第20話 強化人間美少女の新兵器評価試験
(どう? テア。可愛い? 可愛いでしょ、私。ねえねえどう? 可愛い?)
――――そうだねーかわいいと思うよーすごいかわいいーすごーいファオすごーい。
(えへ、えへへっ。えへへへっ)
――――まったく…………かわいいなぁ。
寮生のお姉さまたちの手によって、毎晩のようにお手入れして頂いている真白の髪を、ふわふわさらさらと靡かせて。
これまではヒトとして歪だった顔には今や、宝石のように煌めく左右一対の光が灯り。
病院内に備わる休憩および更衣用の個室、全身を映す壁面鏡の目の前。
そこには、その顔に満面の笑み(※
……つまり、私である。
――――ごきげんだね、ファオ。
(うん。すごくうれしい。……すごく)
……そうとも。だって仕方がないだろう、なんといっても今日この日は。
長いこと空っぽだった左の眼窩……そこへ念願の『義眼』が収まった、記念すべき日なのだ。
――――いや……まだ『仮』だからね? その義眼。
(…………いや……わかってる。私だってちゃんと理解してるんだけど……)
なんでも……まぁ当たり前といえば当たり前なのだが、本来『義眼』や『義手』を作るのは数週間単位の時間と結構な手間を要し、モノによっては完成まで数ヶ月掛かるのも珍しくないのだという。
先週の休息日、病院で全身検査を受けたときに、大まかに各種データを取得してくれていたらしいのだが……そうはいっても、ほかでもない『人体』に合わせる代物である。既製品が通用することなどほぼ無く、微調整を重ねる必要があるのだとか。
そんなわけで、あくまでも『とりあえず』といった形ではあるが、現在私の左眼には仮の義眼が収まっている。
本来であれば街中へと出向き、ひとりえっちができそうな環境を探しに行こうと思っていた休息日なのだが……とはいえ
とりあえず一晩様子を見て、可能であれば一週間程度過ごしてみて、形状やサイズはおかしくないか、眼底や周辺組織に負荷が掛かっていないか等をチェックするらしい。
つまりは、まだまだ始まったばかり。完全オーダーメイドの、私のためだけの義眼が完成するまでは、もうしばらく掛かりそうである。
…………とはいえ!
あくまで『仮』ではあるものの、義眼が
ただでさえ可愛らしい私の顔、これまでは片目が閉じられたままで、整ってはいたけれど歪さを隠しきれなかったのが……今はこうして、両のまぶたをちゃんと開き、整った笑顔を見せているのだ。
ここから細かく形状や色、テクスチャなんかを合わせていくのだろう。この『仮』の義眼では確かに、左右の色味は少々異なっているけれど……これはこれで神秘的でカッコいい。青紫色と紺色のヘテロクロミア、オッドアイってやつだ。
それに、まぶたを閉じたままにしなくて良い。不意に開いちゃって
「ご機嫌ですね、ファオさん。……良かったですね」
「はぃ、っ! ……ありがとう、ございます。ゼファー大尉、や、エライネン大佐にも…………ありがとう、伝えてくだ、さいっ」
「もちろんです。……ちゃんと、伝えておきますね」
「ありがと……ありがと、ございます。ジーナさん」
今日私の身に起きた変化とは、処置室にて普及品の仮義眼を挿れてもらった。それだけだ。
たったそれだけのことと他人は笑うかもしれないが……ともすると前世の身体以上に愛着の湧いているこの身体が、またひとつ完璧に近付いたのだ。嬉しいに決まっている。
あのまま帝国で飼い殺しにされていたら、この身を清めて整えることなんて無かった。
片目と片手を切り捨ててでも逃げ出さなければ、自由を手にすることなんて無かった。
私を受け入れてくれた人々のため、自分にできることをしようと動いてみなかったら……こうして学校に通い、日常を体感し、我が身を着飾ることなんて出来なかった。
私が見惚れた身体が、更に魅力的になっていく。その事実ももちろん嬉しいし……色んな人が手助けをしてくれているという事実がまた、たまらなく嬉しい。
あぁ、やっぱりこの国が好きだ。私に良くしてくれる人々が住まう、この国のことが大好きだ。
私を助けてくれた人に恩返しをするためにも。私をここへ導いてくれた人たちに『あなたのおかげです』と伝えるためにも。
私はここで精いっぱい学び、優秀な成績を収め……いずれは大手を振って、彼らのところへと凱旋するのだ。
――――立派な目標、できたね。
(うんっ。……恩返し、するんだ。いっぱい)
――――ふふふ。……じゃあ、帰ってお勉強?
(うんっ? …………いや、予定どおり。まだお昼どきだし……出かけるよ)
――――えっ? 予定って……えっ?
(だから……観光。楽しみにしてたじゃん)
休息日の朝から病院へと馳せ参じたため、仮義眼の挿入処置を終えてもまだお昼前である。……朝っぱらから付き合ってくれたジーナちゃんの存在は、本当にありがたく思っている。もう足を向けて寝られない。
ジーナちゃんもこの後は、お父様や基地の司令に向けてメールのようなものを送るとのことで、通信局とやらに用事があるらしい。病院の玄関で別れることとなった。
そんなわけで私はこれから、かねてより立てていた計画を実行に移す。
半日潰れてしまったのは予想外だったが……しかしそのおかげで、私の可愛さがより完成形に近づいたのだ。むしろプラスと言えよう。
いつもより7割増しで可愛い私は、上機嫌のルンルン気分でトラム乗り場へと足を向ける。
―――――――――――――――
ヨツヤーエ連邦国の首都には、主要な施設を結ぶ公共交通路線が整えられている。私が今回利用しているトラムも、そのひとつである。
機甲鎧の動力機関を流用して回転力を作り出し、それを駆動力に変えることで車輪を動かし、半永久的かつクリーンな交通機関として成立させているようだ。……まぁクリーンとは言ったが、この世界に公害とかいう概念があるのかは知らないが。
ともあれ、これまではあまり縁がなかったトラム……いわゆるところの路面電車、私にとっては前世も含めて初体験である。えっちではないが初体験だ。
なにせ、事前知識などまるで無い私である。大体は行き当たりばったりでどうにかなるだろうと高を括っていたが、乗り込んでさっそく最初の壁にぶち当たることとなった。
ずばり、切符をどうやって買えばよいのか、わからないのだ。
「…………えっ? ……あっ、えっと……あっ、ありがと、ございます。……えっ? そうなん、ですか。……ありがとう、です」
――――あの制服、学校の生徒さんだね。よかったね、ファオ。
(うん…………助かった。……みんな物知りだなぁ)
路面電車とはいうものの、一般的な電車とは異なり切符を買う必要は無く、むしろ路線バスに近い支払い方法であるらしい。
どうやら路線は環状になっているらしく、料金は全区間で共通。降りるときに車掌さんに手渡せばいいとのこと。
……やはりこの路線は、士官学校の学生さんも多く利用しているらしい。挙動不審な私を見かねてか、わざわざ席を立って助けに来てくれた。
私やジーナちゃんとは別の学級、別の課の学生さんだと思うのだが……どうやら私のことを知っていた様子で、ちょっとばかりびっくりした。あと頭やさしく撫でてくれた。きもちよかった。
ともあれこれで、あとは座っていれば中心街へと辿り着ける。公共交通機関さまさまである。
さっき助けてくれた学生さんグループに会釈をし、私は私で空いている座席に腰掛ける。ジーナちゃんに買ってもらったばかりのお財布を開き、現在手元にある軍資金を確認し……ちょっとだけ複雑な表情が浮かんでしまう。
そもそも私はこんな立場であるからして、おいそれとお金を稼ぐことは出来ない。帝国では搾取され続けてきたし、亡命してからも『お給金』など貰ったためしは無い。
しかし現在、私のお財布の中には……まあそこまで高額ではないが、平均的な学生さんのお小遣い一ヶ月分くらいの金額が入っている。
これの出処はというと……ジーナちゃんは多くは語らなかったが、たぶん隊長さんなのだろう。まぁ例によって司令や、あるいは輸送隊長なんかも絡んでるかもしれないが。
テアの
ほんの数日とはいえ、私はあの基地の一員として働いて(?)いたし、魔物だって倒しまくったのだ。もちろん一般の兵士並みの満額ではないだろうが、その分のお給金だと言われればそれまでだ。
もちろん、これがただの『お小遣い』である可能性も高いし、そうだったとしても別におかしくは無い。
なぜなら私はこんなにも可愛いし……加えて、とても賢くて良い子なのだから。
ならば……どうせ後で纏めて返すことになる恩に、少しばかり上乗せされるだけだ。
実際のところ、非常に助かるのは事実なのである。今は彼らの心意気と優しさに、少しばかり甘えさせてもらうとしよう。
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