第37話 強化人間少女の群れがあらわれた!
私の身体はあちこちが欠損しており、それによって日常生活に不便を強いられる場面がある。
そのあたりまでの情報は、このへんに務める軍関係者のほとんどはご存知らしい。……まぁ見たまんまだもんな。
そんなわけで、私は日常的にジーナちゃんに介護してもらっているのだが、幸か不幸か私は士官クラス相当の肩書を得ることとなった。
それに伴い、今後は訓練や講義を欠席する可能性も出てくるといい、つまりは四六時中ジーナちゃんに介護してもらうことは難しくなってくるのだと。
ああ、どこかに『学校に通っておらず、いつもいつでもフィアテーア特課少尉に帯同でき、日常のお世話から
「…………こうして見ると、なんというか……不謹慎だが、とても映えるな。……そうは思わんか?」
「はっ。……関係性も良好のようで、安心しました」
昨日に引き続き訪れた『校長室』にて……私と、私の付き人2名は、きちっとした格好で『きをつけ』をしていた。
気になるその格好とは、私は士官学校の制服でもある軍服姿。そしてシスとアウラは、装飾をかなり簡略化させたシンプルな軍服である。
実用性というよりかは、小柄な着用者の魅力を引き立てるための、どちらかというと『着飾る』ための装い。腰をベルトできゅっと締めて、スカートと膝下ブーツが可愛らしさをアピールしている。
……どうやらこの制服、軍人そのものというよりかは『従者』的な者の服装であるらしい。いろんなお手伝いをする非戦闘員の人員、貴族の侍従とかそんな感じの子が身につけるためのもの。女の子用のものは着用者が少ないらしく、どうやら在庫があったようだ。
それを身に着けたシスおよびアウラの2人は、当面の間は私の『従者』として、一緒に過ごしてもらうこととなった。専属の美少女従者……とても、良い。そそる。
しかしながらこれは、断じて私の趣味百%ではない。一応は捕虜である2人の『飼い主』であり『ご主人さま』である私が、2人の様子を常にモニターできる立場でいることで、連邦国軍を安心させることができるのだろう。
私の日常生活を助けるためというよりかは、私に2人の監視をしてほしいと……そういう意図が見え隠れしている。
とはいえ私としても、その提案に異論は無い。なにせこの子らには、恐らく一般的な教育さえ施されていないのだ。
しかし幸いというべきか、日常生活および従軍に関する基本知識は叩き込まれているようなのだ。監督者である私と下手に分断するよりも、目の届く範囲に置き、少しずつ知識を吸収させていく方が良い。そう判断してもらえたらしい。
ヨツヤーエ連邦国のスタンスとしては、とてもありがたいことに彼女らの受け入れに対して積極的である。もしかすると打算的ななにかがあるのかもしれないが、だとしても実際にいろいろと良くしてもらっているのだ。そのことに変わりはない。
一方で、彼らの施しに対して私が返せることといえば、それこそ【グリフュス】を駆ることくらい。しかしそれが――帝国相手にしろ
そしてそんな『便利で有用な駒』である私達を使い続けようと考えるならば、良い印象を与えて飼い慣らしておいた方がいい。……そんな打算なのかもしれない。
だが、それで良いのだ。尻尾を振らなきゃならない相手がクソッタレ帝国だったなら吹き飛ばしてやっただろうが、ヨツヤーエ連邦国に使われるのなら、現状なにも不満はない。
私達と、私が面倒を見ることになった
「……では、そのように。一般候補生らに対しては……フィアテーア特課少尉のときと同様、2人は『戦災孤児』として布告する。……問題無いとは思うが、無闇に出身国を吹聴せぬようにな」
「はいっ。……あの、おへんじ」
「「……了解」」
まだちょっとぽやぽやしていて、浮世離れした印象の2人ではあるが……えっと、私と一緒に寝るくらいには、気を許してくれているらしいのだ。
私の言うことは何でも素直に聞いてくれるし、そもそも軍組織で使われてきただけあって、所作や立ち振る舞いなんかは身に付いている。突拍子もない行動で周囲を混乱させるような様子も、今のところは見られない。
これならば行動制限を設けずとも、(監督者が付いていれば)好きに出歩かせても問題ないだろう。カンダイナー部門長からも、そうお墨付きをいただくことができた。
胸元に付ける形の許可章も、きちんと2人分手配してもらうことが出来たので……これでばっちり、目的地へと行くことができるのだ。
――――――――――――――――――――
「う、うわァーー!! 教官ーー!! エナ教官ーーーー!!」
「あっ、えっと、あの、えっと、あの」
「「…………?」」
今しがた私達の姿を見た一般学生さんが、ものすごい形相で悲鳴を上げて走り去っていったここは……先日の一件では大変お世話になった、特空課のみなさんが多く過ごす建屋である。
予定外が続いた課外訓練、および実戦への参加を乗り越えた【ペンデュラム隊】の皆さんがこちらに居られるとのことで、私達は先日のお礼にと足を運んだ次第なのだが。
……えっと、いきなり悲鳴あげて逃げられるとは思わなかったので……なんというか、ちょっとだけ悲しい。
「…………あれっ? 天使ちゃん?」
「おー!? え、ウソ妹ちゃんも居るじゃん!」
「元気んなったのか! よかったねぇー!」
「あっ! あっ! せ……せんぱいっ! エーヤせんぱいっ!」
「ヴッ!」「は?」「おッ前……」
立ち尽くす私達を見かけて声を掛けてくれたのは、ペンデュラム隊として力を貸してくれたまさにそのひとたち。3番機に同乗したエーヤ・ツヤーネン先輩と、名前は知らないが私をいっぱいなでなでしてくれた方々だ。
一応とはいえ顔見知りの方々を見つけて私は嬉しかったのだが、なんだかエーヤ先輩は胸を押さえてうずくまってしまうし、他の先輩方はいきなりエーヤ先輩に殺意を向け始めるし、いったいどうしてしまったのだろう。
もしかして私のせいなのか、別の課のチビがいきなり馴れ馴れしく名前を呼んだので、エーヤ先輩のファンの方々が気分を害してしまったのだろうか。なんてこと、責任取れというのなら喜んで身体で払うので、遠慮なく言ってほしい。なんなら先輩たち3人まとめてでもいいよ。
「おーおーおーホントだ天使ちゃんじゃん! それに妹ちゃんらも! もう起きて大丈夫なん? ってかどしたん、そんな所で突っ立って。話聞くよ? てかせっかくだしお茶でもどう?」
「あっ、は、はいっ! よろこんでっ」
「あ! 良いっすね! 教官、自分らも一緒いいっすか? ちょうど消耗品チェック終えたんで!」
「しゃーねーな、今日だけだぞ? ……んじゃ悪いが、お前らは引き続き訓練機の動作確認だ。報告ご苦労」
「は、はいっ!」
私達を見て逃げていったひとは、どうやらエナ教官を呼びに行ってくれただけのようだ。戻ってきた彼は私と目が合うと、ちょっと微笑んで手を振ってくれた。……怖がられたわけじゃなくて、よかった。
「あの、え、と…………みなさん、いろいろと、ありがとうございましたっ!」
通していただいた特空課建屋内の応接室にて、私達は現在温かいお茶とマドレーヌのような焼き菓子を振る舞われ……いや、比喩じゃなく『お茶して』もらっている。
きちっと背筋を伸ばして、ぺこりとお辞儀をして、誠心誠意感謝の気持を述べる優等生の私の……その両隣。
そこには、もしかすると生まれて初めてになるのだろう嗜好品に夢中になり、外見相応に愛らしい必死さで口をもぐもぐさせている2人の姿。
これには私も、さすがに『めっ』など出来ようもない。
普段は感情を推し量りづらいその瞳を、こうも大きく見開いてもぐもぐしているのだ。お気に召しているのは明らかだろう。
……ちなみに、特空課の皆さん(というか一般生の前)に出るに当たって、シスとアウラの左目にはシックな眼帯を掛けてもらっている。
まだ幼気な彼女たちにとって、左まぶたを閉じっぱなしにするのは大変だろうし……かといって、少女の顔にどう見ても機械丸出しの(しかもほんのり光る!)眼球が埋め込まれているというのは、正直かなりショッキングな光景だろう。
ただでさえ属性の多いこの子たちに、更にもう一つプラスする羽目になるが……多くの人々の心の安寧のため、協力をお願いしている。
ちょっとだけ話は逸れたが……しかしこうして人畜無害に甘味を堪能している様子を目の当たりにして、特空課の皆さんも安心してくれたようだ。
エナ教官やエーヤ先輩など、行軍訓練に参加した面々には、彼女たちが先日の特務制御体だということは共有されている。あの場では得体の知れない機体を駆り、連邦国軍相手に猛威を振るっていた敵ではあったが……こうして無害化された姿を、お披露目しておきたかった。
彼らには本当に、色々と心配かけたからな。
この子たちがこうして無事に居られるのは、彼らが候補生の身でありながらも危険を顧みず、観測手として力を貸してくれたからなのだ。
「えっと、えっと…………私達、たくさん、助かりました。辺境基地で、【グリフュス】受領でき、ました、のと……この子たち、助けられ、できました。……ありがとう、ございます」
「いやいやいや……気にしないでくれ。ホント。我々にとっても得るものの多い訓練だったし、非常対応とはいえ実戦を経験させてやれたのもデカい。道中で
「「「それなーー!!」」」
「ほへえ」
朗らかに笑う特空課の面々は、決して私を安心させようと出まかせを口にしているのではない。彼らは本心から、いっさいの嘘偽り無く、『私に頼られて嬉しい』のだと言っているのだ。
……いや、その……私の容姿が可愛らしいことはよく知っているが、こうもまっすぐに褒められると……例の『天使ちゃん』呼びも相まって、ちょっとだけはずかしい。
しかし、あまり戸惑ってばかりも居られない。危うくいい感じに褒められて気持ちよくなって終わってしまいそうだったが……本題を忘れるわけにはいかない。きょう私は彼らに『お礼』をしにきたのだ。
「あ、あのっ! 私、お礼、したくって……来ました! 私に、できること、なら……なんでも、なんでも、えっと、なんでもしますっ!」
私の口から発せられた言葉の意味を、やがて理解したのだろう。特空課の皆さんはやんややんや言いながら撤回させようとしてきたが、ここで下がっては私の腹の虫が治まらない。あとえっちしたさも収まらない。
しかし実際、えっちなことは申し出てくれないのだろう。そこは仕方ないところではあるが……ならばやはり別の、何らかの形でお礼させてほしい。
そんな私の願いが、果たして通用したのだろうか。日頃からがんばる私に、神さまがご褒美をくれたとでも言うのだろうか。
やがて、私の説得を諦めた皆さんより告げられた『してほしいこと』とは……ある意味では私にとっても都合の良い、つまり私にとっても『やりたいこと』なのだった。
…………これ、もしかして『えっちしたい』って祈ってたら……ワンチャン願いを聞き届けてくれたのでは?
――――――――――――――――――――
――――それはないとおもうよ。
(そっかー……)
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