第60話 VIPエスコート系強化人間少女
私達も輜重課の遠征についていくぜ、エルマお姉さまといっしょに活躍するぜ、やるぜやるぜ私はやるぜ……などと意気込んでいた私の気持ちは、全く偽りないものだったけど。
まったく、どういう因果が作用したのだろうか。私達『チーム:ファオとかわいい仲間たち(※非公式呼称)』は、わずか四日目にして首都の基地へととんぼ返りを決め込むこととなった。
結局、エルマお姉さまとも会えずじまいだったし……こんな短期間でお勤め切り上げることになるとは、このファオの知能と叡智を持ってしても予測不可能だった。
――――ファオの
「おだまり。……今『ちのう』ってぜったいへんなニュアンスだったでしょ、わかるんだからね」
――――えっへへぇー。
派遣任務中断の理由、その最たるものとしては……大森林奥地にて地底都市を築く篤学者種族『シャウヤ』の交渉人を、ヨツヤーエ連邦国の上層部と繋ぐ必要が生じたため。
またその際、両者の関係性向上のための一手として『シャウヤ』に(いずれは)提供される(見込みの)試作型多機能輸送機材【エルト・カルディア】系列機……その管理製造元の訪問、ならびに見学を行うことを望まれたためだ。
なにぶん急な話ゆえ、順番やタイミングがどうなるかはギリギリまで不明、とのことだが……とりあえず私達がこうして首都目掛けて飛行している間も、関係各所は大慌てで準備を整えてくれているらしい。
そんなわけなので……ハンダーン大佐からは「絶対に全速力を出さないでくれ」「せめて昼くらいに着くように計らってくれ」とお願いされていた。
優秀でえらい子な私はその指示をきっちりと守り、こうして私以外のみんなが乗ってる【エルト・カルディア】と並んで、ゆっくりのんびりペースで首都を目指しているところだ。
――――まあ、短かったけど試験運用のデータは取れたし、最低限のテストはできたのかな。
「だといいけどね。……見た感じでは、特に腰の継ぎ目とかも問題なさそう」
――――
「とはいってもなあ、戦闘機動するとどうなっちゃうかは……さすがに未知数っていうか、不安が残るよなぁ」
首都への道すがら、私達は特務実験課へと提出するレポートを組み上げていく。
今回の遠征に特務実験機材【エルト・カルディア】を間に合わせたのは、安全な状況下で実働データを集めるためでもあるのだ。
主観にはなるが……この機材のポテンシャルは、非常に高いと言えるだろう。戦闘行動の評価こそ下せないが、戦闘部隊に帯同する後方支援機材としての利便性は、想像以上だった。
野生動物を気にせずに済む拠点の迅速な確保を可能とし、不整地や障害物を乗り越えていける踏破性と、露天繋留も含めかなりの量の資材を運べる輸送能力を併せ持ち、単独での通信ライン形成も可能。
もちろん相応にコストも嵩むだろうが……特に少人数の行動単位において、その拠点性能は非常に有用だと思う。
……実際のところ、シャウヤの方々にはそのあたりがウケたみたいだし。
――――あっ、通信きた。首都のほうから、わたし単体指定。お呼びだよ、ファオ。
「んえ? あっ、今後の指示かな。つないで」
――――はいはーい。
果たしてテアのいった通り、通信の内容とは先方からの『準備できました』の声であった。告げられた内容を纏めると、どうやら機甲鎧製造工廠の調達部門をはじめ、何名かのお偉方が集まってくれるようだ。
優れた魔法技術と、さまざまな物質知識を備えた、これまで付き合いのない種族と会えるとあって、先方もかなり期待してくれているらしい。
話し合いの場となる目的地をばっちり聞き出し、概算で到着時刻を告げて、こちらの通信はいったんオフに。
今度は僚機【エルト・カルディア】に通信を繋げ、機材を操るアウラと、そしてキャビンでくつろぐお客様に、簡単にかいつまんで説明する。
要するに……到着したらいきなり『商談』させてくださいね、ってことだ。移動続きで、フィーデスさんも疲れるんじゃないかと思ったのだが、どうやら要らぬ心配だったらしい。
≪アは何も、きょう一日でゼンブ決まるは思てナイヨ。きょうは目的は『ヨシャーエ』に『ハジメマシテ』するのと、アエらと『ヨロシク』するの
≪まー、なんだかんだフィーデスはちゃんと仕事スルヨ。イロウアとの商談、実績アルネ≫
≪それに、ヨシャーエのヒト、イロウアのネゴシエイターよりも話しやすいヨ。……なんていうかネ、居心地が良い、アエらを
≪アー……わかる気がするヨ。向けられる敵意、キライな感情、少ない……というか、ほぼナイネ。皆『ヨロシク』を願てくれてるヨ≫
もともと交渉事が得意というのもあったのだろうが、やはりそれ以上に『ヨツヤーエ連邦国のヒトが非常に善良で好意的』であったことが、大きくプラスに作用しているのだろう。……うん、私もそう思う。
国民性なのか、もしくはトップから末端に至るまで道徳教育が徹底されているのか……とにかく、連邦国の人々は『いいひと』揃いなのだ。
私の気のせいでないのなら……フィーデスさんも、そしてトゥリオさんも、この国と関係を結ぶことを喜んでくれているように思う。
――――シュト・コントロール航空管制圏内まで、あと100。降着指定エリア付近の揚力型航空機反応、該当なし。誘導信号、よし。
「いいペースかな。……テア、接地まで機体制御おねがいしていい? 私はアウラのフォロー入る」
――――まーかせて。
到着したら、きっと連邦国のえらいひとが難しいお話をするのだろうが、私達はあくまでも下っ端である。要するにタクシーとかリムジンの運転手みたいな、そんな感じの立場だ。
そのため国レベルのお話には同席せず、しかしこの後はシャウヤのおふたりを特務開発課へとお連れする役目があるので、お部屋の外で待機していることになる。
つまりは、ちょっとした小休憩がとれるわけなので……お客様をケガ無くお連れしたふたりをちゃんと労って、いっぱい『よしよし』してあげなきゃならないだろう。
……さて、あと少し。気合い入れていきますか。
――――――――――――――――――――
…………小休憩、のはずだったのだが。
「お、ッ……お疲れ様ですっ! フィアテーア特課少尉どの!」
「あっ、えっと……はいっ。おつかれさま、ですっ」
「フィアテーア特課少尉どの! 特別任務、大変お疲れ様でありますっ!」
「えっ? あっ、えっと……ありがと、ございます」
「ふぃ、ふぃ、フィアテーア特課少尉殿ッ! あの、宜しければ今晩お食事でモ゛ッ!? 痛い! アッ嘘! うそです! おま、やめっ……痛い痛い痛い!」
「…………? えっと……おだいじ、に?」
――――あらあ……すっごい『もてもて』だね?
(え、モテてるのこれ??)
――――そうじゃない? 最後のひととか、めっちゃ殴られてたじゃん。あのひとも殴ってたひとも、みんなファオと『おちかづきしたい』のひとだよ。
(ぽへぇーー)
先ほどフィーデスさんとトゥリオさんが入っていき、今まさに大事な大事なお話が行われている応接室。その手前の廊下ホールにて、お行儀よく椅子に腰掛けて待機していた私達。
このあたりの、いわゆる政務関連区画に来るのは初めてなので、知り合いとかは居ないと思うのだが……先程からなんか、とてもよく話しかけられるのだ。
ここに出入りできているということは、彼らはヨツヤーエ連邦国軍の中でも……なんていうか、立場でいうと上の方なのだろう。幹部とか幕僚とか、よくわからないけどそういう方々なのかもしれない。
そんな『えらい』層である方々、しかし先程から私に声を掛けてくるのは、どちらかというと若いひとが多いようだ。
最初のほうは『得体の知れない真っ白頭の集団を牽制しているのだろうか』などと思っていたが……どうやらテアの観察によると、
……いや、でも……ふつうに挨拶されて、ふつうにお返事しただけだよ。最後のひとは何か同僚にぼこぼこにされてたけど……そんなに私と『おちかづき』したいものなのだろうか。
私は内心で首を傾げつつ、しかし現実にはお行儀よく背筋を伸ばして腰掛け、隣に腰掛けるシスの『なでなで』を継続する。
――――前もいったとおもうけど……イーダくんと模擬戦してからかな? ファオはいま、とても注目されてるの。
(うん、それは聞いた気がする、んだけど……でもさ、エーヤ先輩とかも技量すごかったじゃん。それに比べたら私そんなに……微妙じゃない?)
――――制御技量だけじゃなくてね、新機軸の特殊機動理論とか、あと新しい開発部門の設立とか……内緒のおはなしだけど、ケンロー基地での帝国軍迎撃とか、いっぱいの評価があるの。
(あぁそっか、ここの人は
――――そうとおもうよ。それに加えて、今回のこれでしょ? ファオはいろいろと話題性ばっちりだし、いい子だし、あとかわいいし、だけど『だんなさま』いないし……だからね、将来的にって
(うーん、それってつまり『結婚を前提に』ってやつでしょ? …………えっちはしたいけど、でも恋人とかはなぁ、べつになぁ……)
――――うぅん、相変わらず無慈悲。
……とにかく、私達に注がれる視線の謎に関しては理解できた。
はっきりいってあんまり実感湧かないが……いい子でかわいくて将来有望な私とお付き合いしたいと、そう考えている男の人がそこそこいるのだと。
しかし――私としても悩みに悩んだのだが――私の見た目は残念ながら、どうあがいても未成年である。未成年がえっちしたら、たぶん軍規的な何かで罰せられてしまう。
少なくとも士官学校を卒業するまでは、えっちや色恋沙汰はおあずけするべきだろうと……将来のエリートコースを目指す私は、そう考えている。
肝心のえっちのほうについても、じつは光明は見えてきてたりする。というのも私ことフィアテーア特課少尉、軍のほうから正式に『お賃金』を頂ける立場になっているからだ。
つまりは……以前、中心街に繰り出したときに画策した『よさげなホテルにソロステイしてソロプレイ』作戦、こちらを実行する予算の確保に成功したというわけなのだ。
……まあ、さしあたって最大の問題としては……なかなかフリーで動けるお休みが取れない、という点なのだが。
最近は特務開発課に入り浸りだし、病院からは義眼と義肢の調整と身体検査の案内も届いてたし……あといい加減に普段使いの服とかも買いに行きたい。
あぁ、休日が……休日が足りない。べつに『休みたい』ってわけじゃないんだけど、すきなことしたり自由に動ける日がほしい。
――――おねだりしてみたら?
(ぽぇ?)
――――だって、いちおうだけど『しゅっちょー』でしょ? 今回の。ファオは疲れることしてるんだし、あと子どもなんだし……お休みおねだりしても、べつにおこられないとおもうよ。
(………………なるほどぉ)
言われてみれば確かに……特に『部屋着とか普段着とか日用品を買いたい』だとか『病院に行きたい』なんかのあたりは、休日を求める理由として充分通用しそうである。
私自身、今回シャウヤの方々をお連れした貢献度は、けっして低くはないと踏んでいる。可能性としては期待できるだろう。
……まあ、そのためにも……まずは。
「……ごめ、なさい。……お客様、私達、おシゴト、なので……そろそろ――」
「はっ!! 失礼致しました! 特課少尉どの!」
「んっ。…………お気持ち、ありがと……ござぃ、ますっ」
「「「「ヴッ!!!」」」」
――――やだぁ悪女。
(なんでよ!? こんなに善良なのに!)
椅子から『ひょい』と降りて、制服を軽くはたいてシワを伸ばし、右手一本で身だしなみを整える。
せいいっぱい背筋を伸ばして『ぴしっ』と姿勢を整えれば……観音開きの重厚な扉が開き、ニコニコ顔のフィーデスさんとトゥリオさんが姿を現す。
…………うん、どうやら『商談』は上手く行ったようだ。これで食糧や嗜好品の継続的な取引が纏まり……つまり
ならば次は、満を持して私達の番だ。私のロマンあふれる野望を叶えるため、ぜひとも協力関係を取り付けたいものだ。
さて、それでは……私達の『ひみつきち』へと、お客様をお連れするとしよう。
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