第12話 新しいルートが発見されました
まぁつまり『新生活』ということは、当たり前だが新しい生活なわけで。
また士官学校というものは、軍で活躍する人材を養成する場所なわけで。
そんな士官学校敷地内のいち区画、女性学徒用の寮に案内されたということは……今から向かう場所とはすなわち、私が生活するお部屋というわけなのだ。
ここで脳裏をよぎるのは、私が
まず……例のクソバカバッカ帝国での実験動物時代は、言うまでもない。
睡眠も
当たり前だが、夜のワンマンソロライブなんて出来るわけがなく、というかそもそも
つぎに、ゼファー隊長率いる第三航空小隊に投降し、ヨツヤーエ連邦国軍辺境基地のお世話になっていた時期。
ここではプライベートっぽい一人部屋こそ用意してもらったものの、その実は監視カメラや集音機器が仕掛けられていた監視部屋だった。
とはいえ捕虜の監視は当然のことだと思っているし、しかし純粋に私のことを心配してくれていたような印象だったので、特に嫌な印象を抱くことも無かったのだが……それとこれとは話が別なわけで。
骨格や神経に強化処置が施され、異常な器用さを誇る私の指がうなることもなく、その超絶技巧が活かされることもなかった。
壁も薄いし、近くを人が行き来してるし……私が『変態』だと思われたくなかったし。
そんなわけで、これまではとてもとても発散できるような環境ではなかったので……私はこの新生活に、少なからず期待していたのだ。
観察対象としてではなく、また監視を要する捕虜としてでもなく、いち個人『ファオ・フィアテーア特課曹長』としての新生活である。
確かにあちこち物足りないし、どちらかというと未発達なほうだし、消えない疵の残る身体ではあるけれど……ついに念願の『女の子の身体』を、心ゆくまで堪能することができるのだ。
――――ねえファオ、もしかしなくても失礼なこと考えてない?
(そそそんなことないって。テア(の身体)は可愛らしいねって考えてただけだって)
――――何度も言うけど、
(ヒュッ)
ま、まぁ……ともあれ。
つまるところ念願の一人部屋、
その期待と興奮たるや、それはそれは筆舌に尽くしがたいものだったのだが。
…………だったの、だが。
「ファオさんは、その……やはり、下段のほうが良いでしょうか? ……片手ですと……梯子の登り降りとか、夜暗いと大変でしょうし」
「………………あり、がと……ござぃます……」
「あ、あの……大丈夫ですか? 先程から、なんと申しますか……元気がない、ような……」
「っ、…………いえ、大丈夫……です。……共同生活、わたし……はじめて、なので……」
――――ねえファオ、今どんなきもち? ひとりのえっち出来なくてどんなきもち? ねえねえ。
(ぐぬぬ)
…………はい。
まあね、そんな気はしてましたよ。ええほんと。まじまじ。
敷地スペースや施設やリソースはもちろん限られてるし、それらは無限に得られるわけじゃない。首都とはいえ戦時中の連邦国家、寮とはいえ軍の士官学校である。
少しでも多くの入寮者を収容しようと考えれば……ひと部屋に複数人、共同生活が前提だったとしても、別段不思議なことは無い。
むしろ8人部屋とか、それ以上とか、それこそフェリーの雑魚寝部屋レベルでもおかしくなかっただろう。2人部屋というだけでも御の字だ。
仮に個室寮があったとして、将来を約束されたエリートだとか成績優秀な特待生だとか、あるいは国の重役のご子息だとかコネクション持ちだとか……入れるのはそんな感じの、ごく一部に限られるのだろう。
私とて、ここに至るまでには何かしらのコネクションを用いて頂いたのだろうが、そうは言ってもそもそも身元がガバガバすぎる。私自身も『さすがに擁護は無理だろ』と諦めるレベルの馬の骨だ、特別扱いなど無理無理のかたつむりよ。
とはいえ実際のところ、こうして寮を与えてもらえるだけでも非常にありがたい。
ましてや同居人は
……いや、さすがに恩人の娘さんに手出しなどしないが。
役得というのはつまり、私の心と身体の平穏を守ってもらえてありがたいなという意味であって……決して
軍装を主体としながらも、華やかで可憐な意匠を盛り込んだ制服……そのキュロットの裾から覗くジーナちゃんのおみあしに見惚れたわけでは、たぶん無いが。
――――ぜったい、じゃないんだ……。
(…………うん。たぶん)
――――手出しだけはしないようにね、ファオはえっちだから。
(はい)
お父上からの指示があったとて、こうして私の面倒を見てくれているのだ。ゼファー隊長のご家族だからこそ、私はジーナちゃんに失礼な真似はしたくない。
幸いなことに、私が編入する予定の『カーヘウ・クーコ士官学校』では、国を守るためにと志願した多くの若者が在籍し、兵役に就くために必要な様々なことを学んでいる。
名前こそ『士官学校』と付いているが、やはりこの国ならではの特色が色濃いのだろう。前世における士官学校とか防衛大学なんかほどガッチガチでは無さそうで……こういう言い方は失礼なのかもしれないけど、けっこう『ユルい』雰囲気を私は感じていた。
まあもちろん、防衛大学の雰囲気など知る由もないのだが……
そのため私の認識としては、年齢幅がやや拡がった『専門学校』といった感じだろうか。ヨツヤーエ連邦国立、航空兵科専門学校……うん、そんな感じの雰囲気な気がする。
それであれば、やはり如何様にもヤりようはあるだろう。図らずとも学園編が始まったようなものだ、攻略対象も好感度操作もヤりたい放題ではないか。
若々しい男子学生ともなれば、当然元気な盛りだろう。
軍関連施設であることを考えると男女比もだいたい予想できるし、そうであれば必然的にあぶれる男子学生も多いハズ。
隊長さんやジーナちゃんと関係悪化の危険を冒さずとも、もっと手頃な攻略対象が数多なのだ。狙うのならば明らかに
儚げ美少女な雰囲気をアピールしてみてもいいし……もしくは単純に、成績でぶっちぎって印象付けてもいいだろう。魔法持ちの私が学生に後れをとるとは思わない。
最初『編入』の話を持ちかけられ、基地から離されると聞いたときには途方に暮れたが、しかしこれは基地よりも明らかにイージーモードではないか。これはえっちの期待が高まる。
それだけでなく……この士官学校を、順当に卒業することができれば。
そのときは大手を振って、このヨツヤーエ連邦国軍の一員として、機甲鎧を駆る栄誉が与えられるわけで。
つまりは……私達を迎え入れてくれた第三小隊の皆さんと、本当の意味で『同僚』になれるということなのだ。
えっちすることももちろん大切な目標だが、そっちのほうこそ疎かにするわけにはいかない。
せっかくのイージーモードを活かしたい気持ちは、そりゃ確かに強いのだが……えっちしたさのあまり本業を疎かにするようなことになっては、信じて送り出してくれた皆さんに合わせる顔がない。
勉強と
気合の入れどころと気のヌきどころ、そのあたりの匙加減は覚えている(と思う)ので、必要以上に気負わずにがんばっていこうと思う。
「えーっと……管理課にご挨拶に伺って、支給物品を受け取って、講堂の場所をご案内して、寮内のご案内して……あと、日用品も用意しなきゃですね。今日と明日は準備に使えるので、ゆっくり行きましょう」
「……あ、の……ジーナさん、予定……えと、講義、は?」
「私はファオさんのお迎えのため、特例休を頂いてます。自分で言うのもなんですけど、そこそこ優秀な成績ですし……それに外国語はそもそも得意なので、2日くらい休んでも問題ないんです」
「おぉー…………おせわ、なり、ますっ」
「はいっ。お任せ下さい。……ふふっ」
辺境基地や小隊の皆の役に立つことを考えれば、本業に対するモチベーションも充分だ。
とりあえずは今日明日で準備を整え、明後日の編入当日。そしてそこから始まる『恩返しルート』の攻略が、今から楽しみだ。
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