第64話 企業からスカウトが届いています
これまで私は、この特務開発課のことを『政府直轄の秘密組織』のようなものだと思っていた。
誰にもその存在を知られちゃだめで、自分がその構成員であるということは、身近なひとにも黙ってなきゃいけない。そう思っていた。
『えっ? …………あぁ、いえ、別に『秘密』ってわけじゃないですよ。あくまで
『…………えっ? あっ、あっ、えっと? あっ……えーっと………そ、そう、なん、でしゅか……』
技術主任とのお話の中でそんなやり取りがあり、私が勘違いを正すことができたのは……ほんと、ついさっきのことで。
そんな矢先に、私とそれなりによくお喋りするエーヤ先輩と、あんまりお喋りしないけどよく見かけるイーダミフくんが遊びに来てくれたので……そりゃ、色々と見せびらかしたくもなってしまうだろう。
だって……知り合いに見せても大丈夫だよと、そう言われたのだから。
「えっと、はい。……あの、この子」
「「この子……?」」
「うん。あっ、えっと……はい。わが社の、主力商品、予定、の……試作機、です」
「「わが、社……?」」
「あっ、あーっ、えっと、気にしない、で。…………アウラ、アウラ、ちょっとごめん、こっち。……はい、ごあいさつ」
「…………っ、…………(ぺこり)」
「あ、あぁ……」「よお、妹ちゃん!」
自分たちが手掛けたものが高く評価され、目玉商品として輸出される。……それはとても、すごく光栄なことだと思う。
なので、知り合いに自慢したくなっても仕方ないことだと思うし、実際【エルト・カルディア】を目にしたふたりは、とても驚いているようだった。
搭乗者であるアウラは、私達の中でも引っ込み思案なところがあるので、ごあいさつを嫌がってしまうかもと思ったのだが……見学に来たのが顔見知りのふたりだったおかげが、そんなに気負いした様子も無さそうだ。
アウラも、そしてシスも、立場上は私の従者ということになっているせいもあって、これまではなかなか他のひとと交流する機会が無かった。
今でこそ、特務開発課のみんなが可愛がってくれているが……それ以外での交友範囲など、予科の講義のときに同級生と顔を合わせる程度。
今はまだ私による経過観察の期間中なので(あとこんな可愛くて小さな子がひとりで出歩くのは、連邦国とはいえさすがに危ないので)、彼女らの行動範囲は基本的に『私の目の届く範囲』となっているのだ。
自由に出歩いたりできないふたりには、ほんとうに肩身の狭い思いをさせてしまっている。
なので、知り合いではあるがあまり会えないエーヤ先輩が、こうして訪ねてきてくれたこと。これは単調になりがちな彼女たちの生活に……たぶんだけど『いい刺激』を与えてくれると思う。
実際こうして――まあ私の後ろに隠れちゃってるし、しかも相変わらず控えめな表情変化ではあるが――確かに嬉しそうにしてくれているのだ。
いや、まあ……エーヤ先輩はわかるけど、イーダミフくんにも嬉しそうにしてるのは、正直ちょっと意外だった。
……アウラ、この子……かわいいふりして、意外と
――――顔だち、整ってるもんね。イーダミフくん。
(えっ? ……うぅーーん…………まあ、悪くはない……とは思う……よ?)
――――シスとアウラにも、やさしくしてくれてるし。教本、いつも見せてくれてるんだよ。予科のとき。
(えっ? …………あー、あぁー……なるほど、そういうことか。……ちょっと意外)
――――ファオはまだ『にがて』が強い?
(うぅーーん……前よりかは、いい子になってると思う。……いちお、ちゃんと謝ってくれたし……敬語使おうとしてくれてるし)
――――じゃあさ、じゃあさ? やっぱ
(…………うーん…………そう、だね)
――――やたー!
ほんの数瞬、誰にも咎められること無く、魂を半ば共有する相棒との相談を経て……つぎに彼らに見せる
とはいえ
……が、彼らはそれぞれ特空課と機甲課でトップクラスの成績を誇る子たちである。きっと
なお、機甲課のトップは現在も私だ。挑戦はいつでも……あっ、うそ。私の時間があるときなら、受けて立つぞ。
そんなわけでアウラと、途中【
ほんの十分そこら前に出ていった部屋に舞い戻るなど、エーヤ先輩もイーダミフくんも疑問の表情を浮かべているが……ウフフ、いまにびっくりさせてあげよう。
私が代表を務めるこの施設、特務開発課とは。そして私によって制御される、巨大な機甲鎧とは。
この世のものとは思えない(実際に異なる世界の)
そして……ただの実験場と、私の『ひみつきち』と侮るなかれ。
この国に助けられた私達は、いつも私達によくしてくれるこの国に、あらゆる部分で還元していく気構えなのだ。
「…………は? 実体の無い、光の
「…………はー……高速機動戦闘用の『近接武器』たぁ……何てぇか、ニッチ過ぎねえ?」
「……いや、しかし…………
「……あぁ、そっか。アホ重い打撃武器を担がなくて良い、となりゃ【アラウダ】にも積めんのか。……いや『空中戦で剣が使えんのか』っつー別の問題は在るんだろーが……」
「………………なる、ほど……」
「………………こいつぁ……」
この国に還元していこうと考えるのなら、当然『私にしか扱えないモノ』
機甲鎧を操るすべての兵員……は少し難しいとしても、最低でも『優れた制御技能をもつ一般人のエリートパイロット』に扱える代物を創り出すことが出来なければ、私達は『軍部の予算を食いつぶして享楽に
たとえ最初は『私にしか扱えない』モノにしかならなかったとしても……それを研ぎ澄ましていくことで、いずれは一般兵でも扱えるものへと昇華させることは出来るかもしれない。
そのためには、私達には『一般人の機甲鎧制御技能者』のツテが必要なのであって。
……というかぶっちゃけ、この特務開発課において機甲鎧を動かせるのが、現在のところ私
つまるところ……試作した品を存分に試してくれるテスターが、足りないというかぶっちゃけ居ないわけでして。
「だから、ねっ? えっと……放課後、時間ある、とき……試作品、テスト、とか、あと……助言、あと、いろんな、おてつだい、とか……手助け、ほしい、のっ」
「ははぁーん、なぁるほどね! オーケー、オレは協力すんぜ! 何でも言ってくれ!」
「はぁ!? ちょ……エーヤ殿!?」
(ねえ!! 今なんでもって!!!)
――――どうどうファオ、ステイステイ。
「どうした? 同志イーダミフ。ファオちゃんから直々のお誘いだぜ? 聞かずには居られねぇっしょ!」
「いや、その…………何と言うか……」
「……それによ、我々の
「それは…………そうだが……」
ううむ、機甲鎧を動かせる人材につばつけて囲っておきたいと思い、二人に協力を要請してみたのだが……エーヤ先輩は協力を申し出てくれた一方で、イーダミフくんは乗り気じゃ無さそうだ。
やっぱり趣味とか、家庭の事情とか、色々あるのだろうか。なにも毎日顔を出せというわけじゃないし、時間のあるときに顔を出してくれればいいみたいな感じだし、シフトもお休みも希望に沿うような良心的な職場なんだけど……いまひとつ、踏ん切りがつかない様子。
ならば、仕方ないな。あまり濫用するのはよろしく無いだろうが……やむをえないので、我々の最終手段を行使させてもらうとしよう。
「…………あの……イーダミフ、さま」
「な、ォ゛ッ、」
「…………わたしたち、お願い……あります」
「ぐ、ぬぅ…………ッ!」
「…………どうか、お力を……お貸し、下さい」
「…………お願い、します……イーダミフ、さま」
「……ッ!! コレはいくら何でも卑怯だろうが! フィアテーア特課少尉!」
「ハハハッ! こりゃ確かにヤベェなぁ! 何て破壊力だよ!」
(ふふふふ、勝てばよかろうなのよ!)
――――うわあ、なんてひどい。イーダミフくんかわいそう。
(でもテアもおもしろがってるよね?)
――――うん。……あの二人には甘いからね、イーダミフくん。
こうして私と、あとシスとアウラのハチャメチャに可愛らしい『おねがい』の甲斐もあって、イーダミフくんは快く協力を表明してくれた。
これをもって……特空課と機甲課、それぞれの(ほぼ)トップの実力者を、実質的に巻き込むことに成功したわけで。
これから私ことファオ社長の手となり足となり、存分に働いてもらおうと思う。
それはもう、色々と。ウフフ。
――――――――――――――――――――
――――えっちな命令は駄目だからね。
(えっ!?!?)
――――いや、あの……なんでそんな『予想外』みたいな反応してるの? 駄目に決まってるでしょ、ファオもあのふたりも学生なんだから。退学処分とかされちゃうでしょ。
(………………し、知ってた、し?)
――――はいはいえっちえっち。
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