第48話 前線管制機兼あんしんシェルター




 改めてになるが……このファンタジーみ溢れる世界においても、機甲鎧以外の戦闘用機材は数多く存在する。

 むしろ純粋な数で言えば、機甲鎧はどちらかというと少数の部類なのだろう。部隊の『主力』を成す戦闘用機材は、他にも存在しているのだ。


 私の生きた前世にあったような、揚力効果を利用した航空機――各種輸送機や対地攻撃機など――をはじめ、堅牢な装甲と強力な攻撃装備を積んだ戦車のような陸上機材、果ては水上用の船舶に至るまで。

 例のファンタジック動力機関を用いた各種戦略機材は、私にとって見覚えのある形もチラホラ見られるが……やはりというか、特徴的な進化を遂げているものも多い。


 今回【8Skエルシュルキ】の改修作業に用いられた機材も、そんな『特徴的な進化』を遂げた、この世界ならではの機材のようだ。




「仮称【8号改エルト・カルディア】ですが、機体……ああいえ、そのものはご覧の有様ですので、お世辞にも『完璧』とは言えません。しかし、フィアテーア特課少尉殿のような特異、あぁいえ……変態的……いえ、その…………極端な機体運動を行うでもなければ、計算上は強度に問題ない……ハズ、です」


「……ご主人さま。……機材後部、輸送貨物室……わたしたちも、確認、見ました。……ご主人さま、気にいる……思い、ます」


「……わたしも同意……ただ、兵装、ほぼ無いです、ので……ご主人さまに、守ってもらう、必要あり……申し訳ない、です」


「ぜんぜん! 私がめっちゃ守る、から! 大丈夫! まかせて!」



――――わたしもいるよ。


(んへへ、ありがとテア)



 私達の見つめる目の前、昨今の突貫工事にて【8Skエルシュルキ】の残骸と接ぎ合わされていたものとは……ヨツヤーエ連邦国の陸軍で広く用いられる汎用輸送機材、その形状をわかりやすく説明すると『六本脚の兵員輸送車輌』である。

 ……まぁもっとも、その移動には車輪ではなく六本の脚を用いているので、定義的には『車輌』ではないのだろうが。

 ともあれ、どこからともなく回してもらったらしいこちらの資材……なんでも主砲塔部分がゴッソリ損壊していたため、修繕作業を後回しにされていたとのこと。そこを私の部下である技術班員に『ちょうどいいや』と目をつけられ、こうしての材料にされたのだという。


 四肢と動力部を欠損していた【8Skエルシュルキ】胴体部ユニットを、汎用多脚輸送輸送機材車輌の欠けた主砲塔部分と接続し、コントロールユニットとして運用。

 ヒト型の上半身部分の欠けていた両腕は、スタッフがどこからともなく調達してきた【ウルラ】のものが移植され、下半身がわりの多脚輸送車輌部分から高出力換装された主機動力を繋ぎ、また浮遊機関グラビティドライブによる浮上特性を附与。

 これにより、ただでさえ高い走破性を誇る汎用多脚輸送輸送機材車輌に浮上航行能力が加わり、更に便利で快適に生まれ変わったのだ。……たぶん。



 とはいえ、これはあくまでも突貫工事……ありあわせの素材を用いた『仮設』の機体にほかならない。

 六本脚の装甲車に機構鎧の上半身が乗っかったような、見たまんま化け物じみた奇妙なフォルム。私の【グリフュス】よりも人間離れした構造は、機甲鎧と呼ぶのには無理があるだろう。 


 しかしながら、【8号改エルト・カルディア】の暫定呼称を付与されたこの機体……いや、。ベースとして用いられた汎用輸送機材由来のペイロード、そしてそれを贅沢に転用した居住スペースの居心地性能は、私達にとって非常に魅力的なものである。

 それは奇しくも、特空課の遠征訓練のときに目の当たりにした【ウルラ】の胴体後部、代替要員の待機スペースのようなもの。幼さ残るふたりが長期間の野外活動をこなせるように、可能な限りストレスを減らせるようにと、まさにキャンピングカーのごとく居住性が高められているのだ。



 六本の脚で不整地を移動でき、下半身に快適なキャビンを備え、ヒト型の上半身で軽作業もこなせて、しかも空を飛ぶキャンピングカー。

 主機を下半身に移設したことで余裕の生じた胴体背部には、新型の複合通信魔法具が搭載されており、通信網の維持にも貢献できるスグレモノ。


 ……うん、どう考えてもイロモノきわまりないビックリメカではあるが……非武装・非戦闘用の『機材』とて、そのスペックと有用性はなかなかなものだと思う。

 特に、居住スペースが充実しているのが素晴らしい。何といっても狭小とはいえシャワーまでついているのだ。……もしこの機体を私が自由に扱えるのなら、日がな一日じゅうキャビンにこもって存分にえっちなことを楽しめただろうに。



――――ファオのえっち。浮気者。わたしというものがありながら。


(じょ、冗談だって! たとえばだって! えっちなことに使ったり、訓練機で訓練するとかならまだしも……私が命を預けるのは、テア以外に有り得ないよ)


――――ふ、ふーん? ふうーん? ……ま、まあ、そこまで言うなら、これからもわたしを使ってくれてもいいんだよ? 


(もちろん。……頼りにしてるよ、相棒)


――――んへへー。



 ともあれそんな理由もあって、この機体を扱うのは私じゃないわけなんだけど……その運用に際しては問題ないだろう。

 この機体のコアユニットとして使用しているのは【8Skエルシュルキ】の胴体部分であり、つまりその中枢部にはアウラの『魂』というべきもの(の一部)が封じられているものだ。

 当たり前のように、アウラとの相性は抜群。慣熟訓練の機会はほぼ取れず、ハンガー外での試験を行う時間さえ無かったが……しかしそれでも、既に手足のように操れているという。


 また……登録上は『機甲鎧』ではなく『輸送機材』であり、現状としては兵装を登載していないため、軍部より下された『機甲鎧搭乗禁止令』に抵触することもない。

 ここの摺り合わせは既に、軍部のほうと済ませてくれているとのことなので、気兼ねなく安心して運用できるというわけだ。




「……実動試験、は、ぶっつけ本番。だけど……大丈夫、思います」


「はい。アウラさんとの同調も申し分なく、パラメータ全数値にて安定値を記録しています。……前例の無い試作機ではありますが、理論上は何も問題ありません」



――――わたしも、これは大丈夫だとおもう。……おもしろい機体、よかったね、ファオ。


(機体じゃないって。機甲鎧じゃないから、機材なんだって、この機体。……ちがう、機材)


――――ファオもよくわかんなくなっちゃってるじゃん。やらしい。


(やらしくは無いでしょうよ!!)



 それにしても……ヒト型から逸脱した造形の【グリフュス】に、なんかもう蜘蛛の化け物みたいなシルエットの【8号改エルト・カルディア】が追従することになると……見た目のインパクトがすごそうだ。

 その性能自体は申し分ないし、私達は納得の上だとしても、とりあえずは味方に怖がられないように祈るしかない。


 まあそこのところは、搭乗者の『人畜無害おとなし系美少女従者』具合をアピールすることで忌避感の軽減を図ったり……あるいは彼女の『飼い主』である私達の働きで、好感度を稼いでいこうと思う。




 さて、こうしてなんとか準備は整った。

 エルマお姉さまたちに私達の参加を伝えられなかったのは失敗だったが、どうせすぐに会えるだろう。


 なんといっても、私達は……この【グリフュス】を堂々と駆り、空から彼女らの安全を守るという重大な任を下されているのだから。





 たのしみ!!



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