第36話 ゆうべはおたのしみしたかったですね
「……おはよう、ございます。ご主人さま」
「……ご主人さま。気分はどうですか。悲しくないですか」
「……………………だい、じょうぶ、です」
――――ほんとうは?
(少しも大丈夫じゃないです!!)
慣れ親しんだ女子寮の2人部屋ではなく、どこか年季の入った――しかし綺麗に管理清掃の行き届いた――士官用貸借物件の、一室。
私用に割り当てられた(はずの)部屋で、私ことファオ・フィアテーア特課少尉は、起きぬけに2人の白髪美少女によって襲撃を受けていた。……いや違うな、なんなら同じ寝床で寝ていた。
シスとアウラ、私と同じ真っ白な髪を持つ少女ではあるが、それは過酷な環境ゆえのストレスによるものだろう。とはいえ血の繋がらない私達だが、これのおかげで姉妹のようにも見える。……それはちょっとだけ嬉しい。
短めに整えられた……ショートボブというのだろうか。2人お揃いの髪型は左右のもみあげの部分だけがニュッと伸びており、これまた女の子っぽくて可愛らしい。
しかしながら、普及品の仮義眼な私とは異なり、彼女たちの左目には、未だに帝国製戦闘義眼が怪しい光を灯している。ぱっと見は普通の瞳のようにも見えるのだが……その発光は独特の機械っぽさというか、前世でいう『青信号』の色だ。
とはいえそれはもう、私達の『ハッキング』によって無害化されている。今となっては純粋に、彼女たちの視覚として助けになってくれることだろう。夜間灯とか地味に便利なんだよな、あれ。
髪型と、青緑色に光る左目はお揃いだが……きちんと人間らしい感情を垣間見せるようになった右目は、2人それぞれ異なる色。右目が黒茶色なのがシスで、赤橙色なのがアウラ。私も含めて白髪オッドアイの美少女3人組である。
……そんな可愛らしい2人と、どうして私が一夜を共にしていたのか。それには深い理由と深い悲しみがあるので……昨日からの私達の動きを、軽く振り返ってみようと思う。
昨日はコトロフ大尉に新居を案内してもらって、そのまま私物の移動やら必要物の調達やら、シスとアウラの生活必需品の受け取りなどを経て……まあ、木曜日はそれで終わってしまいまして。いやー決まってからが早かったね、びっくりだ。
もともと軍属の身ともなれば、そんなに私物を持っているわけじゃない。家具なんかは寮に備え付けなので、私達の引っ越しなんかカバン2つ3つで完了なレベルなのだ。
加えて、シスとアウラの必需品に関しては、なんと私のとき同様に基本的な品々は支給してもらった。……やっぱこの国すき。
そんなわけで、晴れて新居に移った私達。ファミリー向けの物件ということもあり、キッチンやバスルームも完備されているのだが……そのあたりの消耗品の類も、近いうちに用意しなければならないだろう。これでも少尉だからな。金ならあるんや。
また、転居したとはいえ元の女子寮からはそんなに離れておらず、寮の食堂や大浴場も引き続き使わせてもらえるらしい。私は調理とか絶望的なので、これは助かる。
それに……いつもお風呂でよくしてくれるお姉さま方と別れるのも嫌だったので、この距離感はかなり嬉しかった。毎日通うのは難しいかもしれないが、気が向いたときに『きもちい』してもらえるのだ。あわよくばその先までいってもらう日が待ち遠しい。
そんなわけで、つまりは生活環境も大きくは変わらんだろうと、私達はパパッと引っ越しを済ませ……その時点で既に日も暮れていたので、そのまま新居で軽く夕食を摂って、一夜を明かしたわけなのです。
そして……そこからでした。問題は。
生まれ(かわっ)て初めての、
真新しいシーツが張られた寝台に潜り込み、下履きを太もものあたりまでずり下ろし、
ついにこのときが来たのだと、意を決して真っ白な下着の中へと、器用さを強化された自慢の右手をすべり込ませ――――
『……ご主人さま、夜分にすみません。シスが参りました』
『……アウラです、ご主人さま。……もう、大丈夫です』
「え、えっ? えっ? えっ?」
控えめに部屋の戸をノックする音に我に返り、私は慌てて下履きを問題ない位置まで引き上げると、音を立てないように扉を開く。
こんな夜中にどうしたのかと問うてみれば……えっと、どうやら純度百%で『心配』してきてくれたようで。
部屋の中へと迎え入れた幼子2人は、感情のきらめきを取り戻しつつある右目と、青緑にほんのり光る左目をまっすぐ私に向けたかと思うと……怖がらなくて良いのだと――私が彼女らにそうしたように――そっと私を抱きしめ、背中を撫でさすってくれていた。
なんでも聞くところによると……私の部屋から微かに、押し殺したような
……嬉しいことに、私のことをかなり好いてくれているらしい特務制御体2名は……つまり、私が悪夢にうなされていたり、感情を押し殺して泣いていたりするんじゃないかと、私を安心させようと部屋を訪ねてきてくれたらしい。
ともすると無感情のようにも見える彼女らの、そんな温かく人間味にあふれる心遣いにこみ上げてくるものを感じながら……でもそれは今じゃないほうがありがたかったかなぁと私は必死に感情を落ち着かせる。
なんてったって今の私は、念願かなっておまたに手をクリティカルアプローチしたところであって、つまりは
なんなら今しがた幼いながらもバチクソ可愛らしい2人に抱きすくめられて優しく
「……ご主人さま。シスとアウラは、ご主人さまと共にあります。……わたしたちでは、ご主人さまの悲しいを、埋めることはむずかしい、理解しています」
「……でも……わたしたち、ご主人さまが泣いている、嫌悪感を
(…………あの、テア、たとえばだけど)
――――うぅーーん…………2人みたいな幼い子にえっちするのは、さすがにだめだとおもう。
(ですよねえ!! 私もそう思う!!)
――――わたしみたいに、歪に育ってきたから……なんていうのかな、愛情と『えっち』を同一に認識して、それで育っていくと……えっと、たいへんなことになるとおもう。
(好意を即えっちで表現しようとする儚げ白髪美少女とかヤバすぎだろ!!)
――――やばいね、軍の風紀がこわれちゃう。
肉体的な成長度合いで言えば、それこそドングリの背比べ程度とはいえ……前世のことを引き継いでいる私とは異なり、彼女たちは見たまんまの、いや見た目よりふたまわりは幼子なのだ。
試験管から生まれ、ヒトとして当たり前の愛情を注がれることなく、機動兵器を駆ることと、命令を遵守することのみを教え込まれてきた彼女たちは……私とは異なり、性的な知識もおそらく皆無であろう。
そのへんの教育は……えっと、コトロフ大尉とかにまた相談させてもらって、適切なひとを手配してもらうにしても。
とりあえず私が、私自身の性欲を満たすために無垢な2人を
そうして、私は中途半端なひとりえっちによって昂ぶった身体を慰めることも出来ず。
しかもやばいことに『一緒に居ます』『悲しくないように』と同衾を申し出た2人を追い返すことが出来ず、そのまま同じ寝床で朝を迎えたわけで。
……こんな経緯があって、冒頭のような『朝のあいさつ』を頂戴する羽目になったのだが。
「……ご主人さま、今日は何をしますか? シスは即応可能、命令を待機中です」
「……アウラも、命令を欲しています、ご主人さま。アウラは、何をしますか?」
「………………とりあえず、お風呂いってくる、ので……お部屋で、きがえて、待機」
「「……了解しました。ご主人さま」」
私にとっては、それはそれは過酷な一夜だったが……無表情に近い2人の頬がほんのり赤らんでいるのを見ることが出来たので、それでよかったと思うことにする。
それはそれとして……むらむらがおさまらないのは危険なので、お部屋の浴室のシャワーで軽くドーンしてこよう。
いや、ほんと軽くだから。ヤりすぎるとあの2人がまた聞きつけて乗り込んできそうだから。ちくしょうさすが特務制御体、耳よすぎだろ。
しかし……たとえ望まぬ力であったとしても、それが不幸のみをもたらすとは限らない。あの子たちのハイスペックっぷりを活かすも殺すも、今後の私達次第なのだ。
あの子らを『助けてあげた』なんて、傲慢に接するつもりなど無いが、彼女たちが今後幸せを掴めるかどうかは、私達の手腕次第なのだ。
私達が救われたこの国で、これからも……ちやほやなでなでしてもらいながら生きるためにも。
そしてそして……いつの日か、満足度の高いえっちに及ぶためにも。
いや満足度はそれなりだったとしても、とにかく思う存分、心ゆくまでえっちを楽しむためにも。
私達は、日々を一生懸命に満喫しなきゃならないのだ……が。
……とりあえずは、シャワーで
この子たちとうまくつきあいながら、私は自分の欲を満たさなきゃいけないわけで……んはー、これはいろいろとたいへんだぞ!
――――――――――――――――――――
なお幸いというか、ジーナちゃんには何も聞こえていなかった……というか、どうやら同衾そのものも気付かれずに済んだらしい。
…………よかった。
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