第49話 まあキャンプとは言ったけど




 ヨツヤーエ連邦国の内陸部、首都『シュト・ヤ・ネーンデ』から西南西の方向へ、陸路にてぞろぞろと進むこと……およそ一日。

 今朝かなり早い時間に出発した私達『特別資源回収遠征』キャラバン御一行は、陽の沈む直前くらいになってようやく『ヨーベヤ大森林』の入口、そこに築かれた拠点集落へと辿り着いていた。


 それなりに危険に溢れ、しかしそれなり以上の恩恵が得られるという、このヨーベヤ大森林。危険を冒してでもリターンを求めようとする者は後を絶たず……そこでの採集活動を少しでも効率よく行えるようにと、まるで砦のような拠点が築かれているのだという。



 首都の基地よりかは幾分か簡略化されているが、主に民間の機甲鎧や重機が入るための整備ドックはもちろんのこと、各種収穫物の取引所や、巨大な木材加工設備や、各種人員滞在用の宿や食堂、果ては商店や浴場や娼館まで。

 そこかしこを頑丈そうな鋼材で固められた、まるで『砦』のように堅牢な造りの町並み。陽はもう落ちているのに賑やかなここは……多くの人々の行き交う立派な『開拓村』として、大森林の恵みを享受する拠点として、立派に機能しているのだ。



 そんな開拓村……もとい『エマーテ砦』の、ぐるりと周囲を囲む防護柵の外側、開けた空き地部分。そこでは現在ヨツヤーエ連邦国正規軍ならびにカーヘウ・クーコ士官学校輜重課の面々が、せっせと野営陣地を築いていた。

 エマーテ砦内の施設は、同行する民間業者が使えるように……との配慮なのだろう。自分たちの滞在する拠点は自分たちで用意するよと、どうやらそういうことらしい。

 ……そういえば『野営地の設営も訓練』とか言ってたもんな、エルマお姉さまは。


 輜重課の操る多脚輸送機材、ならびに重作業用機甲鎧【エリアカ】が行き来し、せっせと設営が進められていく。

 さすがに彼らも慣れたものなのだろう、空き地だったエリアにはみるみるうちにテントが建ち並び、一気に『野営地』といった雰囲気に移ろいでいく。



 そんな様子を眺めながら、私達【グリフュス】とその僚機【8号改エルト・カルディア】は、野営地の片隅に『ちょこん』と駐機。それぞれ機体を降着状態で固定すれば、あっという間に野営の支度が完了する。

 【8号改エルト・カルディア】の下半身、私達のために誂えられた『ひみつきちキャビンスペース』の内部には……簡易シャワーも小型トイレもミニキッチンも、そのまま使える状態で備わっているのだ。


 これは私の部下にあたる技術スタッフの方々が、幼いシスやアウラが出先で困らないようにと、寝る間を惜しんで丹精込めてセッティングしてくれたのだという。……いや、まじでありがたい。

 おかげで私達は大変な作業を行う必要もなく、ただ【8号改エルト・カルディア】を『おすわり』させるだけで、こうして快適なベースキャンプを設営することが出来るのだ。




「えっと、えっと……じゃあ、明日から、の、私達の、オシゴト。確認、しますっ」


「……は、ぃ」「……はいっ」


――――きゃんぷ、きゃんぷ。たのしみー。



 私達専用の『ひみつきち』内部、中央付近に据え付けられたテーブルを取り囲み、私と(テアと)シスとアウラは翌日からの『うちあわせ』を開始する。

 今回は自分たちだけでなく、輜重課や軍部の方々、更には外部の方々も帯同しているので、私達のポンコツで迷惑を掛けるわけにはいかないのだ。


 積極的にこなすべきノルマは特に設定されていないが、その分『いざ』というときにバッチリ働いて見せる必要がある。

 とはいえ想定され得るは、私とテアであれば問題ないオシゴトでしかない。確かにヨーベヤ大森林は【魔物モンステロ】の巣窟ではあるが……奴らとて機甲鎧とそれを操るヒトの群れの厄介さは、身に沁みて理解しているはずだ。

 これほど大規模の集団ともなれば、進んで近付いてくることはほぼ無いと思われる。適切に威嚇さえしておけば接敵は控えられるだろうし、まさかこんなところで大規模戦闘なんか勃発しないだろう。



「……と、いうわけで……わたしたち、周囲を警戒。……危険、を……えっと、未然に防ぐ。危ない、が、近づいたら、共有。そして……除去。……いい?」


「……はいっ」「……は、ぃ」


「あと……スタック、とか、頓挫、とか……うごけなくなった、機材。……もちあげて、復旧。……いい?」


「……はいっ」「……は、ぃ」


「ん……ふたりとも、かしこい。いいこ、いいこ」



――――ねぇねぇファオ、『てんと』はいいけど、はやく『たきび』とかやらないの? 『はんごー』は? キャンプでしょ?


(キャンプってそういうキャンプじゃないんだよ。拠点とか、野営地とか、そういう意味)


――――えっ? ………………えっ?


(……………………えっ? まって、なの?)


――――そ、そんな……たきびが……はんもっくが…………わたしの、ゆったりキャンプが……。


(こ、今度いこっか。【エルト・カルディア】借りて……ねっ? みんなでゆったりキャンプ。……ねっ?)


――――うん…………いくぅ。



 めそめそと落ち込んだ感情を滲ませてくる可愛い相棒をなだめながら、私は妹分ふたりへ今回のオシゴトについて、必要となる情報を共有していく。

 機甲鎧を普段遣いすることは難しかろうが、キャンピングカー……もとい『搬送機材』ならば、多少は許可の敷居も下がるだろう。なんなら『屋外評価試験』とかの名目を取り付けてもいい。……まぁともあれ、それはまた今度だ。


 今回の遠征では、バチバチの純戦闘用機甲鎧である【グリフュス】と、少々特殊な出自の輸送機材【エルト・カルディア】が、連邦国軍の一員として参画している。

 幸いなことに2機とも浮遊グラビティ機関ドライブ搭載機、かつ頭部ユニットは特務機由来、高精度感覚素子と高い情報処理性能を備えているのだ。

 遠くまで見渡せる上空からの索敵任務は、まさに私達に『もってこい』といえる任務だろう。私達はもちろんとして、非武装の機材を駆るアウラにも、充分すぎる活躍が期待できるだろう。


 尤も、アウラの【エルト・カルディア】は諸般の事情により、脅威の排除に直接当たることは出来ない。

 しかしそこは搭載した通信魔道具を用いて、帯同する連邦国軍の方々に対処を要請すれば良いだろうし……そうでなくとも、最悪私が対処できる。



 とにかく、私達は上方監視者づらをしながら周囲を見回し、ヤバそうなやつがいたらすぐさま報告、ならびに対処。魔境での素材回収に臨むキャラバンを危険から守ればよい、というわけだ。

 その他『不測の事態に協力を要請する可能性もある』とは聞いているが、まぁそのときはそのときの指示に従えば良い。



「……まあ……そんな、かんじ。……わかった?」


「……はいっ」「……は、ぃ」


「ん。…………いいこ、いいこ」



 オシゴト中の配置としては……まぁ【グリフュス】には当然、私達。役割は周辺警戒と、敵性存在の迅速な排除だろう。

 一方の【エルト・カルディア】は、アウラが機材制御を担当。シスは機材下半身にあたる多脚輸送機材部分、助手席にあたるセカンドシートにて、がんばるアウラのお手伝いだ。

 こちらの仲良し二人組は、索敵補助と通信展開を請け負ってもらう。豊富な魔力と制御技術を備えた我々であれば、それらの役割を果たすことなど造作もないだろう。



 ……つまりは、懸念などほぼ無いわけであって。

 私達であれば、問題なくオシゴトをこなしてしまえるわけで。


 連邦国軍からも『今日はもう休んでいいよ』の指示が出たので、私達は翌日からの勤務に備えるべく、和気あいあいと晩ごはんを摂取。

 その後はキャビン内のベッドを展開し……あとは寝るだけ、だったの、だが。




――――ファオ、わかってるね? えっちはダメだからね?


(ぐおーーッ!! ぬおーーーッ!!)



 このキャビンは少休憩だけじゃなく、夜間の睡眠もバッチリ取れるようにと、壁面には収容人数それぞれの簡易寝台が用意されているのだが

 ……どういうわけか、シスとアウラは壁面の折りたたみ寝台、ソファを変形させた私の寝台へと潜り込んできているわけで。


 小さくて、すべすべで、滑らかで、温かなふたりが……左右から挟み込むように、私の身体に擦り寄ってきているのであって。



「……アウラ……もうちょっと、奥に」


「……シス、だめ。……ご主人さま、くるしそう」


「んやっ!? だ、大丈夫! 私はくるしくない、から!」


「……ごめ、なさい……ご主人さま」


「……あり、がとう……ご主人さま」



(ぬおーーッ!! ふぉぉーーーッ!!)


――――ふつうに『かわいい』してあげてね? ふたりにえっちなことはダメだからね?


(なんでこんなすべすべでやわらかいの? なんでこんないいにおいするの? なんで私はえっちできないの?)


――――ファオが『いいこ』だからかなぁ。


(ぬわーーーーん!!)




 明日からは軍のオシゴトなので、つまりはしっかり休養を取っておかなきゃならないわけなのだが。

 でグッスリすやすや安眠を得ることなんて、私には少々難易度が高いと言わざるをえないわけで。


 …………えっと、やっぱり明日『おやすみ』にしてもらうことって……だめ、かな?






――――――――――――――――――――





――――だめだよ。


(しってた!! ぬわーーーん!!)



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