第83話 勝ちルート案内を開始します
これを『嬉しいことに』と表現すべきなのかは、正直なところよくわからないのだが。
とりあえず、事実を述べるとするのならば……我らが『特務開発課』と、そしてなにより私の知名度は、思った以上に上がっているようだった。
――――
(んぇ……ふへぇ……)
今日も今日とて座学に実習にと学生生活を満喫していた、機甲課の首席優等生である私ことファオ・フィアテーア特課少尉。
講義棟の中で、あるいは教習用機材が収められた格納庫棟にて、私史上最多となるひとからお声を掛けられ続ける今日この頃である。
……もちろん、我らが機甲課以外の多くのひとたちに、だ。
「あ……あのっ、フィアテーア特課少尉殿! 技術部の部内報で見ました! 応援してます!」
「ぽぇっ? ……あっ、あっ! ありがと、ござましゅ!」
「フィアテーア特課少尉! また公開模擬戦見せてください!」
「えっ? あっ、えっと……機会、あれば」
「ファオちゃーん! こっち向いてー!」
「んう……? ……え、と……こんに、ちは?」
「特課少尉殿! ぜひウチの課の首席と手合わせを……!」
「あっ、えっと、あの、私は大丈夫なの、で……機会が、あれば?」
私の在籍しているカーヘウ・クーコ士官学校では、機甲鎧を扱う本科の実技教習の場合、ここ『格納庫棟』に直接集合のことが多い。……のだが、今日のように他課と日程が被ることも珍しくない。
というよりもむしろ、機甲課の実習の準備を輜重課の実習にしてしまったり、他課の実習を上空から観測することを実習にしてしまったり……そんなことを積極的に実行してしまうような学校である。賢いと言っていいのだろうか。
そんなわけなのでこの格納庫棟、われわれ機甲課のみに留まらず、様々な課の人々が出入りしている建物であるからして。
ここ最近のアレコレで、非常に多くのひとに知られることになった私ことフィアテーア特課少尉は……まあ、このようなお声掛けを多く頂いているのだ。
「全く……一般生だけでなく、教官らもか。大した人気っぷりだな、フィアテーア特課少尉」
「それだけファオさんが、多くの人に好かれてるってことです。……よかったですね、ファオさん」
「んー……? よく、わからない、けど……ジーナさん、よかった、なら、私は嬉しい、ですっ。えへへっ」
「はふぅ。…………今日も可愛いですねぇ、ファオちゃん。そう思いません? イーダミフさん」
「…………まぁ、否定はせんがな」
「えっ? イーダくん、いたの?」
「ぐゥ、ッ! …………あぁ、居るとも。貴官と同じく、機甲課の訓練上がりだから……な」
「あぁー、そっか」
つい先程まで訓練用の【ベルニクラ】で
借りていた機材を返却し(※これを今度は整備課が実習に活用するらしい)私達も着替えを終え、現在は帰り支度を整えて談話スペースでひと休みしているところだ。
本日は私達が学校で訓練の間、シスとアウラのふたりは病院で定期検診があるとのことなので、この時間は珍しく別行動である。
同居人であるジーナちゃんと一緒に妹分ふたりを待っていたところ、先のように多くのひとに話しかけられていた……というわけだ。あとなんか気がついたらイーダくんもいた。
最初の頃は私にべったりだったシスとアウラも、最近は交友範囲を少しずつ広めていっている。
病院のひとたちからの問診には、あの子たちだけでもきちんと応対できているし、特務開発課の大人たちにも良くしてもらっている。
たまに技術主任から「ココは託児所じゃないんですが……」などとお小言を頂いたりもしているが、なんだかんだであの娘らと遊んでくれてるし面倒も見てくれるので、とても助かっている。
連れてきた当初こそ、私が四六時中行動を監視している必要があったが……こうして観察期間も無事に終了し、正式な亡命が認められたふたりは、れっきとした『個人』であり、今やそれぞれが『連邦国民』である。
いつも一緒で仲良しなふたりだが、べつに双子というわけじゃない。それに最近はシスがお姉ちゃんっぽい言動を見せるようになってきたりと、個性というか『人間らしさ』を順調に取り戻してきているように見受けられるのだ。
私の妹分であるあのふたりが、たびたび私から離れての行動ができるようになり、そしていい子なふたりは可愛らしい個性を発揮しつつある。うんうん、実にすばらしい変化だ。
このあたりで……それぞれに『趣味』を見つけさせたり、熱中できることを探すのも、良いのかもしれない。
(というかまあ……実は
――――ほえー? ビームサーベルとかの話って、あれファオの趣味でしょ?
(まあそれもそうなんですけど……ほら、あれ。私がやりたいこと。いつも言ってるじゃ……いや『言って』は無いか。口に出してはないよな)
――――なるほどファオの変態。
(私は変態じゃない! なぜなら……なぜなら! 実績がひとっつも無いから!!)
――――まあ確かに。
(どやぁ)
お金のほうは、正直いって問題ない。軍からのお給金に特別手当にと、今の私は(同年代に比べて)結構なお金もちである。
つまりは、多少ハイクラスのホテルだったとしても、今の私であればお金のチカラで捻じ伏せることが可能なのであり……つまりは、念願の『ソロライブ作戦』はすぐそこに迫っているのだ。
ただ……私が外泊するということは、当たり前だがその日はお家に帰らないというわけで、つまりは妹分ふたりを家で寂しく待たせることになってしまうのだ。
それはちょっと心が傷んだので、これまでなかなか踏ん切りがつかず、決行に移すことは無かったのだが。
あの子らの心の支えになるのが私だけ
なんだかわからないが、いい風が吹いてきている。そんな気がするのだ。
「……それで、特課少尉殿。ちなみに今日この後なのだが……『特務開発課』のほうには、顔を出すのか?」
「んえ? …………んん……とくに考え、ない。どうして?」
「いや、その…………私ごときが口を出すことでは無いのかもしれんが、少々『働き過ぎ』なのでは無かろうか?」
「ふ、ふぇ?」
「……確かに、そうかもしれません」
「ほぇ!?」
私達が『特務開発課』にお邪魔してアレコレたのしく
たまに軍部からの命令(など)で堂々とサボることもあるが、基本的には学校終わりのことが多い。
このカーヘウ・クーコ士官学校は、軍関連の組織ではあるのだが、そこまでストイックというわけでもない。放課後なんかはゆっくりのんびりしている者も多いし、中には『必要物の調達』と申請して街に遊びに行くつわものも居たりするし、思い思いの部活動に打ち込む者も居る。
私達の場合はというと、これらのうちの『部活動』に当たるのではないかと常々思っているのだが……イーダくんやジーナちゃんから見た印象は、少々異なっていたようだ。
「確かにファオさんは、目覚ましい成果を上げています。そのことを喜ばしく感じている関係者は、それはもちろん多いのですが…………同じくらい……いえ、恐らくそれ以上に『ちゃんと休んでほしい』と感じている人は、多いと思います」
「えっ!?」
「私も同意見だ。……無論、貴官が『やりたいこと』であるがゆえに精力的に活動している、というのも理解している。……理解している、のだが……」
「な、なあに? ……もう、ちゃんと、ゆって」
「…………失礼ながら申し上げるが、フィアテーア特課少尉殿。貴官は確かに、大人顔負けの成果を挙げているが……その、まだ幼子……ああいや、未成年であることに、変わりは無いのだ」
「そ、そうですよファオさん! 異文化圏との接触と交流の確立、新型機の開発に量産、新装備の研究開発、それらの実証試験、しかも軍部のお仕事をこなしながら! ……大の大人だって、こんなにお仕事抱え込んだら疲れるに決まってます!」
「そ、そう……?」
「そうなのだ!!」「そうなんです!!」
「ふぇっ」
ふたり
そのため傍から見ると『死にものぐるいで立て続けに上げた成果の数々』として映っているのだといい、そこに私の『
(なにそれこわい)
――――がんばりやさんだもんねぇ。
いや、しかし……帝国(の実験体)出身ということを伏せたばっかりに、逆に『故郷を戦火で焼かれた孤児姉妹』属性が生えてこようとは……このファオの目をもってしても読めなかった。
なるほど確かに、ここの部分だけ聞いてみると不憫さが半端ない。実際の私はこんなにぽやぽやで日々をエンジョイしているだけに違和感が半端ないが、しかし『外から見た事実』はこんなにも不憫が半端ないのだ。なんだこれわ。
もちろん、実際のところはあちこち異なる。確かに私
……のだが、実際私達の『見た目属性』と『動き』を第三者視点で見ていれば、確かにそういう印象を抱くのかもしれない。
いや、実際『そう』見られているのだろう。だからこそイーダくんは外部からの視線に無頓着な私にわざわざ教えてくれたのだし、ジーナちゃんも一般的な認識を教えてくれたのだ。
しかし、だからといって……ビームサーベル完成間近の、シャウヤとの交易が始まる直前のこんなタイミングで、そんな『活動しちゃだめ』とか、そんなのはさすがに受け入れるわけには……。
「別に『活動するな』というわけでは無いだろう。……要は貴官が『働き詰めではない』、つまりは『休日を謳歌している』ところを対外的に主張できれば……まぁ、一応は問題あるまい」
「ですね。最近ファオちゃん、週末のお休みも開発課に通い詰めでしたし……そのあたりも見られてて、こういう印象になってしまってるんじゃないでしょうか?」
「つ、つまり……休日、ちゃんと、やすんで…………ほ、ホテル、とか?」
「ホテル? …………宿が何を……あぁ、外泊ということか。良いのではないか? 良い羽休めになるだろう」
「そうですね。アウラちゃんとシスちゃんのことは、私たちに任せて下さい。あのふたりもいい子ですので、話せば理解してくれると思いますし」
「おおおお…………!」
(うおおーー!! ひとりえーっち! ひとりえーっち!)
――――ば、ばかな……こんなことが……。
(やっぱね、私のことをえっちの神様は見ていてくれてるんですよ。がんばってる私へのご褒美にえっちのチャンスをくれたんですよ)
――――ほんとにご褒美なら直接えっちをくれてもよくない?
(たしかにそうだな。なんだえっち神様ってば『けち』だな)
――――うーわ、ひどい言いよう。
……まあ、少しばかり気が利かないえっちの神様ではあるけれど……とはいえ実際こうして、私にひとりえっちのチャンスをくれたことは確かなのだ。
私達が今やっておくべきことは片付けてあるし、現在はシャウヤのフィーデスさんからの連絡待ちであるからして、今週末はのんびり休んでいても問題ない。
せっかくならば、おうちとはひと味違う上質なホテルステイを堪能する。ご家族のかたの同意も得ているので、何もやましいことはない。見た目未成年の私だけど軍部の正式な身分証もあるので、ソロ宿泊しても問題ない。
そして……まあ、その、なんだ。
ひとりっきりの個室で、ひとりだけで一夜を明かすことができるというのなら……ムフフ、いや、その……ねっ?
――――えっちなことするんですか。
(ウフフ)
――――えっちなことするんですね。
「……では、フィアテーア特課少尉殿。今週末くらいは、ゆっくり休んで頂きたい。特務開発課の面々には、及ばずながら私から提言しておこう。……ゼファー嬢、妹御らのほうは頼めるだろうか」
「はいっ。アウラちゃんたちには、私もお願いしておきます。……ふふっ。子守というほど大それたことじゃないですけど、ふたりのことは任せて下さい」
「ぁ……ありがと、ござ、ますっ!!」
今週末の予定が立ったあたりで、ちょうどシスとアウラも戻ってきたらしい。やさしいお姉様と一緒に、とても可愛らしい美少女ユニットのご到着である。
迎えに行ってくれていたエルマお姉さんの両手をそれぞれ『ぎゅっ』と握り……まだほんの微かな変化ではあるが、まんざらでもなさそうな笑みをたたえている。
そう遠くないうちに、連邦国軍輸送部隊仕様の【リヨサガーラ】をお預けする予定のエルマお姉さまだけど、ベース機のテストを務めたアウラにエルマお姉さまがあれこれ訪ねたことで、一気に距離が縮まったみたいで。
もとより面倒見の良いエルマお姉さまと、甘えたがり盛りのふたりの仲が深まるのは、当然早かったわけで。
はー、いろんな意味で包容力半端ないお姉さまと、ちっちゃくて物静かで控えめで可愛らしい甘えん坊……何も起きないはずがないんだよな、正直たまらんでしょ。
――――えっちなこと考えてますか。
(いやいやそんなまさか)
――――えっちなこと考えてるでしょ。
(ごめんなさいゆるして)
そんな思考をおくびにも出さず、私は両の手でシスとアウラをなでなでする。
かわいい二人の様子を眺めて、エルマお姉さまもジーナちゃんもほんわか笑顔だ。イーダくんも心なしかほんわかしている気もするし、ほんわかな空気が確実に広まっているのを感じる。
……うん。やっぱりこの国のひとたちなら『大丈夫』だろう。
シスも、アウラも、そしてもちろん私達も、この国ならば『やりたいこと』を見つけられることだろう。
――――――――――――――――――――
――――ちなみに『やりたいこと』って、えっちなのだけじゃないよね?
(もっ、ももっ、ももっもちろんですし?)
――――シスとアウラに『やりたいこと』見つけてあげようって、ファオのそれが『えっちなこと』だったら、みんなにケーベツされるよ?
(は、はい! わかっております!!)
――――ふぅん? ならいいけど。
(えへっ、えへへ…………で、でもとりあえずは週末のやつ……ねっ?)
――――まぁ……他のもがんばるなら、いいんじゃない?
(ヤッター!)
――――――――――――――――――――
※でもこのお話はタイトルがすべてなんですよね(無慈悲)
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