

 あの悪霊達の中にも、死ぬ前にパソコンのDドライブを削除したい的な無念があったのだろうか?

 安心してくれ、ちゃんと勇者召喚に関係しないか、中身を確認させてもらったから。


 ◆


 そんな事を繰り返していた俺だったが、1つ気がかりな事があった。

 それはとてもシンプルな疑問だ。

 なんか悪霊の数多くね?

 殺されたのは魔法使いとその家族だ。

 だと言うのに、えらい沢山の悪霊が屋敷のそこかしこに出現した。

 それも明らかにこの世界の人間が着る物ではない衣装を着た悪霊もだ。


 つまり日本人の悪霊。


 勇者召喚を繰り返し、戦いに向かない勇者を殺し続けた事で、この国の王都は淀んだ魔力に満たされそこらじゅうで悪霊が発生する土壌が出来てしまった。

 そしてソレが原因で悪霊が発生する場所では、他の場所で死んだ悪霊が流れ込むような霊的通路が出来上がってしまったのでは無いだろうか?


 うん、コレ不味いぞ。

 この状況を後押しする何かが起きれば、誰かが無念で死んだ場所だけでなく王都全域で悪霊が大量発生する状況になりかねない。

 それこそ一般家庭に悪霊が現れて一家惨殺事件、その事件の所為でその一家も悪霊になって悪霊の鼠算が発生するぞ。


 はははは、しゃれにならねーわ。

 けどまぁ、それはないか。

 勇者召喚の儀式は俺が潰したわけだし、術式そのものの情報も無くなった今となっては、勇者は二度と召喚されない。 

 これ以上勇者が死んで、悪霊の無限発生なんて事態になる事は無い。

 そう考えると、勇者召喚を阻止したのは我ながらナイス判断といえる。

 今発生している悪霊は、現在大忙しで悪霊退治をしているらしい王都の魔法使い達に頑張って貰うとしよう。

 俺は魔法使い達の家々をめぐって勇者召喚についての資料が残されていないかを調べるのに専念だ。


 ◆


 と言う訳で、魔法使い達の家をあらかた捜索したわけだが……

 結論から言えばハズレだった。

 魔法使い達の不正や技術流出の証拠、それに隠し財産はわんさか出たが、肝心の勇者召喚の方法については全く情報が出なかった。

 これはもうこの国には勇者召喚の情報は無いのかな?

 となると、やはり勇者召喚の方法をもたらした謎のローブの人物を探すしかないか。

 けど情報が無いんだよな。

 魔法使い達の家を漁ったけれど、ローブの人物に関しては殆ど情報が無かった。

 日記にちょこっと書かれていた事もあったが、大半はローブを来た者が珍しい魔法を持ってきたというくらいだ。

 完全にそれ以外の情報が無い。

 ココまで情報が無いとお手上げだ。

 転移術式の研究に戻ろうにも、地球の座標が分からなけりゃ完全に行き当たりばったりの次元転移になってしまう。

 それじゃあ何億年かかっても地球には変えれないだろう。

 だって異世界がどれだけの数在るかなんて分かる訳が無いんだから。


 うーん、一旦この件は置いておくかな?

 元々、本当の身体を失った俺は地球に戻るメリットが少ない。

 ソレを考えると無理に頑張って地球へ戻る方法を探す必要は無いんだよなー。

 魔族の問題ももう解決したし、彼等も衰退したエルフとドワーフを退けて【源泉】と【井戸】が既に破壊されていると知れば自分達の世界に帰るだろう。

 コレまでの戦争で国家間、種族間のバランスが多少崩れてはいるが、時間をかければ修復できるレベルだろう。魔族との戦争で、これまで行ってきた国家間の戦争も暫くは行えない。

 そう考えれば今は結構平和な時代になったのでは無いだろうか?

 うん、ローブの人物については時間をかけてゆっくり探す事にしよう。

 地球への帰還は一旦凍結。

 情報が入ったらそのつど再開する事に決定。

 そうと決まれば今日は飯食ってノンビリするかぁ。


 ◆


 魔法使い達の家をあさって懐が暖かくなった俺は、かつて騎士に憑依した頃に通っていた酒場兼食堂へと来ていた。


「オススメを頼む」


「はいよ!」


 近くを歩いていた店員にオススメを頼んで酒を飲む。

 夜遅い為に客の数は少なめだ。

 飲みすぎた騎士と思しき男達が騒いでいる。


「いやぁ、魔族も居なくなったし、最前線に行ってた連中も帰ってきて良かったよなぁー!」


「ああ、なんでかはわかんねぇけど魔族は全然姿を見せなくなった」


「コレで暫くは平和になんのかねぇー?」


「いやいや、どうせ今までどおり隣国との戦争に逆戻りだろう」


 楽観的な言葉を口にした騎士を、酔いすぎていない方の騎士が否定する。


「あー、そっかー、戦争してたんだっけなー」


 ベロンベロンに酔っ払った騎士が、かつて近隣国と戦争をしていた事にダルそうな声を上げる。


「王宮じゃ、再び勇者召喚を行って隣国を攻める為の戦力を集めようとしているらしいぞ」


 ……何?


「あれ? 勇者召喚の儀式って魔族の策で無くしたって言ってなかったっけー?」


「ソレがさ、ケンガロック子爵が囲っていた魔法使いが遺していたらしいんだよ。勇者召喚の儀式をよ」


 なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 マジかよ!


「はいよ、バルバイソンの香草ステーキお待ちどうさま」


 従業員が料理を置いていくが、俺はそれどころではなかった。

 まさか貴族が隠匿していたとは。

 どうりで魔法使いの家を漁っても出てこない訳だ。


「もう新しい勇者の召喚準備が出来ているらしい。後は召喚できるだけの実力を持った魔法使いを集めるだけだそうだ」


 ……ほほう。

 なるほどね。魔法使いを集めているのか。

 それは良い事を聞いた。

 ちっくらそれを利用させてもらおうかな。

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