第6話 現実はゲームよりも奇なり
名目上は『指示を反故にした
参列者達の意見を纏め、
その命令とはしかし、私達の自由を奪うものなどではなく……ひどくあっさりとしたもの。
『位置情報発信器の着用』と、『活動時の監督者同伴』。それだけだ。
ただ軟禁部屋に閉じ込める限りならば、位置情報など知らせる必要もない。
最初から自由を奪うつもりならば、活動時に監視を付ける必要など無い。
つまり……下された『命令』の裏を返すならば、ずばり『条件付きでの自由行動を認める』ということにほかならないのだ。
(うおおおおお)
――――おー。やったね、ファオ。
(やったー! 活動許可やったー!)
――――ふふ。
ペンダントタイプの発信器の着用を指示されていたり、どこかへ行く際には見張りの同行を求められたり、いろいろと制限は少なくないが。
しかしそれでも……あの軟禁部屋から大手を振って外に出られるということ、自由に動き回れることは事実なのであり。
つまりは多くの男性兵士たちと接触する機会を得られたことに変わりないわけで。
要するに、フラグを建てまくれるチャンスなのだ。
――――じゃあファオ、ちゃんとお姉さんの言うこと聞くんだよ。
(子ども扱いしないでよテア。私は大丈夫だから……
――――おっけー。まかせて。
かくして、私は女性兵士のひとり――例の顔が怖い隊長さんトコの部下らしい――を
施設内をうろつく許可を得たとはいえ、所詮は捕虜に毛が生えた程度だ。身の程を弁える必要はあるだろうし、私としてもいたずらに好感度を下げるつもりはない。
重要施設や機密の多いエリアには近付かず、また迷惑をかけない立ち回りが必要なことは、言うまでもないだろう。
重ねてになるが……私の短期行動指針として、『私に対する好感度を上げる』が最重要ファクターとして掲げられている。
愛らしい少女が好感度を上げるのは、そりゃ当然ながら一般男性が試みるよりも難易度は低いだろう。可愛らしい少女が真摯に健気にがんばる様を見せつけてやれば、それだけで周囲の好感度は鰻登り間違いなしだ。
とはいえ、
しかし例の隊長はじめこの基地の面々は、私達を庇護する対象と見定めているらしい。面と向かって出撃命令など下すまい。
勿論先刻のように、強引に
しかし、その必要は無いだろう。わざわざ彼らの心証を害するつもりは無いし、手札は伏せておくに越したことは無い。
なので、当面の間は
(…………めっちゃ見られてるなぁ。……まぁ見てもらうために練り歩いてるんだけども)
女性兵士に
それによる目的とは、大きく分けて2つ。単純に基地内の構造、施設配置(や機密レベルの高いエリア)を理解することと……多くの兵士達に私の姿を見せ付けることだ。
私にどの程度の『自由』を与えるつもりなのかは判らないが、さすがに将官クラスの権限があるはずもない。むしろ下から数えたほうが早い……いや、まず間違いなく最低レベルの権限だろう。
基地施設ともなれば、当然『許されていないこと』『入ってはいけない場所』があるわけで、そういったエリアに近付いた際には
そうやって
また同時に、そうやって女性兵士の言いつけを守っている私の様子を、多くの人目に晒すこと。それによって私が従順であるということを、周囲に印象付ける。
男ばかりの基地の中に現れた、見目麗しく神秘的な美少女……しかもいい子で大人しくて、自らの境遇に腐らず精力的に動こうとしている。しかも危地にあった補給部隊を救ってくれたという。
……うむ、完璧だな。私の好感度フィーバー待ったなしだろう。
あとはここに加えて……健気にも『お手伝い』を望んだりしてみれば、とりあえず『愛されキャラ』の実績解除は堅いだろう。
(しかし、お手伝い……やっぱりまずはアルバイトの定番、食堂か? 看板娘の座を得られれば効果は見込め…………いや待てよ、看板娘なら購買部門もアリか? 会計なら距離も近いし言葉も交わせ…………会話かぁ〜無理だよなぁ〜)
――――ねえファオ、モノ運んだりもむりだよね。左手ないなったから。
(そうじゃん…………嘘、私役に立たなさ過ぎ?)
――――だいじょうぶ。きっと何かあるよ、ファオにできること。
(…………たとえば? なにか思いつく?)
――――あー、わたしは情報処理にいそがしいなったから、ちょっと集中するね。ファオもがんばって。
(テア!? ちょっと!!)
見張り役の女性兵士に食堂の説明を受けながら、私はテアへと応答要請を発し続ける。
弱体化しまくった表情筋のおかげで、周囲に私の内心を気取られることは無かっただろうが、はっきりいって平静を欠いている自覚はある。
つい前世のノリで、軽い気持ちで『お手伝いで好感度を』などと画策してみたものの……落ち着いて考えるまでもなく、今の私は片目と片手の機能を喪っている状態である。
身体の重心バランスも悪いし、遠近感や距離感も掴みづらい。右手だけでは掴めるモノも、出来る作業も極めて少ない。
給仕の真似事も、品出しやレジ打ちなんかも、戦力と見做されることは無いだろう。
仕事の能率は人並みに程遠く、とても『お手伝い』ができるレベルではない。
加えてトドメを刺すように……私はハッキリ言って、非常に口下手のコミュ障である。こと他者が存在する場において、明瞭な言葉を発せられる自信が無い。
雑務や軽作業も出来ず、他人とろくにコミュニケーションも図れない。
そんな私が、彼らと打ち解ける方法など……出来る『お手伝い』など、ハッキリ言って存在しないだろう。
それこそ、別ベクトルで『身体を使って』働くことが出来れば
いやぶっちゃけ
私の見た目が
どうするか。こりゃ完全に詰みか。
私に出来る『お手伝い』が存在せず、言葉を用いての『会話』すらままならないというのなら。
私にできることは……彼らの無事をひっそり祈ることくらいだろうか。
しかしそれではぶっちゃけさすがに、貢献度が低すぎる。私の好感度を高めるなど、夢のまた夢だろう。
(…………ん? ……待てよ?)
軽作業は絶望的。また会話によるコミュニケーションも絶望的。
こんな状況からでも、しかし『好感度を上げる』ことが……できるかもしれない。
いや、私になら
…………ちょっと、いや……それなりに準備をすれば。たぶん。
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