第74話 教育上よくない言動はよくない



 私達が通り魔的に【魔物モンステロ】の警戒小隊を蹂躙して以降は、特に何の問題も起こらず平穏そのものだった。

 シスの【セプト】も各種動作に問題は無さそうだし、起動テストの経過も順調。一部とはいえ実戦データも取れたし、観戦していたマノシアさんからもお褒めの言葉をいただいた。


 その後マノシアさんは、やはりというか人間ヒュモルの造った様々な設備機器に興味しんしんなようで、長時間移動の疲労をものともせずに【エルト】キャビン内を物色していた。



≪必要なときだけ寝床が出せるのデスね。……なるほど、スペースを有効に使える工夫、賢いデス≫


「あっ、で、ですっ。……あと、テーブルのところ、も、ベッドになる、ので……ベッド、5台、できますっ」


≪なんと! ……あぁ確かに、睡眠中は『書きモノ』をしません。机を使いませんネ≫


「あと……ごはんたべたり、とか。キッチンは小さい、料理ぜんぶは、大変です、けど……」


≪お、おぉ……シャワー室まであるデスか! なるほど、確かにコレは『家』といえるデスね! 皆が話題にするのもよくわかりマス≫


「恐縮、ですっ」




 アレやコレやと質問責めに遭うかと覚悟していたのだが……そこはさすが技師エンジニアといったところだろうか。配置や注意書きマークから『どう使うものなのか』を推測していたようだ。



 そんな感じで、私達は平穏無事にシュト基地へと到着。基地管制の誘導に従い降着し、私達の『ひみつきち』である特務開発課ハンガーへと無事に帰還を果たした。



 壁際の指定位置へと機体を停めて、搭乗席からひょいひょいと飛び降り、出迎えてくれた整備担当に軽くあいさつして愛機相棒を預ける。

 私達グリフュスに続いて入ってきた二機ふたりも、それぞれの定位置に危なげなく駐機。私のマネをして同様に元気いっぱい搭乗席から飛び降り、見る者を『ひやっ』とさせていく。


 ええまあ、はい。私共わたくしども特務制御体としましてはですね、生身の体のほうもなかなかハイスペックになっておりまして。

 普通であれば昇降タラップや縄梯子なんかを用いて乗り降りするところ、降りるほうであれば飛び降りても全然へっちゃらなわけです。……まあ乗るときはさすがにジャンプじゃ届きませんが。



――――だから、教育上よくないことしちゃダメだっていったよね? ふたりはファオを見てそだつんだからね?


(いえそのあのー、ハイ。……で、でもあのふたりなら大丈夫かなって――)


――――特務課のみんなが心配するでしょ。


(ハイおっしゃる通りです!)




 ま、まあ……正直は『手遅れ』かもしれないので、ほかのところで気をつけるとしよう。

 みんな私の飛び降りにもなんだかんだで順応してくれたのだ、きっとふたりの飛び降りも受け入れてくれる。……ごめんって。


 ともあれこれで、無事に要人輸送任務は完了である。私達もそれぞれの半身愛機も、みんな『お疲れさま』だ。

 すぐさま作業に入った整備担当が、そこで【エルト】の下部キャビンから出てきた小柄ひかえめ竜人美少女に遭遇し……うむ、なかなかいいリアクションを見せてくれた。


 長距離の移動にもかかわらず、あまり退屈した様子もなかったマノシアさん。到着してからもやはりというか元気な様子であり、広々とした格納庫と整備機材、艤装途中の量産試作機に目を輝かせている。

 そんな彼女の存在に気付いた者が少しずつ増えていき、じわじわと『驚き』が伝播していく。まあそれもそうか、フィーデスさんたち『シャウヤ』の方々をお送りしてばいばいしたかと思ったら、私が新たな竜人美少女を連れてきたのだ。



 それにしても……みんなして、なかなかいい『驚き』のリアクションなのだが。

 …………そういえば私、上官に『マノシアさん連れて帰ります』って報告してあったっけ?



――――してないよ。


(やっべー!)



 何事かと馳せ参じてくれた技術主任を取っ捕まえて、シスとアウラとマノシアさんの『子守』を押し付ける。

 いっぽうの私ははやきこと風の如しで特務開発課ひみつきちを後にし、私の取扱責任者であるカンダイナー部門長のもとへと急行、状況報告ならびに事後承諾をもぎ取る作戦である。


 ま、まあ……誰にも許可を取らずにマノシアさんを連れ込んでしまったけど、コレもしかしなくても『密入国の幇助』とかに当たってしまう気がしなくもないけど。

 こうしてきちんと報告に向かっていることだし、悪気はなかったわけだし、そして私は『いいこ』にしていたわけだし……この国の寛大さなら、たぶん大丈夫だろう。



(大丈夫だよ! 絶対大丈夫だよ!)


――――いや、それ『大丈夫』じゃ――


(大丈夫だよ! 絶対大丈夫だよ!)


――――あぁー。



 正直、ほんのちょっとだけ大丈夫じゃない気もするが、思い返せばフィーデスさんも事前連絡のみだったはずだ。特に手続きとかしたわけじゃないので、入国審査てきな何かはそんなに厳しくは無いのではなかろうか。



――――それ、エマーテ砦でハンダーン大佐がやってくれてた、って可能性ない?


(あるとおもいます)



 やばい、そうかも。いや恐らくそうなのだろう。だってこの国ふつうに戦時中じゃん。

 密入国者やらならず者やら間者やらが居ないとは言わないが、ほかでもない軍属である私が手ずから引き入れたとなれば、それは話は別だろう。

 例えるなら、駅員さんが身内だからって堂々と『きせる』させたようなものだし、警察官が身内の不祥事を勝手に不起訴釈放するようなものだ(?)。

 当然バレたら大炎上間違いないし、なんならさっき既に特務開発課の面々にバレた。もうだめだ。おしまいだ。


 とりあえず……全面的に私に非があるのは確かで、マノシアさんは何も悪くない。それどころか今後の連邦国軍にとっては、非常に心強い『助っ人』となることは確かである。

 だからこそ、怒られるし処罰されるのがわかっているとしても、今からでもマノシアさんの入国ならびに滞在の許可をもぎ取る。


 すべて包み隠さず、誠心誠意応対すれば、さすがに命を取られるようなことはない……と、思う。

 心から『ごめんなさい』すれば……きっと許してくれる……と、思う。



 うおお、どうにでもなあれ!





 ………………




 …………………………





――――許されたね?


(ふつうに許されたね?)



 なんとびっくり。結果的に私は無罪放免、それでいてマノシアさんの滞在に関しても手配してもらえるとのことで、つまり何もお咎めなしでの完全勝利である。

 まあ尤も『次からは早めに連絡するように』とのお小言こそ頂戴したが、むしろそれだけで済んだのだから驚きだ。


 しかもしかも……ほかでもないマノシアさんに関して、カンダイナー部門長が興味を示してくれた。まあ確かに『シャウヤの機甲鎧技師インゲニアトール』と言われれば、そりゃ興味も関心も湧くのだろう。

 ダンディなニッコリ笑顔で『近々視察に伺うのでよろしく』なんて言われたら……私共としましても、気を引き締めざるを得ないわけでございます。




 そんな感じで、一時はどうなることかと思われたが、私がやらかした密入国幇助(未遂)事件はどうにか何事もなく収束を見せ。

 意気揚々と弾むような足どりで、道行く兵士諸君の視線を集めながら、特務開発課の建屋へと戻った私は。




 笑顔の中に確かな怒気を秘めた技術主任によって、出迎えられたのでした。







 ……えっと、あの……ごめんなさい。

 いつもシスとアウラの子守押し付け……いえ、あの、お世話してくれ……えっと、えーっと……ふたりを可愛がってくれて、ありがとうございましゅ。





 …………ほかに?


 ………………あっ、お客様でしゅね、マノシアさんですね。……はい、丸投げはたいへんよろしくないと思います……はい……ごめんなさい。




 手続きは……ハイ。大丈夫そう……です。ご心配をおかけしました……ほんとごめんなさい。いつもありがとうございます……はい……。




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