第56話 敵かな味方かな
竜人のような特徴をもつ『シャウヤ』の民は、どうやら魔法知識に秀でた一族であるらしい。
そんな彼女らの起源となるのは、ここよりもずーっと遠い大陸の高山地帯。ずーっと昔に旅に出たとある一族が、世界中を巡り巡ってこのヨーベヤ大森林に辿り着き、様々な魔法を駆使して大森林の地下に都市を築き上げたのだという。
個人個人の魔法技量も、また戦闘能力的にも優れる彼女らは、基本的には大森林の恵みを享受し、自給自足の生活を行っているらしい。
ただ、さすがに来る日も来る日も降りかかる火の粉を払い続けるのは面倒だからと、こうして地下に潜り『魔法』を活用して都市を作って、静かな日々を過ごしているのだとか。
……なるほど、そのモノモノしい腕はやはり見た目どおりのものだったか。すごいぞ、かっこいいぞ。
――――すごいね。フィーデスさんたちが戦争仕掛けてきてたら、勝ち目ないんじゃない?
(そ、そんなにすごいの……?)
――――だって、さっきファオもわたしも、ぜんぜん気付けなかった。あれで気付けないうちに攻撃魔法でビャーンされたら、勝ち目ないよ。
(そ、そっか。…………シャウヤのひとたち、穏やかそうでよかったね)
――――ほんとにね。
フィーデスさんの実力は未知数だが、少なくとも『危害を加える』という点に関しては、非常に効率よくこなしてしまえそうだ。こんな危険地帯でのほほんとスローライフ送っているあたり、秘められた実力は途方もないものだろう。
ましてや……まぁ当たり前なんだろうけど、フィーデスさんの口ぶりからすると『荒事を得意とする者』も居るのだろうし、なおのこと彼女ら『シャウヤ』の方々を敵に回すのは悪手だろう。
やはりここは、積極的に友好関係を結びたいところだ。……ぶっちゃけ小柄でかわいいしな、フィーデスさん。恋人とかいるのかな。
いやいや落ち着け、冷静になるんだ私。今は『取引』についての話、えっちのお話はまた今度だ。
「
「じ、じゃあ……あの、なにを『取引』するん、ですか?」
「ソウ。ソレが重要ヨ。……そもそも、
「…………しらない、ことを」
彼女らの日常とは、ただただ『趣味』に没頭すること。そしてその『趣味』とは……まぁ個人個人の趣向によるため多岐に渡るらしいが、概ね『自らの知識欲を満たす』ためなのだという。
ある者は新たな魔法の研究を行っていたり、またある者は新たな鉱物を創り出してみたり、またある者はそれらの情報を記録することに心血を注いでいたり……あるいは、娯楽となる創作物語を綴ることを生き甲斐とする者も居るらしい。
そんな性質を持つ彼女らが求めるものとは、要するに『新たな刺激』であるといい、求めているモノの裾野は非常に広いのだとか。
しかしながら、種族的な特徴として基本的に出不精というか、外に興味が無いわけじゃないが優先順位的に高くないというか……そんな感じで『刺激を求めて自ら外へ出向く』者は、ぶっちゃけ非常に少ないのだとか。
そのため、何かの切っ掛けで知り合えた者に『取引』を持ち掛け、調達を任せる代わりに何らかの『お返し』で報いる関係を築いているのだとか。
……ちなみに、かの帝国との間で交わされた『取引』だが……帝国から『機甲鎧の概念』を受け入れ、代わりに『広域隠蔽魔法のノウハウ』を提供したらしい。
いやその、『機甲鎧』って別に帝国で生み出されたわけじゃないし、お前らの著作物じゃないし……ほんっとロクでもない奴らだ。
付け加えるのならば……その『新たな刺激』の遣り取り以外にも、食糧や嗜好品を仕入れる取引は定期的に行っているようで、私達の【グリフュス】は
森での狩猟や採取、この『キャストラム』地下の食糧生産区画等で、自給すること自体は可能なのだが……やっぱりたまには気分転換したくもなるのだと。
「……あのっ、……じゃあ、町、とか、国……あっ、ヒトの国、私達の、みたいな国、に、来ればいい、のでは……」
「無論、
「アッ、な、なる、ほど……?」
――――単純にわたしたちとは関わりがなかったから、全然知らなかった……ってこと?
(……そうぽいね。まぁそもそも『出稼ぎ』自体そんな多くないんだろうけど)
……とにかく、だいたい情報は集まった。
シャウヤの方々へ食糧や嗜好品を卸し、代わりに彼女らが創り出した宝石類や薬品類を仕入れる。こういった取引は既にうんち帝国が行っていることもあり、ヨツヤーエ連邦国としても噛ませてもらうことは出来るだろうとのこと。
嗜好品はもちろん、大森林や『キャストラム』地下で用意できない食糧品は、なんだかんだでそこそこ需要があるらしい。
それに加えて――正直、私にとってはこっちのほうが本命なのだが――彼女らの趣味を捗らせる『新たな刺激』を提供することが出来るのならば……帝国に『広域隠蔽魔法』を授けたように、新たな魔法式を見繕ってくれるとのこと。
考え方によっては、魔法分野の特別アドバイザーが味方に付いたようなものだ。
もちろん、彼女らを戦力として計上することは出来ないし、ヨツヤーエの国力に含むことも出来ないが……条件付きとはいえ、専門家の知識を借りられるのは、非常に心強い。
我々とも、そして敵対している帝国とも関わりのない……第三勢力と呼んでしまっても構わないのだろうか。
とにかく、彼女らの協力を得ることができるならば、開発が難航して途方に暮れていた『野望』を叶えることも、不可能じゃないのかもしれない。
電子・陽子を加速させて高エネルギーを付与し、その状態で力場に閉じ込めて滞留・集束させる。
もしくは……超高密度のプラズマレーザーを束ねて力場で拘束し、超高熱を伴う近接戦闘用の武装として用いる。
要するに、『ビーム◯ーベル』開発計画である!
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