第75話 なぞの現役美少女士官学校生社長




 輜重課の遠征に端を発する、ヨーベヤ大森林で繰り広げられた私達の大冒険は……シャウヤの機甲鎧技師マノシアさんをお迎えしたことで、いちおうの落ち着きを見せていた。



 今回の任務にあたり、最初の頃は『エルマお姉さまたちにカッコいいところ見せるぞ』と息巻いていた私だったが……次から次へと事情が変わり続け、とてもそんな余裕は無くなってしまった。

 とはいえ、元々は私達【グリフュス】抜きで行われていた遠征行軍である。私一人一機が抜けたところで特に問題は生じなかったらしく、例年どおり……いや例年以上の戦果を挙げて、つい先日凱旋したらしい。


 まあ……私達も一日、いや実際のところは半日そこらだったけど、【要塞種ジェネレーター】狩りがんばったもんな。戦果にほんの少しでも貢献できていたのなら、私達としても嬉しい限りだ。



 そして、もう一点。表で例年以上の収穫に沸いているその裏では……資源回収とは全く別の分野にて、もうひとつの『目覚ましい戦果』が挙げられていた。

 とはいえ、正直『裏』とかいうほど極秘とか機密とかじゃ無いらしいけど……そこはまあ、りたいお年頃といいますか。


 ともかく、私達『特務開発課』には――そしてヨツヤーエ連邦国と技術部には――とっても心強い味方が、そのたぐいまれなる叡智と技術を貸してくれることとなったのだ。




≪……どうデスか? ファオ様。……まあご覧のように、試作機プリスクスは残念ながら、お世辞にも『小型』とは言い難いデスが――≫


「い、いえっ! すごい……これ、ちゃんと、あの…………すごい! ですっ! マノシアさん、すごい!」


≪お褒め頂き、感謝しマス。……大きさと取り回しは、概ね要求性能を満たせるものと判断しマス≫


「はいっ! ……これは、すごい……つよい、画期的、ですっ!」




 それからおよそ二週間、私達は予科に本科にと、ひさしぶりの気がする日常を謳歌していた。

 ここしばらくは機甲課首席として、その優等生っぷりを遺憾なく発揮していたファオ・フィアテーアだったが……本日は久しぶりに講義をお休みさせて頂き、特務開発課の『業務』のほうへと取り組んでいるのだ。



 マノシアさんの助力と回路図を授かった、われらが特務開発課の技術者たちによって。

 ついに光学展開型近接兵装、いわゆるレーザーソード(の試作機プロトタイプ)完成へとこぎ着けたと、とても喜ばしい連絡が入ったのである。



 しかしながら……小型とはいえ自前の動力機関を組み込んだことで、その発振器は大型化。いわゆるビームサー◯ルやラ◯トセーバー発振器のような、円筒形グリップでコンパクトな見た目からはかけ離れてしまった。


 この形状を例えるのなら、押して切る感じの西洋鋸というか、もしくは片刃の印度式鎧通しジャマダハルというか、切り詰めた松葉杖まつばづえというか。

 大きな笹葉状の構造体のへりに沿って、刃となる光条魔法の発振器が組み込まれているため、実体部分を伴うレーザーソードといったおもむきであり……正直に言うと、最初は『これじゃない』感を感じていたりもした。



 わざわざ『最初は』と述べたのは……まあ、そういうことだ。確かに思い描いていたものとは違っていたが、その『斬れ味』は期待どおり……いや、それ以上かもしれない。

 笹葉状の実体構造部のおかげか、刃の出力も展開距離の精度も安定性も抜群であり、充分に『近接斬撃武器』として使えるだろう。


 そもそもコレはあくまでも試作機プロトタイプであり、製品版とは異なる『技術検証モデル』なのである。

 私の手元のコレを更にブラッシュアップし、余剰を省いて長所を伸ばして不安を潰し、信頼性を上げた改良型をつくっていってもらえばよいのだ。


 何よりも……これまでは『机上の空論』でしかなかったものが、こうして形になっているのだ。それだけで充分、感動・感激に値する。




≪光条魔法の安定性向上のため、今はまだ長い構造体を必要としていマスが……こうして、稼働データも取れました。充分な安定性を確保した上で、砲身バレルを詰めるコトも可能かと≫


「はいっ! …………? …………?? あ、あのっ、えっと……砲身バレル、って――」


≪……? ……えぇ、ハイ。構造体内に加速器と収束器を組み込んでマスので、刃の代わりに切っ先からそのまま光条魔法を発現させるコトも――≫


「うおおおおー!」




 ……特務開発課の責任者である私には、ヨツヤーエ連邦国にとっての害とならないことを前提に、ある程度の裁量権が与えられている。


 今回私は、その権限を思う存分に行使して……コンパクトなグリップ部分のみの『剣機能特化型』の開発指示と、機能このまま安定性を増す方針の『銃剣両用型』の改良指示、ふたつの方向性で欲求を満たすことにした。



 幸いだったのは……特務開発課の技術陣も、そしてマノシアさんも、私の思い描いたカッコよさロマンをよく理解してくれたことだ。

 とはいえもちろん、見た目だけではない。機甲鎧の装甲(に匹敵する硬度のヨーベヤ産樹木)をやすやすと溶断する斬れ味があれば、近距離戦闘に持ち込む理由としても充分だろう。




「……お疲れ様でした、ファオ様。試作機プリスクスをお気に召して頂けたようで、なによりデス」


「はいっ! とても、とっても、気に入った、ですっ! 今後とも、よろしくお願い、しますっ!」


「ええ、勿論。今回のテストで得られたデータは、非常に有用です。……今後とも、最善を尽くしマス」


「はいっ! ありがと、ざいますっ!」



 試作機とはいえ、機構部分はこうして正常に動作しているのだ。そう遠くないうちに『銃剣型』は正式版をお披露目できることだろうし、それをもとに発展させた『直剣型』もゴールは既に見えている。


 射撃も斬撃も使えるマルチな光学兵器に、光の刀身が「びゅいん」と伸びるレーザーソード……実用性もカッコよさも折り紙つきのステキツールが、もうすぐそこにあるのだ。

 そんなの……テンションが上がってしまうに決まってるじゃないか。





――――――――――――――――――――





「…………というわけで、続きましてはですね。ご覧のとおり外観はほぼ完成、現在は内装機器の最終調整中です」


「は、はいっ。……すごい、ですっ」


「ありがとうございます。……また、並列して量産2号機、3号機の加工を開始しております。各方面の協力を頂けたことで、下半身の【マムートス】も上半身の機甲鎧部分も、ありがたいことに継続的な供給の目処が立っています」


「はいっ。……ちゃんと、お礼、しとき、ますっ」




 レーザーソードの実働評価試験に続き、せっかくならばと報告を受けていたのは、シャウヤの方々向けに若干の設計変更を施した【エルト・カルディア】の一般向け量産モデル。

 試作機で得られたデータをもとに、対機甲鎧用の装備や耐弾装甲の幾らかを削減し、用途を『輸送』『警戒』『通信』に絞った機体。……いや機材。

 対【魔物モンステロ】用にと、いちおう魔力防壁の展開機能は据え置きだが……まあ、面と向かって殴り合うことは想定されていない。


 あくまでも輸送機材、立ち位置としては馬車とかトラックとかそういう類のモノ。迎撃手段や戦闘能力は、随伴する護衛に依存する、なかなか割り切った仕様の代物である。

 ……とはいえ、シャウヤの方々は生身で【魔物モンステロ】を返り討ちにできるし、一方の輜重部隊は護衛の機甲鎧が随伴しているし、いちおう銃器を扱って自衛することもできなくはないので、まぁ大丈夫と判断されたのだろう。



 なにより、加工する部分を最小限に留め、既成品や払い下げをいい感じに使い回すことで生産性を高める……というのが、この『量産モデル』の真骨頂といえる。

 各分野の『特化型』には及ばないまでも、単機でマルチな働きをこなせて、それでいてコストもそこまで高くない。そういうところがウリの商品なのだ。すきま産業ってやつかな。……違うかな。



 まあとにかく、そんなわけで。どうにか『量産モデル』の生産も軌道に乗ってきたし、本命のレーザーソード改め複合光学兵装も、ほぼ完成といってよいだろう。

 最近ノリにノッている私達……ではあるが、だいたいシャウヤの皆さんのおかげだからな。そこんとこを勘違いしちゃだめだ。


 シャウヤの方々への恩返しのためにも、量産モデルの納入はもちろん、それを用いた本格的な都市間交易に関しても、進めていかなきゃならないだろう。




「……それでですね、特課少尉殿」


「はいっ。なんでしょ」


「ええとですね…………例の『交易連隊』なのですが、搭乗人員にお心あたりは?」


「えっ?」


「えっ? あっ………………えっ?」


「…………………………えっ?」


「えっ?」



――――あー、そっか。なるほどね、ファオがいちばんえらいもんね。


(えっ? そ、そう、だっけ…………そっか)


――――うん、そうなので。……だから、人員配置、とか……求人? とか、ファオが決めるのがふつうなんじゃない?


(あぁー…………そういうことか、なるほど)


――――それで……どうする? とりあえずトコロフ大尉と、カンダイナー部門長に相談してみる?


(………………いや、ちょっと『知り合い』に当たってみようと思う)


――――えっ?




 技術主任が言っていた『交易連隊』とは……将来的に量産された『特務輸送機材』複数機を基幹に据えた、機甲化交易部隊構想であり、まぁ早い話が『キャストラム行きの輸送部隊』である。

 シャウヤの方々とは、今後とも定期的な交易を行っていくつもりなので、継続的にシュト・キャストラム間を往復しなければならないのだが……なにせ場所が場所であり、使用する輸送機材がまた独特すぎるわけで、当然一般的な輸送部隊を回すことはできないのだ。


 そのため、ほかでもないその輸送機材の製造元である『特務開発課』が、輸送任務に当たる人員を公募なりスカウトなりで用意する必要が生じるわけで。

 そしてそして、その『特務開発課』の責任者はというと……まあ、私なんですよね。実は。



 とはいえ、私はあくまでも『一定の裁量がある』程度。人員配置もろもろはカンダイナー部門長どのが相談に乗ってくれるらしいので、私がやることといえば『採用』『不採用』のジャッジを行うくらいだろう。

 しかしながら私は、その判断を下す面接の場に、知人を呼び寄せようとしているのだ。




――――えっ、だれ? イーダミフくんとか、エーヤ先輩とか?


(うんや、イーダミフくんたちは普通につよいから、輸送機材に乗らせるのはもったいない。護衛役任せるほうが絶対にいい)


――――あーたしかに。そうかも。…………えっ、じゃあ……だれ?


(ふふふふふー)


――――えっ、こわ。



 さてさて……量産モデルの数が揃って、われわれ肝いりの『交易連隊』が発足するまで、まだしばらくの時間がある。

 責任者である私はそれまでに、我が社の主力製品を預けるに足る優秀な人員を、しっかりバッチリ探させていただこうではないか。





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