第61話 合縁奇縁一期一会




「ウーン、出来ないはナイ思うが……なんとまあ、突飛なことを考えつくネ、ファオは」


「アは面白い思うヨ、嵩張かさばる武器を持ち運ばなくて済むネ。とても興味深い、あとなんかカッコイイ思ウヨ」


「えへへー」





 さてさて、場所を移してところ変わって、現在私達は士官学校近くの『ひみつきち』へ……私が代表を務める(という形になっている)特務開発課へと戻ってきている。

 私達の【グリフュス】ならびに【エルト・カルディア】も、今は広々とした格納庫の中でお行儀よく駐機体勢だ。


 そしてまあ、シャウヤの方々に輸出するブツに関するお話は、技術主任が用意してくれたプレゼン資料もあって、非常にあっさりと進んでいった。

 結論だけを述べると……多脚輸送機材【マムートス】と空戦型機甲鎧【ウルラ】をガッチャンコさせる形で、試作機で得られたデータも活かして新型機を製造。複数生産される予定であるというを輸出する形になるらしい。


 空戦型の浮遊グラビティ機関ドライブを組み込むことで空中行動を可能とし、また【ウルラ】の胸郭部を用いた上半身部分にも人員や資材を搭載可能、そして【エルト・カルディア】にならった下半身キャビンスペース(折り畳み寝台ベッド、ギャレー、ラバトリー付)を備える。

 この仕様であれば、シャウヤの方々の需要をバッチリ満たせるはずだ。


 ……また、ハンダーン大佐からちゃっかり発注されていた【兵站輜重仕様】に関しては、上半身部分の【ウルラ】背部に通信魔道具を搭載、下半身部分は【マムートス】自慢の大型カーゴ仕様のものを納入予定だという。

 ちょっと予想外だったが……わが社特務開発課の製品を採用いただけたことは、社長代表者としても嬉しい限りだ。



 そんなわけで、シャウヤの求めるものを提供できる見込みが立ったことで……晴れて私達の求めるものを提示できることとなったわけで。

 満を持して私の野望ビームサー◯ルの概念を提示してみたところ……なんと『出来ないことはない』との評価を頂けたのだ!




「光条魔法の効果発揮距離を近めに設定、継続照射に比重を置くは可能ネ。収束されタ光条魔法は空間を揺さぶり、反発の力場を生じるヨ。対象を斬り飛ばすも可能と思うネ」


「おぉーー…………」



 いわく……これまでも光条魔法を用いた斬撃は、無いわけではなかったと。

 もっともそれは『魔法杖の先端から照射した光条魔法で薙ぎ払った』とかそういう形であったらしく、刀剣サーベル状に纏めての剣戟では無かったようだが……理論上は恐らく転用可能だろう、とのこと。


 魔法そのものの基幹部分は既に存在しているので、あとはその有効範囲や魔力効率を変えて検証していけば良い。

 そうして基礎理論が確立したら、それを機甲鎧サイズに再設計すれば……ついに待望の『ビーム◯ーベル』の完成、というわけだ。



 ……なのだが。これは、どちらかというと。




(ビーム◯ーベル、っていうよりは……ライトセー◯ーだよなぁ、光条魔法っていってたし)


――――えっ、な、なに? だめなの?


(いやぜんぜん。ダメじゃないし……うん、当初の目的とも合致してる。大丈夫だよ)


――――小型で軽量で、空中でも取り回しがよくて、威力の高い近接武器……ってやつ?


(そうそう。いやー、画期的なのでは?)


――――わかんない、けど……うまくいくといいね。


(…………うん、そうだね)




 荷電粒子を束ねて力場に閉じ込めるパターンではなく、プラズマを発するほどに集束高圧化された光条レーザーを用いた、近接攻撃用の光学兵装。

 私が意図した『ビーム』ではないが、役割としては間違いなく私が望んだものである。


 すなわち……小型軽量で、取り回しに優れ、大きな破壊力を秘める装備。

 『当たる距離から銃撃ったほうが破壊力高いじゃん』という世論に真っ向から食って掛かるための、私の反骨精神(とあふれるロマン)の結晶だ。




「なーるほどネ、確かにヤウアアナタたち『ヒュモル』は腕もヤワいし爪もちいちゃいネ。近いの距離で戦うは、強い武具を必要スル、理解スルヨ」


「フィーデス、アも気にナルヨ。ファオには別のモノ渡して、アエらワタシたちも一枚噛んでおくべきネ」


「…………武具に関スルは、副兵団長オプティオスの感覚を信じるヨ。……そういうワケね、ファオ。悪イが、アエらワタシたちも成果をホシイネ。勿論、協力は惜しまナイヨ」


「お…………おぉー、すごい、共同研究、ってやつ……ですか?」


「ンフフー。……そうネ、ヤウアアナタたち『ヨシャーエ』とアエらワタシたち『シャウヤ』の、共同研究。きっと楽しいコトにナルヨ。……どうネ?」


「あっ、は、はいっ! ぜひ!」



 同席していた技術主任も、設計担当や魔法回路の担当者も、みんながみんな乗り気だったこともあり、私は二つ返事でフィーデスさんの提案を受け入れる。

 彼女ら『シャウヤ』を迎え入れるだなんて、そんなことが可能なのか……とも思っていたのだが、どうやら既に帝国とはでいるらしい。なんていやらしい。


 魔力アルムス豊富な大森林深部ではなく、イードクア帝国の研究部署に所属し、そこに居を据えて研究知的好奇心行う満たす『シャウヤ』の民。

 彼女らが積極的に関わっているため、帝国の特務機はああも変態……いや、奇妙…………もとい、独創的でたいへんたいへんな機構を備えたものが多いのだろう。



――――わたしが変態だって言いたいの!?


(ち、ちがうよ! うんち帝国の技術者連中が変態だって言いたいの!)


――――そんなこと言って、ほんとはわたしのこと変態って思ってるんでしょ! わたしのことけーべつしてるんでしょ!


(軽蔑なんてしてたら一緒に帝国脱走してこんなとこで一緒に日常を楽しんでるわけないじゃん)


――――………………。


(………………)


――――えへー。


(えへへー)



「では、良いカ?」


「あっ、はいっ」


――――ばっちこーい。




 私達……というか私にとって幸運なことに、私の持ち込んだ研究テーマ『光学式ビーム近接兵装サーベ◯』に対して、トゥリオさんがかなりの興味を示してくれた。

 それに引っ張られる形で、幸運かつ光栄なことに、この分野に関して『シャウヤ』陣営と共同での研究ができることとなった。


 既に帝国側で研究知的好奇心行っ満たしている方々と同じように、生活拠点をシュトに移して『住み込み』での研究生活。しかも例のブツが供与されれば、大森林深部の『キャストラム』との行き来も容易になるだろう。

 バチクソ面倒な『大森林の突破』をせずに済むとなれば、異国の民との共同研究に興味を抱く者も多いのではないか……とは、フィーデスさんの談である。



 ……そんなわけで。

 少々突発的ではあったが……諸々の摺り合わせも無事に済み、今後の方針もかなり具体的に纏めることが出来、第一回目の『商談』は双方にとって理想的な形で幕を閉じることとなった。

 今回は私達、というか【エルト・カルディア】でお送りするとして……そこからしばらくは、双方『準備』の期間となる。

 今後は輸出用の【量産型多目的複合機材】を建造しながら、一方では『光学式ビー◯近接兵装サーベル』の共同研究、というかヨツヤーエ連邦国への留学希望者を募りながら、第二回目の『商談』を待つ形となる。



 お客様の移動にせよ、商材の輸送にせよ、結局のところ全ては我々の【量産型多目的複合機材】完成に掛かっているわけで……つまりかなりのプレッシャーとなってしまうわけなのだが。

 格納庫ひとつ程度のちっぽけな会社開発課のがんばりに、連邦国上層部(と兵站輜重部門)とシャウヤの民の期待が『これでもか』と注がれているわけだが。


 書面で表されずとも、言葉にして告げられずとも、「【量産型多目的複合機材】が完成すれば取引開始できるんだけどなー(チラッチラッ)」という、なんともいたたまれない空気に晒され続けるわけなのだが。





――――やべー、『ですまーち』だよ、これ。


(や……やべー! やべー!!)




 …………えっと、まあ、その……うん。

 なんというか、結局は私の思いつきのせいで皆が大変なことになったというか……つまりは私のせいで、皆が無条件で修羅場にぶち込まれてしまったわけですが。


 えっと、えーっと……従業員スタッフの皆様におかれましては、くれぐれも無理せずに、安全第一で頑張ってほしい。


 慰労とか、おてつだいとか、肩たたきとか……社長にできることがあれば、何でもするからね。

 だからゆるして。おねがい。



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