第76話 株式会社わくわく交易カンパニー




「えっと、えーっと……ん゛んっ。……それでは、えっと、弊社を志した志望理由、を……えっと、教えてくだ、さいっ」


「ヘイシャ? ……あー、えっと……志望理由っていうか、むしろ『ファオちゃんに誘われたから』っていうか……?」


「…………うん、はい。そうでしゅ」


「あははっ。……いや、すごいねファオちゃん。なんか『重役』っぽい……っていうか、まあ実際すごいんだけどね」


「えへっ、えへへっ。でしょっ? でしょっ? かっこいい?」


「うーん…………どっちかっていうと、やっぱ『かわいい』かな?」


「えっ? あっ……それは、それで」




 ……はい、採用。入社式(※そんなものは無い)の日取りは追ってご連絡します。



 このたび新設される都市間特殊輸送部隊、暫定呼称『交易連隊』に関して、稼働開始までに必要なものはまぁ色々とあるのだが……現在もっとも重要なのは、ずばり『特務輸送機材の搭乗者』である。

 そんなわけで、私はカンダイナー部門長どのの支援のもと、特務輸送機材を預けるに足る人員の選定に臨んでいるのだが……まあぶっちゃけ、士官学校の輜重課から募ればいいよねってなった。


 まあ尤も、これはカンダイナー部門長どのの入れ知恵……もとい提言だったりするわけで、私はそれに乗っかった形だ。

 そもそも私は、当初このお話を聞いたとき「学業と交易の両立とかできるの?」と不安だったのだが……所属課に類する活動であれば、本科の課外活動扱いで出席判定を出してくれるし、成果に応じてきちんと評価もしてくれるとのこと。

 少し前に『特空課』の面々を巻き込んで強行往復行軍に参画し(たすえに帝国軍の侵攻に巻き込まれ)たときも、きちんと出席扱いだったらしいし、バッチリ高評価だったらしい。よかったね。



 そんな経緯もあって、私達は交易連隊を構成する輸送機材の搭乗者候補として、主にカーヘウ・クーコ士官学校輜重課の方々から募ることにした。

 というのも、特務輸送機材(※現在ネーミング選定中)はその構造からして、制御パターンが少々独特である。二本脚で歩く一般的な機甲鎧とは、色々と感覚が異なるわけで。

 そのため、まあ、なんというか……簡単に言うと『ベテランほど慣れにくい』性質があるわけで、残念ながら既存の輸送部隊からの機種転換は少々難しそうなのであって。


 ……というかそもそも、現在この国は戦時中であるからして、だいじなだいじな輜重にかかわるプロを引き抜くというのは、色々とよろしくないだろう。



 とはいえ、構成人員のすべてを学生で染めるのは、さすがに色々と無理があるだろう。

 いくら兵站・輜重に関連する知識を備え、輸送機材の扱いを会得していようとも、全てを学生に任せるのは不安が残るだろうが……実際、指揮引率人員としての若干名さえ本職にご協力頂けるのならば、実際の業務そのものは学生でも問題なく遂行できると思っている。



 まあ何にせよ、見た目も年齢も『アレ』な私の立場的なものもあり、いわゆる『部活動』のような位置付けとなってしまうらしいが……しかしきちんと出席扱いにもなるらしいし、学生でも実務能力としては問題ないだろう。

 カーヘウ・クーコ士官学校の教育は、それ程までに本格的で、しっかりしているのだ。




 そんなわけで前置きが長くなったが、まだ実戦配備がなされていない学生を構成人員として迎えるにあたって、私が真っ先に推挙したのは……ずばり『お風呂のお姉さま』ことエルマ・ホーシオ先輩。

 女子寮のお風呂や食堂で会うたびに、なにかと私に世話を焼いてしてくれる、気さくで優しくて面倒見の良いお姉さまだ。


 カンダイナー部門長どのと教導部の協力を得て、輜重課の教官経由でわが社特務開発課へとお呼び出しさせていただき、こうして事業案内ならびに役員面接協力要請の場を設けさせていただいたのだが……果たしてその成果はというと、とても嬉しいお返事を頂けた。

 つまるところ……私達はエルマお姉さまを、われわれ(が管理運用元である交易連隊)の一員としてお迎えすることに成功したのである。やったぜ!




「いやぁー……すごいね、ファオちゃん。機甲課の首席だし、新型機の試験搭乗者だし、部署の代表者で責任者だし……私もいい加減、立ち場をわきまえないと。もう前みたいに……馴れ馴れしくなんて出来ないよね」


「え、えっ……? ……えっ!? や、いやっ……やだ! 馴れ馴れしく、じゃないと……前みたいに、じゃないと……やだ……」



 軍として、組織としては、恐らくが正しいのだろう。年下だろうと、あるいは前職では部下であろうと、現在の立場が全てなのだ。

 たとえエルマお姉さまが成績優良生であろうとも、一般の学生と『特課少尉』の階級持ちとでは、とうぜん後者のほうが立場は上だし、おまけに今の私は『雇用主』の立場でもある。


 しかし……だからといって、そんな他人行儀でよそよそしい応対をされるのは、さすがにいやだ。

 女子寮の食堂で、そしてお風呂で、あんなにも私をかわいがってくれたエルマお姉さまが……今までのように、私を軽率にかわいがってくれなくなるなんて、そんなのはいやなのだ。



「……や、でも……えーっと…………どうなんですか? そのあたり……命令違反とか、不服従とか、そういうの取られません?」


「取られないでしょうね。他でもない特課少尉殿から直々の『他人行儀にするな』という命令ですし」


「な、なるほど……あー、そっか。命令ですもんね」


「そうですね。……まぁ他の特課少尉殿がどうかは一旦置いておくとして、特務開発課ウチでは気にしないで大丈夫だと思いますよ。実際のところ、フィアテーア特課少尉は……まぁ、ですので」


「あー…………はい。よーっく理解わかりました。ありがとうございます」


「恐縮です」


「?? …………うー?」



 エルマお姉さまに『よそよそ』されてしまうのではないか、と不安でいた私だったが……同席していた技術主任と言葉を交わしたエルマお姉さまは、なにやら納得した様子である。

 にっこり笑顔のまま私の方へと手を伸ばし、そのまま『よしよし』と頭をなでなでしてくれたのだ。


 そこにあるのは、軍関連組織ならではの『ビシッ』と『キチッ』とした堅苦しい空気……それこそお風呂のように気持ちいい、ほんわか温かい空気。

 会話の内容こそ『他の特課少尉』やら『こんな子』やら、ちょっとよくわからなかったけれど……この温かな手のひらが全てだろう。



 つまり……どうやら私の心配は杞憂であり、エルマお姉さまはこれからも私を可愛がってくれるのだ。こんなにうれしいことはない。




「それはそうと……搭乗員候補者ですが、ホーシオさんの他には? もう何名か必要なのでは?」


「………………えっ?」


「えっ? ……えー、まぁ……交易連隊の編成規模と、輸送貨物の量にも依るのでしょうが……輸送機材を運用する必要もあるのではないか、と……」


「あっ…………は、はい。ありえる、思いましゅ……」



 そうだ、そうじゃん。なんかエルマお姉さまをお迎えすることで頭いっぱいになってたけど、交易部隊の規模がそれだけで終わる保証など無い。

 将来的に、というか近いうちに輸送機材が増える可能性もあるし、それでなかったとしてもエルマお姉さまにも都合がある。彼女が行けない場合に代わりに機材を制御するためにも、扱える人員に余裕はあったほうがいい。



「あっ! じゃあ、じゃあ……私が声掛けてこよっか? ファオちゃんと一緒に働きたい子!」


「えっ!? あっ、ほ、ほんと、ですかっ!」


「ホントホント! とりあえず……そーですね、もう3人くらい声掛けてみます?」


「…………そう、ですね。……あまり人員を募り過ぎても、機材が揃わないことにはお役目もありませんし……お願い出来ますか? ホーシオさん」


「はいっ! お任せ下さい!」


「あ、ありがとう、ござますっ! エルマお姉さまっ!」


「えへへっ。…………可愛いなぁ、ウチの隊長は」




 そんなわけで、もう3名前後を追加で募集する予定が立った我が社である。

 より厳密に言うならば……空戦偵察型機甲鎧【ウルラ】の構造フレームを用いた量産モデルは複座式なので、メインパイロットのほかにもう一名ずつ、通信担当要員が必要だったりする。

 ただまぁ、教導部のほうからも人員を工面していただける予定ではあるので、私達はあまり気にする必要がないらしい。


 よって、主搭乗者の候補としてエルマお姉さまのご学友を誘っていただけるというのなら……それはとっても助かるし、ありがたいことだ。

 あとたぶんだけど、女子寮のお風呂で私によくしてくれてたひとも来てくれそうだし、そうだったら尚のことうれしい。えっちなことしてくれないかな。



――――そういう視点で選ぶのやめなさい?


(ぐへぇー)




 うううむ……なんだか良い感じの活動ができそうな気がしてきたぞ。シャウヤとの交易が課外活動の学生主体で賄えれば、それは抜群の話題性となること間違いなしだろう。


 私は確かに責任者だが、とはいえ(見た目は)まだ子どもであるからして、いっぱい頼ってしまっても許されるのだ。

 とりあえず、カンダイナー部門長とコトロフ大尉と……経営とかそういうのが得意なひとに相談してみよう。





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