第70話 アレな三兵機
数日間は続くかと思われた、シャウヤの方々のシュト視察――ならびに私達の代休――だったのだが。
ちょっとばかし意外というか……私達が
まー、ちょっとばかし意外だったとはいえ、もともと私達はそのために『待機』の命令が出ていたわけだ。急遽出立が決まったとしても、別段不満があるわけじゃない。一日代休を頂けただけでもばんばんざいなのだ。
とはいえ正直いうと、少しばかり急展開な印象が拭えない。いきなり予定を変更しなければならないような……そんな不慮の事態でも生じたというのだろうか。
それとも……私達が大恩を感じているこの国は、彼女たちにとっては長いこと滞在するまでもない、つまらないものだったのだろうか。
「ちょっと、びっくり、でした。……え、と……ヨツヤーエ、連邦の、しゅと……あんまり、おもしろくなかった……です、か?」
「イヤイヤイヤ! 違う、チガウヨ! ファオもヨシャーエも、何も悪イ無イヨ! だからそんな悲シイな顔しないネ!」
「そう、そうネ! あくまでも
「ソウソウ。エート……アレヨ、例の『共同研究』ネ。早急に準備を整えたい、人員を募りたい思タヨ。……ウン、そうネ。『早急に成果を出す』必要アルネ」
「ウンウン。……ソレに、家付きのワシャワシャするエメト……『リョサンガラ』を取りに来る必要ネ。アはまだまだコノ街を堪能してナイネ、またスグ来ルヨ」
「そ、そう、ですかっ。……えへへ」
私達が『明日出立』の連絡を受けたのは、起きてすぐくらいのタイミングだった。そこから朝の支度をして特務開発課へと出頭し、こうしてフィーデスさんたちと顔を合わせている次第である。
つまるところ、現時刻はまだまだ午前中であり、残念ながらイーダミフくんもエーヤ先輩もここには居ない。……まあ私と違って学業が本分だからな、彼らはな。
いっぽうの私は……まぁヨーベヤ大森林深部への人員輸送には【エルト・カルディア】が必要不可欠なわけであって、その駆り手たるアウラを即応可能にしておく必要から、シャウヤ特使が滞在中の間は学校への出席を免除されている状況である。
なるべくなら軍務を優先、しかし本人の意志を重んじることとする。……特課少尉の肩書きを賜るときに、確かにそんなことを言われていた。
今回のアレコレは、軍部の命令が優先されたケースであり……しかし私は問題なく拝命しました、というわけだ。
ともあれそんなわけで、フィーデスさんたちの事情とやらにより、私達はシャウヤの拠点『キャストラム』へと再び飛んでいくことが決定した。
ちゃんと『代休』も貰えたし、待望の『左手』も付けてもらえたし、お買いものもできたので、私としては言うこと無しだ。
私も(テアも)、そしてもちろんシスもアウラも、この期に及んでは準備などとうにできているため、特に取り乱すことも無い。上司から「明日行け」と言われれば「はいわかりました」と答えるまでだ。
それに……今回の『キャストラム』行きに関しては、我々『特務開発課』としても新たな試みを企んでいる。……まあとはいえ、そんな大層なものではないのだが。
戦闘の危険性も低い、それでいて周辺警戒をそれなりに要する、程々に緊張感のある外部環境……起動試験にはもってこいだろう。
われわれヨツヤーエ連邦国軍規格の動力装置とマッチングを済ませ、再起動に成功した高出力
全損した両腕に代わって重機甲鎧【エリアカ】の大型腕部を移植され、背部には
原型機由来のガッシリした下半身と併せて、意外なほどスッキリとバランスよく纏まった……鹵獲機【
……とても、とても失礼な
――――暫定呼称【
原型機レベルの防壁強度こそ再現出来なかったものの、搭乗者本人の意見も積極的に採り入れて攻撃性能も附与し、限られた時間と資材をやり繰りして見事に起動までこぎ着けた……待望のシス専用機甲鎧(の試験機)なのである。
鹵獲機かつ試験機かつ改修機とはいえ、大々的に『機甲鎧』の識別を与えられているということは……つまり、
私のかわいい従者ふたり、シス・セクエルススならびにアウラ・エルシュルキ。先日のヨーベヤ大森林遠征を経て、彼女たちは晴れて『経過観察』から外され、正式に亡命が受け容れられることとなったのだ。
私ことファオ・フィアテーア特課少尉の従者として、本格的に武装ならびに機甲鎧搭乗の許可が降りた、私のふたりの妹分。
軍部からも『良い子にしてたね、えらいぞ』とのお墨付きを貰えたことで……これ以降は大手を振って、機甲鎧ならびに実戦用装備を預けることができるわけで。
よって……【セプト・カルディア】の起動に併せて、これまでは非武装の『機材』を名乗っていた【エルト・カルディア】も、機甲鎧として改修が赦されることとなった。
本格的な改修は『戻ってからのお楽しみ』だが……取り急ぎ帝国謹製の『魔法外界出力器』を一本だけ、左の前腕に装着してやることができた。
【
こうして、めでたく揃った我々『チーム:ファオとかわいい仲間たち』の3機。なかなかに壮観なのではなかろうか。
肩と尻がデカくて腕が長くて全体的にデカイ空戦特化型と、六本脚の下半身を持つ魔法使いと、ゴツくてデカい腕をもちガッシリした体型のゴ◯ラ。
……うん、すごいな。とてもイロモノ揃いだな、私達な。それにしてもものすごい
「…………見た目は、まぁ……なかなかに特徴的ではありますが、一応カタチにはなったかと」
「えー、っと……はいっ。……でもこれで、シス……わたしと、アウラと、いっしょにおてつだいでき、ますっ。……よかったね、シス」
「…………ありがとう、ございます。……ご主人さまっ」
「……んっ。……シス、と……ご主人さまと、共同作戦」
「えへへっ。……がんばろ、ねっ。ふたりとも」
「……はいっ」「……は、ぃ」
前回の遠征では、アウラの操る【エルト・カルディア】下半身の助手席に同乗していただけ。自分の意志で動かせる機体が無かったシスは、たぶんだけど相当やきもきしていたことだろう。
しかし……今回は、ちゃんと自分の機体に搭乗したうえで、3人
ここ数週間で、それなりに仕事をするようになった彼女の表情筋だが……今日はいつも以上に絶好調の模様。
常人に比べれば『ほんのり』ではあろうが……しかし誰が見ても『嬉しそう』な笑みを浮かべたシスの様子に、私含め特務開発課の面々は総じて『ほっこり』していたのだった。
――――――――――――――――――――
「……セイが出るネ、フィーデス。ヤウが直々に魔法式の構築とは……一体、どれだけ振りネ?」
「…………まーたく、
「仕方ナイことネ。
「……怖いネ、どうしたヨ、トゥリオ。ヨシャーエの飯を食い過ぎて頭のオカシイなたカ? 後で何を請求されるかワカたモノじゃないヨ」
「何ヨ、素直じゃないヤツネ。…………アは単純に、『ファオの為に頑張るフィーデスを手伝う』だけネ。ナニもオカシイはナイヨ」
「…………そうネ。……恩に着るヨ、【
「任せるネ。
「…………相変わらず、呆れたアルムスの量ネ。……だがマァ、今は心強いヨ。今はとにかく、早急にファオの『
「異議ナイヨ。…………ファオと、アウラと、シス……あの子らの身体を弄ばれタは……モトを辿れば、恐らく
「マァ何にせよ、
「ソッチこそ。漏らすんじゃナイヨ、フィーデス」
「ぐ……ッ! 口の減らない奴ヨ!」
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